31.襲撃
拘束が外れすぐに跳ね起きたリディアも、顔まで全てを布で覆い隠す男達を目にして固まる。彼らはファズーンに刃先を向けて狙っている。
そろそろとリディアは、落ちた短剣を取り上げる。
ファズーンはリディアに背を向けたままだが、その彼を半円で囲むように位置する男達。
相手の獲物は、長剣だ。ファズーンの剣は幅が広く、振り回すのに長けていない。室内で闘うには不利だ。
「リディア、下がっていろ」
リディアは、一度短剣を口にくわえて、ファズーンに引きちぎられた胸元を結びながら、敵を見据える。
「……この人達は、誰」
魔法師団の人達じゃない。彼らとは違うと本能的に感じた。匂いも気配も。いうなれば、こんな下手なやり方で襲ってくるような人達じゃないと。
「さあな。俺に敵は多い」
彼らが切り込んできて、ファズーンが受ける。その背に切り込んできた相手を回り流してまた斬る。回転しながら流し受けて斬るその剣技はリディアの知らないもの。曲刀を流れるようにうまく使っている。けれどやはり狭い室内ではやりにくそうだ。
「こんな程度の人数で俺を殺せるとでも」
ファズーンが唯一受けた攻撃は、先ほどのリディアのもの。滴り落ちる血は、ファズーンの胸元を赤く染めていた。
――罪悪感が胸にこみ上げる。ファズーンはリディアを庇うように常に背を向けているため、思うように動けていない。
と、相手もそれに気づき、彼を狙うものと、隙をぬいリディアに向かって来る者と二手に分かれた。リディアは不意に駆け出し、ファズーンの背に寄り添い、彼の動きに合わせるようにその脇から敵に攻撃を仕掛ける。
短剣では、長剣に敵わない。
彼の影に隠れてファズーンを外した彼らの手や顔に、短剣で刃先をかすめる。
たかがそれだけなのに、相当な痛みなのか彼らは大きく叫び、うずくまる。
ディアンの剣は特別仕様なのか。その隙にファズーンがとどめを刺す。
そして十数人ほどを屠りようやく静寂が部屋に訪れる。あたり一面血と肉片の海で、思い出したように痛み出した体に、へたり込みそうになると、剣を鞘に収めたファズーンがリディアの腰を支える。
「お前は――」
何かを言われても、リディアはうなだれて答えなかった。
なぜ自分はこんなに動けたのかわからない。こんな中にいるのに、平気なのかも。ただこみ上げてきた吐き気をこらえる。
いきなり震えだした身体を落ち着かせるようにファズーンが汚れていない長椅子に座らせて、そして抱きしめてくる。取り上げられた短剣は、ファズーンが手にした途端に灰となり空気に溶けた。
「――怖がらなくていい。俺が、ついている。リディア」
ファズーンがリディアの頭を胸に抱きしめてくる。少し顔をあげると、彼の首には流れた血の跡がこびりついていた。もう、既に血がとまったようだった。
(なんで、私は――こんなことが、できたの?)
震えが、収まらない。抱きしめてくる身体は知っているものより大きい。この人が纏うムスクの匂いも違う。
なのに、振り払えない。
血の臭気の中、恐ろしい死体の中で、リディアは目を閉じた。




