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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第二章 災厄の目覚め
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第12話 予期せぬ接触

 二回生の大志が講義を受けている間、隣の席には仁美がいてくれていた。

 晴香は一回生の必修科目に出ているので今ここにはいない。

 まさか講義中に襲撃にあうことなど無いと思ったが、念には念を入れて大志には仁美が、晴香には歩実が付いていた。

 一番能力を奪われてまずいのは大志だったが、晴香も大志の引金という事もあって護衛が必要だと話し合いで決まったのだった。

 そして最初は大志と歩実、晴香と仁美というペアを組んだのだが、影山が女子二人組では心もとないと言い出したのでこうなった。

 司令塔の影山はというと、常にどちらかに参加している感じで、その時々に興味が湧いた講義の方に気ままに出ていた。

 今は晴香と歩実の方の講義に関心を示し、そちらの方に参加していた。

 大志は晴香の事を少しは心配していたが、自分で能力を発動できる歩実がいれば相手も簡単には手出し出来ないだろう。

 大志の方はもし何かあれば仁美の暗示で周りの男たちに盾になってもらう作戦を立てた。

 そしてその間に晴香と連絡を取り加速するという寸法だ。

 大志はもしもの時のために晴香の声を録音しておいたのだが、録音の音声ではどういう訳か加速できなかった。

 同じ携帯からの声でも普通に通話して、晴香が大志の引金を引けば加速できた。

 何故このような違いがあるのか、実験に立ち合った全員が首をひねったのだった。

 その中で影山は一応自分なりの仮説を立てた。

 影山が言うには、恐らく声の問題というよりは大志がどう捉えているかが問題なのだろうと説明していた。

 つまり大志の中で加速をすべきかどうか無意識に判断していて、音声データであると最初から分かっている場合は、引金が引かれないのではないかと考えたのだった。

 そのことについては大志にも心当たりがあった。

 以前、幸枝の叫び声を録音して何度か加速しようと試みたものの、上手くいかなかった。

 本当のピンチに陥った時に録音データで加速できた事があったが、その時の大志は本当に幸枝が助けを求めていると感じた。

 またそういう状態に陥ったとしたら録音データで加速できるかも知れないが、確実な方法を選ぶべきだろう。

 というわけで、仁美は今大志の横にいる。こうしていると高校時代とまるで変わらない不思議な感覚だった。

 そんなことをぼんやりと考えながら仁美の横顔を見ていると、ふいに仁美と目が合った。


「どうしたの丸井君」


 別に慌てなくてもいいのに、大志は大慌てで視線をそらした。


「いや、その、こんな感じで黒川さんと並んでたなって思ってさ」

「そうだね。あの頃は楽しかったな」


 後ろの方の席とはいえ講義中なので、かなり小さな声で仁美はそう返した。

 そのまま再び前に視線を戻し、仁美は落ち着いた様子で講義に耳を傾ける。

 その横顔から仁美の考えを読み解くことはできないが、クラスメートとただ授業を受けているような、そんな心地よさを大志は感じていた。



 大志達が緊張感を伴う毎日を送っている一方で、オカルト女子菊池可奈子と早食いの加藤典孝はそこそこ楽しい毎日を送っていた。

 可奈子は今日少し遅くなるからと晴香から部室の鍵を預かっていたので、なんだか自分が頼られているのだと勘違いして上機嫌で部室を開けた。

 加藤はいつも通りに可奈子にくっついている。

 可奈子は加総研のメンバーが揃う前に加藤と二人でちょっとした能力開発実験をしだした。


「えっとじゃあみんなが集まる前に、被検体君の才能をちょっと伸ばしちゃおうか」

「え、僕今日はちょっとお腹がいっぱいで……」

「今日は、食べるんじゃなくって他の事。ちょっとテレビでやってた事にヒントをもらってひらめいちゃったんだ」


 可奈子は鞄の中からラップの芯を取り出して見せた。


「これを使って更なる覚醒を促しましょう」


 たいそうな感じで始まった能力覚醒実験だったが、何の事はない、ただラップの芯を上から落として手で掴むだけだった。

 椅子に座った加藤の前に加奈子が立ち、まっすぐに立てたラップの芯を手に持った可奈子が適当なタイミングで手を放す。

 そうすると芯は落下してくるので、それを加藤はあらかじめ手を開いて待っていた状態からサッと掴む。それだけだった。

 どう考えてもただ反応速度を鍛えているだけだったが、何度もやっているうちに目に見えて上手くなってきたので、二人ともそれなりに楽しんでやっていた。


「これってもう加速しちゃってない?」

「ホント? 僕とうとう覚醒してしまったのかな」


 この場に晴香がいたら、「んなわけないだろ!」とキレているだろうが、二人は結構真面目に手ごたえを感じていた。

 その時、ガラリと戸が開いたので、二人は一旦手を止めて振り返った。

 そこにいたのは切れ長の目をした見た事のない男だった。

 てっきり加総研の誰かだと思っていた可奈子は、見知らぬ顔に怪訝な顔をした。


「加速研究をしてる部ってここかな」


 知らない学生が訪ねてきたという事は入部希望者だろうか。可奈子はまた後輩ができるのかもと、ちょっとだけ愛想笑いを浮かべた。


「はい。ここが加速総合研究調査部です。入部をご希望ですか?」

「そうか。成る程、君たちがそうか……」


 男はそのまま部屋に入って来て可奈子の前までやってきた。

 男はニコリと笑って椅子に座ったままの加藤に目をやった。


「今は何をしてるのかな?」

「ああ、これは彼の加速能力をさらに引き出そうと、ちょっとした実験をしてる最中で……」


 言葉途中で男の目の色が変わった。

 そしていきなり男は椅子に座ったままの加藤に掴みかかった。

 そのまま引き倒して馬乗りになると、腕で喉元を押さえつけた。


「なにするのよ!」


 可奈子は男の背中を力いっぱい叩いたが、女の力ではビクともしなかった。

 声も出せず、どんどん顔色がどす黒くなってきた加藤を締めながら男は肩腕一本で可奈子を振り払った。


「きゃっ!」


 可奈子はその場で尻もちをついたが、すぐに立ち上がってまた男に向かって行った。


「はなせ! はなせ!」


 背中を叩き続ける可奈子を男は振り返り、鋭い目を向けた。


「キーキーうるさい奴だ。気が散って気絶させちまったじゃねえか」


 ぐったりと意識を失った加藤から腕を離して、男はゆっくりと立ち上がった。


「黙らないんなら黙らせてやる」


 男が一歩、可奈子に近づいた時だった。

 廊下を駆けてくる足音がしていきなり戸が開いた。


「加速して!」


 聞き覚えのある晴香の声が部室に響いた。

 可奈子の目の前で竜巻のような旋風が起こった。


「大丈夫? 可奈ちゃん!」

「部長、あれ? 今目の前に変な男がいたんだけど……」


 目の前に迫ってきていたはずの男は、可奈子の目の前から忽然と消えていた。

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