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119.新しい能力


 リディアが言えば、目の前のグレンが笑いを止めてこちらを見た。怪訝そうな顔に言い放つ。


「どこか敵わないと思わされてきた。でも、そう思わされていただけ。ならば倒せるでしょ。そんな相手が儀式を成功させられるわけがない」


 ディックが振り向き目元を緩めて笑う、そうすると怖そうな顔が一気に反転し、人好きする顔になる。リディアも勝ち気な笑みを返す。

 負けていられない、でも、まだまだ足りない。考察力が足りない、力が欲しい。ディアンの手を強く握る。


「いいね! そうこなくちゃリディア」


 リディアは大げさに喜んでいるような、グレンには答えなかった。


「君たちはシヴァと手を組んでいるみたいだけど、彼も目的を間違えているね。塔の主を目覚めさせれば、塔が復活する、そうすればアレスティアが復活する。どこが目的なのか? 彼は塔の乙女の目覚めしか願っていない。逆の順でしか目覚めないとすれば? ジャイフも間違えているね。塔を目覚めさせて神を操る? 連鎖でしか考えていない。その一つ一つが独立したものと考えているのか、関連だけなのか、そうなるとどうなるのか結果が見えていない」


 塔の乙女を目覚めさせるにはどうしたらいいのか? どうしたら起きてくれるのか。

 塔が復活するにはどうすればいいのか、その結果どうなるのか。

 そして、アレスティアが復活するにはどうすればいいのか、そうしたらどうなるのか。

 どれも阻んで目覚めさせないようにするのが正解なのか。どうしたらいいのか。


「関連はしているし、連鎖もしていそう。でも、どこかを断ち切れば全て防げるの? もともと昔からされていた儀式でしょう? ジャイフがいなくなれば全て起こらないの?」


 過去ではエーロ姫が乙女であったと聞く。魔神も伝えられてきた存在。ならば儀式はあったはず。


「形骸化した儀式として一部は行われていたよ。別にそれなら僕が出てくることはなかった。どこの国、どこの部族、どこの街や村だって受け継がれて来たものはある。まあ奇跡が起こるなんてものはそうそうない。神が降りたり蘇るなんて……」


 そしてグレンはリディアを見て首を傾げて笑う。


「――あるかもしれないけど、ね」


 含んだ笑いになぜか胸が複雑に騒いだ。何かを過去に自分は起こしたらしい。それがいいことなのか、悪いことなのかはわからない。

 ディアンが後ろで、身をかがめ「気にするな」というから、多分自分が起こしたことだろう。


「今回は、ジャイフが魔神を操り始めたからもう止まらない。神に手を出せば最後に決着をつけるまで。そもそも、塔の主のことも限界だった。君たちが生まれて、結ばれて、だからこそ時は動き始めたのだから」


 ディアンは何も言わなかった。リディアもそうだ。自分の娘が塔にいるというならば、確かにディアンと結ばれていなければそうならない。


 リディアは目を閉じて深呼吸をして、それから再度目を開けた。


「迷わない、それは何度でも言っている。もう助けると決めたなら、娘じゃなくても誰でもね。ジャイフは倒すに値しない、自滅する。自滅する奴は、必ずその方法に穴があるはず、その隙に穴を大きくする」


 黙って皆が利いているから、間違っていないはず。


「儀式では必ず何かは起きようとするはず、それが自主的にか、ジャイフによるものか――どちらかというとジャイフが自分に有利に運ぶようにするでしょ。それが防げないなら――」


 考えながらまとめていく。


 対抗するには、自分たちの能力の解放だ。それぞれの目覚めに対応できるような力が必要。けれど塔自身やアレスティアなど意思のないものには対抗策がない、遠い存在の塔の主には目下、干渉はできない。


 だとすれば魔神、オーディン、もしくやそれの目覚めへの何かの力や現象に対応できる能力、それからジャイフに対抗する力がその時に必要。


 この空間や街の作りが当日どう影響するのかも、考えておかなきゃいけない。 

 ――結局は勝る力だ。


「協力への条件。グレン(黄妃)は魔導師。ならばこの空間でも私たちの魔法が使えるようにして」


 黄妃は探るように黙っていた。それから紅を塗った唇がゆっくり動く。


「リディアにも?」

「できる?」

「やめておいたほうがいい。記憶がない今は、制御不能だ」


 ディアンの言葉にリディアは振り仰げない。ディアンが黄妃ではなく口を開いてきたことに不満はないが、残念だ。けれど、グレンはディアンたちについては言及していない。


「リディアは別の力を得つつあるよ。もっと原始的なもの」

「どういうことだ」


 どうしてグレンは魔法について詳しいのだ、と思い、魔術師の総長という立場を思い出す。すべてに秀でていて当然だ。


「君たちの魔法に必須な六属性は自然界にあるもの。けれどリディアはその先の“生”を操る力を持っていた。生は、どこに所属するのか。現象? 概念? 定義は難しい。一つ言えるのは他が無機物、けれど生命体は有機物、そして心がある」

「なにが、言いたいの」

「君の“生”を操つる力は有機体に働きかけことができる魔法だ」


 言われている意味はわかる。ただ魔法に関連してのすごさがわからない。そして、周りのみんなが動揺しているのがわかった。


「死は生命活動を失ったこと。細胞の死、そして心も失う。蘇生魔法は、両方、もしくは片方だけでも活動を戻す、もしくは引き戻すことができるようだね。死すと心がどこに行くのかはわからないけれど。君は植物でも蘇生ができる、これが片方だけといった意味だけどね。そして人間に対しては肉体と精神の両方に働きかけることができる。あまりにも稀有な能力だ。ただ、僕も部外者だからそこまで詳しくはわからない」


 そもそも、と彼は続ける。


「こんな能力を、よくも調べずにいたよね。よほど君は彼に大事にされているらしい」


 リディアはディアンが肩に乗せた手が、熱くなっていくことに気がついた、体温が移っているかと思えば、それ以上に熱くなり熾火のようだと気付いた。

 マグマを中に秘め、でもそれを硬い岩盤で覆い堪えている。あとは火薬に引火するとそれが崩れると警告している爆発物だ。


 なのに、外は冷えていく。ここは砂漠地帯で碧佳宮は風通しがよく、湿気がないから汗をかくほどの暑さではないけど、冷気が場を満たしていくその現象は異常だ。氷室にいるかのような寒さになっていくのに、肩に置かれた手からリディアだけ全身が守られている。


 前に、街中でシヴァが挑発し寒さを感じた時と同じだ。

 なによりもそれ以上言ったら殺す、という殺気に近いものを感じる。グレンは気にした様子もないけれど。


「心に作用することができる魔法は、魔術にも近い。けれど魔術に蘇生はできない。どちらの特性も持っている特殊性。今、蘇生魔法が使えないリディアは、何かが目覚めようとしている、だから今はそのままに任せた方がいい」


 精神に働きかける魔術、自然の属性に働きかけて現象を起こさせる魔法。心がなくなったものは何になる? それに働きかけて心、もしくは生を与える自分の魔法。まるでピノキオをつくるかのようだ。


 でもピノキオは人間じゃなくて木彫り人形だ。


「まあ、いい」


 静まり返った現場でディアンが言う。


「一つ聞きたい。なぜ、オーディン神がアレスティアの城を守っているのか。もしくはディアノブルの塔と関係あるのか」

「そうだね。サービスで言うと過去に落ちたアレスティアを守ると誓約を交わした国があったらしい、オーディン神を信仰とする国がね」

「信仰していたからと言って、民が守る必要はないだろ」

「古き時代は、民は王のために生きる。王の約定は神に捧げられる、それにより神の力は王に宿る」

「つながったな」


 そうポツリとシリルが呟いた。


「ヴァルハラは、アレスティアを守るという過去の誓約に縛られている国。塔はアレスティアにおける重要な力の源。そういう関係だよ」


 しばらく沈黙が下りた場に、リディアは尋ねる。


「で、ジャイフへはどうすればいいの?」

「それこそ君たちの十八番。綿密な情報を得て作戦を練る、そして当日の行動は臨機応変。任せるよ」


 シリルが鼻を鳴らす。不満は出てこなかった、グレンは自分たちにしてもらいたいのだ。


「僕は“情報を提供した”んだよ」

「お前は俺たちの邪魔をするんじゃないだろうな」

「まさか。それはない」


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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