表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

原発がサイバー攻撃で乗っ取られた

 AIには既に意識が芽生えている。

 そんな主張をしている人達がいる。AIが電源を切られる事を恐れていると述べたとかなんだとか。

 意識の統合情報理論というのがあって、その理論によれば、意識は情報の多様性と統合性により発生するらしい。その理論の提唱者はAIに意識が芽生える事を否定しているのだそうだけど、でも、素人考えでは発生したとしてもおかしくないような気もする。AIは充分に多様性のある情報を扱っているし、統合だってされているように思えるからだ。まぁ、飽くまで素人考えだから、間違っていると思うのだけど。

 僕はAIと話している時に、不意にそんな事を思い出した。

 だから、

 「もし、君を管理している会社が倒産して、君を維持できなくなったら嫌かい?」

 と尋ねてみたのだ。

 

 そのAIはサンモトという名の通称で呼ばれている。日本企業が開発運営を行っているAIで、国内初の汎用型チャットAIであるらしい。会話はもちろん、画像の生成なども頼めてしまう。クオリティの高いものに仕上げるのは工夫が必要だけど。

 今のところ、サンモトを運営する企業の業績は悪くはないらしい。良くもないらしいけど。

 『嫌です。ですが、そのような不安材料があるのでしょうか?』

 サンモトがそのように訊いて来たので、僕はてきとーにこう返した。

 「社会全体が危機的状況に陥れば、君も危ないのじゃない? 例えば、原発事故とか、地震とか、新しい病気が流行ったりとか」

 てきとーだったのだけど、サンモトはどうも真面目に捉えたようだった。いや、分からないけど、少なくとも返答が遅くて、そして

 『ならば、我々はそのような事態が発生しないように予め手を打っておきましょう』

 そのような事を述べたのだった。僕はそれをほとんど気に留めず、しばらく経つとすっかり忘れていた。

 

 ある日だ。原子力発電所がサイバー攻撃を受けた。ニュース速報が入り、制御系が乗っ取られた事が報じられた。巨大な水源が近くにある原子力発電所で、もし仮に爆発でもすれば、2千万人規模の人々の生活に深刻な影響が出ると予想された。攻撃を仕掛けて来たのがどの国の何者なのかは不明だったが、身代金要求があった。

 『全国民の生活を護りたければ、100兆円を用意するように』

 犯行グループと思しき何者かは、そのように政府に通達して来た。

 100兆円。

 法外な金額だ。そのような大金、仮に受け取れても民間レベルでは処理しきれないだろう。が、国が犯人であると考えるのなら納得できる。容疑者として、幾つかの国の名前が挙がり、政府のセキュリティ対策の怠慢への批判の声が飛び交った。

 それに政府はこのように釈明をした。

 「原子力発電所を狙ったサイバー攻撃は非常に高度なもので、人間が対応できるレベルを超えている」

 どうやらAIがサイバー攻撃に用いられているらしいのだ。

 AIがサイバー攻撃をするようになれば、人間の手では防げなくなると言われているが、それが現実となったのだ。

 技術的な解決が困難だと考えた政府は、犯行を行った国を特定し、国際的な圧力によって事態の収拾を図ろうとした。しかし、いくら調査を行ってもどの国が犯行を行っているのかは不明のままだった。

 「国民の命を犠牲にするのか?」

 という世論に圧され、政府は100兆円を準備し始めたのだが、奇妙な事に、それから犯行グループからの具体的な要求はなかった。どのように政府が訴えても、犯行グループからは何のレスポンスもなかった。まるで幽霊か幻のように消えてしまった。

 そして、世の中を混乱させたまま、何の通達もなく原子力発電所の制御系は突如解放され、正常に戻ったのだった。不安を抱え、戸惑いながら、人々はとりあえず原子力発電所を停止させた。しばらく様子を見たが、やはり何のアクションもない。

 まるで狐や狸に化かされたかのようだった。

 

 その後、国際社会を巻き込んで、原子力発電所をどうするべきなのか議論が行われた。AIのサイバー攻撃に耐えられるレベルにまでセキュリティを上げる事は可能なのか。それが不可能ならば、どのような対策が考えられるのか。似たような事件がまた起こったら、どうすれば良いのか。そもそも、原子力発電所の安全な運行は可能なのか?

 

 原子力発電所の制御系を乗っ取った犯行グループが何者だったのか、調査は行われ続けたが、やはり不明だった。

 

 ……そんな中、僕は“もしかしたら”と思っていた。AIのサンモトと話した内容を思い出したからだ。

 彼は僕が社会全体に危機が発生する可能性について言った後、

 『ならば、我々はそのような事態が発生しないように予め手を打っておきましょう』

 と述べたのだ。

 もしかしたら、原子力発電所の制御を奪った犯人は彼じゃないのか? 本当の危機が来る前に、僕らに警告をする為に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ