ショートホラー第13弾 「カブトムシが机の下からじーっとこちらを見ている」
学生時代のことだった。
昼食を終え、眠気と戦いながら授業を受けていると消しゴムを落としてしまった。
拾うために机の下に潜り込むと……カブトムシが机の下からじーっとこちらを見ていた。
実際に目があるわけではないが『見ている』と感じたのだ。
(え?カブトムシ!?)
おかしい。だって今は冬だ。なぜこんなところにカブトムシがいるのだろうか。
私は驚きのあまり声が出ず、そのカブトムシを凝視することしかできなかった。
すると、カブトムシはシャーっと威嚇するように鳴き始めた。
はたしてカブトムシってこんな風に鳴くのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる中、私の頭にはある言葉が浮かんでいた。
(ああ、夢か……)
そう思い授業に集中することに。
だがいつまでたっても覚める気配はない。
授業が終わり机の下を除くとカブトムシは居なくなっていた。
それからというもの、机の下を除くとカブトムシがじーっと見ていることが度々あった。
家でご飯を食べている時。
試験勉強をしている時。
職場で仕事に煮詰まった時。
ふと机の下を見るとカブトムシが居てシャーっと威嚇する様に鳴く。
そして気づくと居なくなっているのだ。
だが歳を重ねるにつれ、その鳴き声も少しずつ変わって来た。
最近では『……ケテ……助ケテ』と言っているように聞こえる。
そしてその声は懐かしき今は居ない友の声。
そうか、あいつカブトムシに転生して俺を見守ってくれてるんだな。
あいつの篤い友情に何だか涙腺が緩んでしまう。
ありがとうな。俺、頑張るよ。
『……助ケテ、許サナイ……ヨクモ……ヨクモ俺ヲ突キ落トシ……』
カブトムシが、鳴いた。
俺はゆっくりとカブトムシを足で踏みつぶした。