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124.ルーン


 隠れて見ていたシヴァが言ってくる。


「じゃなきゃ、照れたりするだろ。てか、アイツなら眉を吊り上げて、『感心しません』って注意してくるだろうな、内心抱きしめてほしいって思ってんのに」


 リディアはシヴァのそれを無視した。確かにキーファの反応を試したけど、それをこの人から茶化されるのは不快だ。


「ちなみに、これもアイツら聞いてんだろうな。あのディックとか団長とかまたムカついてんだろうな」


 これも無視した。


「本気で抱きしめられたらどうするつもりだったんだ」


 しつこい。顔をのぞき込んでくるからついに答えてしまった。


「それはそれでいいの! 別に女同士の姿なんだから」


 キーファに悪いことをしてしまった。本気で呆れた目をされたのが、少し傷ついた。


「記憶はあるみたいだけど、私みたいに魔神の力が使われているのかもしれない」

「つまり、ジャイフってことだな。ミイラ取りがミイラになった、てことか」


 キーファはリディアより有能。そう信じていた。もちろんそうだけど、あまりにも任せ過ぎたのじゃないだろうか。


「アイツも、それを覚悟でここに来たんだ。別に心配しなくていいんじゃねーの」

「そういうわけにもいかない」

「アンタは、自分の記憶を取り戻すんだろ」


 そうだった。全然それが果たされていない。期日はもう明日だ。


「そして、塔の主人を起こしてくれよ」


 シヴァの願いはそこだ。何も話してくれない、味方なのかわからないのは彼も一緒だ。


「あのね。あなたこそ何もしていないでしょ……」


 そう言いかけて口を閉ざす。ここ最近、彼は姿を消していた。何をしていたのか不明だ。

 リディアはここに幽閉されているから外の世界から誰かが来て情報を与えてくれるしかない、けれど彼が一番つかめない。


「あなた、何かを伝えに来たんじゃないの?」


 しばらく黙って、シヴァは懐から木の飾りを取り出す。それはシヴァが持っていたのと紅妃が持っていたのを合わせたディアノブルの塔の鍵だった。


 何の材質かも不明、ただ木製に見える。


「これ、アンタならわかるんじゃないかと思って」

「どうして……」


 黙ってしまうシヴァにリディアは手に取る。確かシヴァに返したと聞いていた。紅妃から盗った完全形はディアンたちが持っているかと思っていた。


「盗んだの?」

「アンタに渡すと言ったら貸してくれた」


 シヴァの言い分は本当かどうか不明だ。ただ妙に懐かしい。


「これは……アンタの娘から貰ったから、アンタならわかるかもしんない」


 そんなこと知らないとは言えなかった。実感がない自分の娘。でも何らかの解決策になるのだろうか。自分が彼女にあげたのだろうか。


 シヴァが持っていたのはただの長い棒だ。紅妃のものは円にアスタリスクが埋め込んである、両方とも材質は同じ。表面はなめらか、経年を得てもさほど汚れていない。


「一晩預からせて、儀式までに考えてみる」

「……頼む」


 あんなに大事にしていたのを渡したのは何か理由があるのだろうか。ちらりとまた不審がよぎるけれど。


 リディアは胡散臭げに彼を見て、それから手で招く。本当はキーファに頼みたかったけれど、あの様子だからできなかった。


「代わりに、一つお使いを頼まれて。彼らにこれを渡して」


 リディアは布包を渡した。その中にはリディアが施した数々の刺繍が入っていた。



***


 今夜は風が強い。こういう晩は「魔神が荒れている」と言い、早く寝た方がいいのだという。

 ペトラは早々に奥に引きこもってしまった。窓に緞帳を二枚下ろすように伝えて、ランプの灯りの下でリディアは考える。


 シヴァにはキーファのことは全くわからないと答えたけれど、リディアは彼の衣装の刺繍を思い出す。吊り下げラッパの形の花――ダチュラ。

 別名、チョウセンアサガオ、毒草だ。


 あまり縁起がよい花ではなく彼が選ぶには意外。

 

 何かのメッセージだろうか。誰かに毒が使われている?


 キーファの態度は他人様で演技には見えない。けれど意図もなく選んだと思えない。


 鍵と言われれば、こちらもそう。シヴァから渡されたアレスティアの鍵を見下ろす。


 古今東西、あらゆる鍵がある。形を非対称にして差し込むものから自分の生体情報と照合してロックを解除してもらうものまで。


 比喩的なかぎもある。物語の解決策となる情報も『キー』という。


「でもこれは言葉ではない」


(言葉?)


 そう思って眉をひそめる。


 違和感が形になる。まず紅妃とシヴァが持っていた箇所を分解する。棒と円の中にアスタリスクが入っていたもの。これは分けていたのだから当然。


 ただ、何故分けなければいけなかったのだろう。


(……それは保留)


 車輪のような丸を動かしていて、息を止める。ぬくもりを感じて手に馴染むよう。いじっていたから体温が移ったのとは違う気がする。

 反応したような気がした。


 うまく外れず壊してしまいそうで怖いけれど、円状の構造ははめ込み式だ。丁寧にパーツを外していく。


 すべてを分解して今度は組み合わせるといくつかの図形になる。



「これって……」


(イス)”忍耐”、(ティール)”勝利”、(ケン)”情熱”、(ラグ)”運命に進め”、(エオルフ)”保護”、(ギュフ)”贈る”、(二―ド)”無敵”」


 この文字をなぞりながらリディアは呟く。


「……ルーンだ」


 ここがオーディンの街とディアンたちから聞いた。ルーンはオーディンの力ある言葉で、リディアが得意だったものだと。


 この飾りの全てのパーツが使われているわけではない。ルーンにならないものもある。ダミーなのか、それとも自分の知らない意味のルーンがあるのか。


(後者の可能性の方が高いけど……)


 過去の言語だ、全てが解明されているわけではないだろう。


 リディアは記憶はなくても、この国の言葉もグレイスランドで使われている共通語がわかる。なぜかルーンもわかる。ルーンは一つの文字にいくつも意味があり、単体で読み取る時も、文章にもできる。読み取るのはその者次第。


「読みとると『――耐えよ、運命に進め、さすればそなたを守り無敵とし勝利を約束する』?」


 リディアは自分が読んだ単語で文章を作った。


 シヴァは塔の主人からどのような経緯で貰ったのだろう。そしてこれは神からの言葉? いずれにしても、そうならば神は必ず約束を果たす。



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