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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第一章 春、輝いて
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第6話 寂しがり屋です

 菊池可奈子が加総研に加わり、早速部活がスタートした。


「ねえ、部長。戸成さんって呼んでもいい? 私達、同い年だもんね」

「いいえ。部を立ち上げた私は先輩であり部長です。これからずっと部長と呼ぶように。それと敬語は徹底しなさい」

「えー、厳しいな」


 晴香は慣れ合う気はまるでないらしく、上下関係を徹底した。

 恐らく早々に辞めさせようと目論んでいるに違いない。


「じゃあ、菊池さんはこの本を来週までに読んできて」


 晴香はあの加速理論入門編を可奈子に手渡した。


「こんな分厚い本を? やだなー」

「あのね、これは加速研究をするのに最低限読まないといけない本なの。読んでこなかったらクビにするわよ」

「そんなこと言われても、自信ないなー」

「土日の二日で読めるわよ。それぐらい余裕でしょ」

「土日は独りDVDの予定が……」

「独りDVDは予定でも何でもないの!」


 イラつく晴香とマイペースな可奈子の会話を聴き流しながら、大志は考え事をしていた。


「ねえ、先輩からも言ってやってよ」

「え? ああ、何の話だっけ」

「もう。他人事みたいに言ってくれるわね」


 大志の返答に晴香は余計にイライラしてしまった様だ。


「ごめんごめん、なあ戸成、こっちの事も大事だけど、一応ワンダーフォーゲル部の予定も見といてくれよ」

「え? あ、そうよね。兼部してたんだった」

「戸成の他に三人程入部したって坂井先輩が言ってた。そんで今度初心者用のルートで歩きに行こうかって計画してるんだ」

「それっていつ頃?」

「ゴールデンウイークだよ。初日と翌日の二日間の計画だ」

「え? 泊りって事?」


 晴香は頬を紅くした。


「えっと、それは間違いないんだけど、女子は女子、男子は男子で分かれて寝るんだ」

「あ、そうよね。そりゃそうだ」


 晴香は勘違いを暗に指摘されて、余計に紅くなった。


「なんだか私だけ仲間外れにしてないですか?」


 不満顔で可奈子が割り込んできた。


「いや、あれだよ。俺たち兼部してて、そっちの方も顔を出しとかないといけないんだ」

「じゃあ、先輩たちがそっちに行ってる間、私はどうしたらいいんですか?」

「まあ、加総研は休みになるね」


 ただ普通に返答したつもりが、可奈子は猛烈に不満顔になっていた。


「オカ研を諦めて加総研で楽しくやろうって思ってたのに、私だけ置いてけぼりなんて酷いわ……」

「いや、それは申し訳ないと思うけど、仕方ない事なんだ……」


 肩を落とす猫背の背中に慰めの言葉をかけていると、突然可奈子は大志を振り返った。


「決めました」

「何を?」

「私もお二人みたいに、ワンダーなんとかと兼部します」

「は!」


 何をどう気に入ったのか、可奈子は大志と晴香にスッポンのように食らい付いてきた。


「いや、山歩きだし大変だよ? 見た感じそういうの得意そうに見えないよね」

「見くびらないで下さい!」


 ピシャリと言われて大志は口を閉じた。


「私、やると決めたらやる女なんです。こう見えても高校時代自転車通学だったんです」

「すごい勾配の坂を毎日上ってたとか?」

「いえ、平坦な道を十五分程度。それでも三年間通い続けました」


 ちょっと自慢げに言った内容は誰でもやっている事で、想像以下だった。

 見た目と同様、ほぼ間違いなく平均以下の体力しかないに違いない。

 ただ置いてけぼりが嫌なだけで山岳登山の世界に入ろうとしている可奈子を、大志だけでなく晴香もげっそりと眺めていた。



 加総研のミーティングが終わって、大志と晴香は大学から出て市内にあるコーヒーショップに来ていた。

 寮の夕ご飯の時間があるので三十分程度の時間しかゆっくりできなかったが、晴香はどうしても二人きりになりたかったのだった。


「やっと二人きりだね」


 コーヒーショップの席は結構空いていたが、晴香はわざわざ並んで座れる席を選んで大志にくっつく。


「あの、くっつきすぎじゃないか?」

「いいじゃない。デートなんだよ」


 大志は近すぎる晴香にあたふたし、晴香は恥ずかしがる大志にかまわずスリスリしている。


「いや、他にお客さんもいるしさ、それに大学から近いし、誰かに見られそうだよな」


 そのひと言で晴香の表情が一変した。


「なに? 私と付き合ってるって知られたらまずい訳? つまり浮気してるって事なの!」


 瞬間湯沸かし器のように怒り出した晴香に大志は慌てる。


「いやいやいや、そうゆうんじゃなくってあれだよ。冷やかされたりするだろ」

「そんなの関係ないじゃない。冷やかすってことは裏を返せばひがんでるって事よ。かえって二人はこういう関係ですって見せといたほうがいいんだって」

「そうゆうもんかなあ」


 そういいつつも、大志の性格上、晴香のようには積極的になれない。


「もう、先輩硬すぎ。そんなんじゃ私を他の誰かに取られちゃうかもよ」

「えっ?」


 晴香は大志を上目遣いで見ながらフフフと笑って見せた。


「ねえ先輩、実は私、同じゼミの子に早速合コン誘われてるんだ」

「そ、そうなの? で、行ったりするの?」

「どうしよっかなー」


 晴香は上目遣いで大志の反応を窺っている。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」

「いや、まあ、あれだよ。きっとつまらないよ」

「行ってみないと分からないじゃない」

「そうかも知れないけど、行かないほうがいいかな……」


 とうとう本音を覗かせた大志に、晴香は嬉しそうにはにかんだ。


「先輩がそう言うならやめとこうかな」

「うん。それがいいよ。そうしたほうがいい」

「じゃあ、合コンの予定の日は空いちゃったから先輩が埋めてね」


 何だか晴香の計画通りに嵌ったみたいな感じになったが、それはそれでいい感じだった。


「うん。分かった」

「約束だよ」


 二人ともドキドキしながら注文したカップに口を付ける。

 また少し二人の関係が、晴香の行動力のおかげで進みだした。


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