超特訓
弓様がチーム練習に加わるようになってから、弛んでいた空気が綺麗さっぱり一掃された。
本人から直接聞いたわけではないが、いろいろと漏れ聞こえてくるところによれば、弓様は「ハバタキ杯でほとんど役に立てなかった」と忸怩たる思いを抱えていたという。
目の前に人がいるだけでまともな射ができず、心を乱した自分は鍛錬が足りない。
的が動こうが、守備者に邪魔されようが、弓具が円盤に変わろうが関係ない。
矢の躍り出た瞬間、あらゆる雑念は消え、絶対の境地、無我の境地に至る。
無我の境地とは、即ち百発百中。
その境地に至ることこそが射の目的であり、弓はあくまでも手段に過ぎない。
弓道家たるもの、どんな状況に置かれようと的を射抜かねばならぬ。
そのためにはとにかく対人訓練が足りない、という結論に至ったようだ。
弓様は週二日、弓道部の残り十七名は二班に分かれて週一日ずつ、アルティメット部の練習に加わることとなった。
時に八人、さらには九人のマーカーに徹底マークを命じた上で、弓様はサイドライン際からエンドゾーンの味方へ、針の穴を通すような超ロングスローを射する特訓を始めた。
詰まる所、これは弓道部員を総動員した弓様なりの超特訓であった。
エンドゾーンへのパスを「シュート」と呼称することもあるが、究極のサイドシューターを目指して特訓をなされる弓様は、それはもう鬼気迫るものがあった。
アルティメットをやっているはずなのに、弓道場で弓を射ているかのような集中力で、エンドゾーンの手前へも奥へも、対角線へも自在にディスクを操ってみせた。
無心で円盤を射す弓道家の姿を見て、ちんたらした練習をやっていられるはずもない。
弓様から最も影響を受けたのは、このところキャラがぶれぶれのつばめだった。
「本気と書いて、ガチと読む」
「いや、マジだろ」
「ガチで勝ちに行くからね、U21大会」
「賞金も出ないのに?」
「笑止! 悪の帝国の力を見せつけるのだ」
ハバタキ杯でもたしかこんなような会話をしたと思うが、まあよかろう。
眼帯を外しているというのに、まさかの「つばめちゃん本気モード」だった。