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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第三章 世界の理
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第2話 二人の違い

 影山の立てた計画の第一段階を実行し終えた大志達は、サポーターである角谷圭三とも接触し、仁美の暗示を用いて那岐に関する情報を聞き出した後、もし那岐が接触してきたら、潜伏している場所を聞き出すようにと暗示を与えておいた。

 那岐の恋人である桧山このえには仁美の暗示が通用しないので、マンションの管理者に、毎日監視カメラに那岐が映っていないか確認するよう暗示をかけておいた。

 これで那岐が接触してきたら、こちらに動きが分かるようにはできた。

 そして大志達は相手が網にかかってくるのを待っていた。



 那岐に動きがあったのはその翌日だった。

 本間自動車に契約を打ち切られた那岐は、他のスポンサーに交渉をするべく動き回っていた。

 加速能力を手に入れても、自分のレーサーとしての地位を失いたくないのであろう。

 那岐のサポーターがSNSで、今日九州でスポンサーとその話し合いが行われると書き込んでいたのだった。

 那岐が遠方に行ってしまった事で大志達に余裕が生まれた。

 加速能力があったとしても遠く離れた場所から移動するのには、その分自分の体を動かさなければならない。

 飛行機や新幹線に乗って移動するようにはいかないのだ。

 那岐と遭遇する可能性のない時間ができたのは有難かった。

 一週間ぶりに自由に出かけられるようになって、大志は晴香に誘われるものとばかり思っていた。


「ねえ、先輩、ちょっと私、仁美先輩とデートしてくるから」


 そう言い残して晴香は仁美とさっさと出かけて行ったのだった。


「俺たちはどうする?」


 歩実に聞かれて大志は何とも答えられない。

 影山に一応は聞いてみたが、全く外出する気は無さそうだ。


 ここで男三人でいるのはいくら何でもって感じだな。


「歩実君、どうだい、その辺をぶらぶらって」

「丸井君とか、まあ仕方ないか……」


 どうせ行動を共にするなら、もう少し言い方を考えてくれよ。


 大志はあまり気の利かない歩実と、お互いに気の進まないまま出掛けることにしたのだった。



 男同士というものは、本当につまらないものだ。

 バッティングセンターで110キロのボールをとことん空振りしながら、大志はそう感じていた。

 歩実も隣の打席に立って、120キロのボールにバットを伸ばしていた。

 いったい何をしに来たのかというくらい、二人とも空振りしている。

 歩実は時々ファールとボテボテのゴロを打っていたが、大志はまだ一球も当てれていなかった。

 無駄にコインを浪費したあと、不甲斐ない結果にがっかりしつつ、二人は炭酸のジュースをゴクゴク飲んでいた。


「やっぱり駄目だ。向いてない」

「丸井君はホントに酷いな。俺も大概だけど負けたよ」

「酷さで勝っても何にも嬉しくない。自尊心が痛いだけだ」


 教授の理論どおり、加速能力者は普段の生活に支障をきたすほどの時間遅延をしているせいで、ある時反動で加速をするのだろう。

 つまり、声帯に時間異常を持っている歩実は運動能力は普通なのだ。たいして打てなかったのは、単にあまり野球をしたことがないからだ。

 一方、大志は体全体に時間異常を抱えている。

 せめて人並みになれるようにと、子供の時から努力を欠かさなかった結果、今では見事に締まったいい体をしていた。

 それでもずっと皆から運動音痴と呼ばれている。

 肉体の全部を加速できるというのはそういう事なのだ。

 ひとたび加速すれば圧倒的な力を発揮するその根源は、普段の時間異常が引き起こす過度のストレスであった。

 大志にとって加速能力とは、素質や才能と、手放しで歓迎するにはあまりにも代償が大きすぎる代物だった。

 その代償から来るストレスで、まかり間違えば、大志もあの市川のように、怪物になってしまった可能性はあった。

 あの少し丸顔の幼馴染が自分の手を引いてくれていなければ、今こうしていられる自身は無かった。

 初恋の人であり、恩人でもあった。


 今頃どうしているのかな。


 大学に行ってから殆ど幸枝とは会っていなかった。

 向かいの家に住んでいた幸枝とは、高校を卒業するまで、殆ど毎日のように顔を合わせていた。

 いつまでもずっとそばにいるのだと思っていた大切な存在。

 会えなくなって胸にぽっかりと穴が空いたみたいに感じていた。

 そんな空虚感を忘れさせてくれたのが他でもない晴香の存在だった。

 幸枝とはまるで違う雰囲気の、人間機関車のような彼女に翻弄されつつも、癒され、励まされていた。

 大志はいつの間にか惹かれてしまっていた晴香が、ここにいないことに寂しさを感じていた。


「なあ、丸井君」

「え? ああ、なに?」

「前から疑問に思ってたんだけど、俺と君ではどうしてここまで違うんだろうな」

「違うって? 何が?」

「時間異常の度合いだよ」


 そう言われて、確かに違いが大きいと思った。


「君の時間異常は俺たちの中でも断トツだ。あの市川でもそこまでじゃなかった。俺と姉さんは声帯に時間異常があるけど、能力が発現した途端、徐々にマシになって来ているんだ」

「本当か? 普通になって来ているっていうのか?」

「ああ。間違いない。恐らく俺と姉さんはいつか将来、時間異常から回復し、貯まった時間の貯金を使い切った時点で声帯を加速出来なくなるだろう」

「そうか。うん。なるほどな」

「恐らく影山も俺たちと同じだろう。市川もああなる前に少しずつ改善していたと影山から聞いている。しかし君は今も時間異常に苦しみ続けている。この差はなんなんだろうな」

「俺に聞かれてもサッパリ分からないな」

「あの教授に聞いたら答えてくれるかな」


 そう言った歩実に素朴な疑問を投げかけた。


「どうして影山に聞かないんだ?」

「ああ、あいつな……」


 歩実は甘い炭酸飲料をグーっといった後、何かを嚙み潰したような顔をした。


「お互いに共通の敵がいるから行動を共にしてるが、あいつは信用できない。能力を戻したのが正解ならいいけどな」


 歩実の言葉には嫌悪と怒りがこもっている。大志はそう感じたのだった。

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