「なろう」に対してなら、何を言ってもいいのか?
はじめてエッセイを書きます。
本来ならば読むと楽しくなる、読んで良かった、と思われるような話を書くべきなのでしょうが……。
申し訳ないことに、読んでもスッキリしないお話をします。
数日前、SNSでちょっと話題となった事柄があります。
名前は伏せますが、新興出版社(?)が掲載したコラムです。
出版社といっても登記情報などの会社概要が見当たらないため、実際のところは法人ではないと思います。
いわゆる電子書籍の製作をお手伝いする組織――といった印象です。
同様の集団として過去にも、”埋もれたネット小説を世に出す”とスローガンを掲げた”北極圏に生息する哺乳類の名を冠した”組織が存在しかけました。
今では電子書籍を出す人も多くなりました。
少し勉強すればその方面にうとい人でも、それなりの仕上がりになるそうです。
とはいえデータやイラストを用意するのに手間がかかり手続きも面倒であることから、こうした一連のタスクを代行する人もいます。
こう見ると、上記の組織は出版社というより代行者集団や同人サークルにちかいかもしれません。
少なくとも僕たちが『出版社』と聞いてイメージする、しっかりしたものとは異なります。
(なので、ここでは出版サークルとします)
さて、問題のコラムを掲載した出版サークルです。
新興のために積極的にアピールするためか、昨年末にいわゆる「読みます企画」を立ち上げていました。
読みます企画とは、作品を募集し、企画者が作品を読んで感想などを述べるというものです。
SNSでもしばしば見かけるものですが、今回は他と少し異なっていました。
募集する作品の条件です。
・先着○○名
・世界観がしっかりしたファンタジーであること
・長文タイトルではないこと
・ゲーム要素がないこと
などが条件として挙げられていました。
この時点でなんとなく、いわゆる「なろう系」とはちがうものを求めている――という印象です。
おそらくですが、主人公が異世界に飛ばされて、なぜか異性にモテモテで、冒険者になって、ギルドがあって、ステータスやパラメータがあって……。
そういうお約束の、よくあるパターンではないものを欲しているのでしょう。
条件の中にある「世界観がしっかりしたファンタジーであること」と「ゲーム要素がないこと」。
これについては限定している理由は分かります。
どちらも作品内容そのものに対する条件だからです。
しかし「長文タイトルではないこと」。
これが分かりませんでした。
そもそも読みます企画で作品を募集しているのだから、タイトルはそこまで重視する項目ではないと思うのです。
書店の本棚に陳列されて、お客さんに手に取ってもらうため、他書に埋もれないために……というなら分かります。
しかし今回は企画です。
おまけに先着順です。
読んで選評する、というものにタイトルなんてどうでもいいのでは……という想いはありました。
とはいえ、自作『アメジストの軌跡』はその条件の全てを満たしていると思ったので、僕も応募しました。
そこまで限定しての企画、自作がどのように評されるのか……という楽しみがありました。
結論としては、この企画そのものは素晴らしい試みだと思いました。
興したばかりでまだ名前も知られていない出版サークルです。
このような企画もPRの一環と考えれば分かります。
頂戴した選評も、少なくとも10万文字以上読まれたうえでのものでしたし、べた褒めでもなければ酷評でもない見事なものでした。
ところが、です。
2月4日 同出版サークルが公開したコラムがちょっとした話題となりました。
『ライトノベルとは何か?』という品題に始まり、ライトノベルの歴史や定義、web小説の隆盛などが記されています。
そこで終わっていれば読み応えのあるコラムでした。
(僕は浅学なのでそう思いましたが、詳しい人からすると浅い内容なのだそうです)
問題はあとに続く、『現在の『ライトノベル』の問題点』という記事です。
問題点とするからにはネガティブな内容であろうことは察しがつくのですが、方向は少しちがっていました。
記事はライトノベルの短所を挙げ問題提起しているというよりは、ライトノベルを低劣なもの、大衆に媚びる量産品と位置付けているようでした。
・ライトノベルは軽くて読みやすい
・ライトノベルを読んでも読解力は身につかず思考力は育まれない。書いてあることしか読み取れなくなり、人生を深く生きる力は育たない
・ライトノベルは読書の最初のステップであり、思考しながら読み進める文章ではない
・なろう系の流行により代わり映えしない作品の量産につながった
・さらにランキング本位の粗製乱造が始まり、ウケるタイトルやランクインの手法が重要視され、ともなって中身の陳腐化が進んだ
・ライトノベルは登場人物の個性をセリフの語尾で書き分けたがる(役割語)。だから英訳したら役割語が消えて区別がつかなくなる。ゆえに海外では売れない
・以上の理由からライトノベル(なろう系)はダメ
という具合でした。
以上は要約なので、丸ままこのとおりということではありません。(念のため)
ニュアンスが正しく伝わらないのは良くないので……。
(ちなみにコラムを読み進めていくとライトノベル批判からweb小説批判、なろう批判へといつの間にかブレていきます)
正直、このコラムを見て悲しくなりました。
同出版サークルが目指すところは”高尚”のようです。
実際、他のコラムやランディングページにも”良質な読書を”などの文句があります
それは良いと思うのです。
格調高い、高品質な作品を届ける……というポリシーは素敵なことです。
しかしその主張のために、ライトノベル(というかなろう系)を低劣なものとして貶める必要はないと思うのです。
多くの創作物、作者、それらを世に送り出してきた出版社への冒涜とさえ感じます。
選民意識のようなものが垣間見え、僕はこの企画に応募したことを残念に思いました。
結果としてこのようなポリシーを持つ出版サークルに、わずかでも関わってしまったことを恥ずかしく思っています。
SNSを見ていて感じることですが、どうにも「小説家になろう」さん関連の事柄――なろう作家、なろう作品、なろうテンプレ、なろう系作品――は揶揄しても許される、そんな空気があるように思えます。
むしろ面白おかしく揶揄して延々盛り上がっている……というやりとりも見たことがあります。
その風潮はまさに今回のコラムが主張することと同質ではないでしょうか。
なろう関連を嘲謔することで溜飲を下げているのか、相対的に自分たちの好きな作品やジャンルを優としたいのか、その意図までは分かりません。
ただ、低劣なもの、低俗なものと執拗に蔑するさまは下劣ではないでしょうか。