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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第二章 災厄の目覚め
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第7話 この先の計画

 午後の大学の食堂に、現れる訳の無い懐かしい姿を目にしてしまった大志は、椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった。

 大志の口からはただ驚きの声しか出てこない。


「えーっ!」


 突然現れた黒髪の女の子は、その美貌であっという間に周りの学生を惹きつけていた。

 女の子が食堂に足を踏み入れただけで、その場の空気が一段明るくなったような錯覚すら覚えてしまう。

 大志たちに気付いて、小さく手を振ったその美貌の主は、涼し気で大きな目をしていた。


「久しぶりだね、丸井君」


 突然の黒川仁美の訪問に、当たり前のように戸惑い、あたふたしている大志は、その後ろを付いて来ていた仁美の弟、歩実に全く気付いていなかった。


「黒川さん、どうしてここに……」

「久しぶりだね……」


 仁美は以前と変わらぬ涼しげな瞳を大志に向けて、空いていた席に腰を下ろした。

 そしてやっと大志は、その隣の席に座った歩実の存在に気付いた。


「どうしたの二人とも? 何で影山と一緒に?」


 理解の追いつかない大志に、仁美は懐かし気な目を向けて笑みを浮かべた。


「影山君とは本当は口も利きたくないけど、丸井君に大事な話があって。歩実は私の付き添いで来たの」


 はっきりと嫌いだと意思表示された影山は、何も言わず渋い顔をした。

 歩実は影山をさっきから睨みつけている。


「びっくりしたよね。ごめんなさい。突然押しかけちゃって」

「いや、それはいいんだよ。俺も二人には会いたかったしさ。ただ、今理解が追いついていないだけだから」

「そうだよね。戸成さんもごめんね。こういう再会になってしまって」

「いえ、それはいいんですけど、どうゆう事か説明してもらえませんか?」

「うん。でもその前に、彼の話を聞いた方がいいわ」


 何か事情があるのだろう。仁美は再び影山に話をするよう促した。


「口も利きたくもない俺と協力しないといけないくらい、緊急の用件という事だ。話をする前に、何か注文しないか? お金を一円も落とさないでここを占領しているは気が引けるだろ」


 およそ空気の読めない影山の台詞では無いと思ったが、大志は全員の分のコーヒーを頼んだのだった。



 影山はコーヒーを飲みながら、加速の元凶となった赤子の名を那岐空也なぎくうやと明かし、今現在、日本のオートバイレースをけん引する若き新生である事を告げた。

 そして那岐空也について回る、奇妙な噂や実際に起こった事を幾つか例に挙げて、今も他人の能力を奪い続けているに違いないと結論付けた。

 そして自分が身をもってそれを知った事を大志たちに告げた。


「実は、俺はあいつと昨年の秋に接触した」

「那岐と会ったのか?」

「ああ、近くで見てみたくて、レース観戦をしている観衆に紛れてな。大勢いる中でならこちらには気付かれないと思っていたんだが、あいつはその日の夜、俺の宿泊先のホテルに現れた」


 影山は那岐に襲われた事を詳しく話した。

 そしてその時感じた事をこう語った。


「おそらく、あいつは俺に能力を使おうとした。押さえつけられて目を覗き込まれた。まるで心の中を直接見ようとしているような感じだった」

「それで、どうなったんだ?」

「ああ、あいつは俺の中に特別な何かを見つけた感じだった。そしてあいつはこう言ったんだ。おかしなものを持っているなと」


 大志の背筋に冷たいものがはしった。


「それで、奪われたのか?」

「いや、その前にナイフで脇を刺した。何とか逃げおおせたが、肝を冷やしたよ」

「だろうな。しかし滅茶苦茶危険なやつじゃないか」

「だろ。あいつは恐らくああやって他人の能力を奪えるんだろう。今まで奪い続けてきた能力は数えきれないぐらいだと思う。普通の人間では知力も腕力も太刀打ちできない怪物だ」


 話の途中で影山が何を言いたいのか大志には分かった。

 それを影山ははっきりと口にした。


「あいつは俺の中を探って、加速能力を持つ者の存在を知った。俺があいつの事を調べていたように、あいつが俺の事を調べているとしたら、いずれ俺たちの能力を奪いに来る。そう考えるのが自然だと思わないか」

「ああ、そうかも知れない……」


 深刻な表情に変わった大志に、今度は影山に代わって仁美が話し始めた。


「丸井君、実は私も那岐に襲われたの」

「何だって!」


 思わず大志は大きな声を上げてしまっていた。

 周りの注目を集めてしまい、少し小さくなる。


「そ、それで、何かされたの?」

「うん、大学の帰り、一人で歩いているところを声を掛けられて、ひと気のない所に連れ込まれてしまったの」

「そ、それで……」

「それから押し倒されて、抵抗したけど全然歯が立たなくって……」


 大志はなんだか熱くなってきた。

 何だか喉が渇いて生唾を呑み込んだ。

 こんな時なのに変な想像が浮かんできてしまったのだった。


「いてててて!」

「え? 丸井君どうしたの?」


 いきなり脇腹をおもいきりつねられて、大志は悲鳴を上げた。

 横に目をやると、晴香が凄い形相で睨んでいた。


「何考えてんのよ!」

「いや、何も……」


 見透かされているのを知って大志は紅くなった。

 晴香は視線を逸らした大志を睨み続ける。


「えっと、私、口を押さえられてて、暗示を与えられなくって……」


 大志はそこまで聞いて話を遮った。


「黒川さん。もういいよ。辛いことを話さなくていいからね」

「え? 辛くないよ。歩実がすぐに助けてくれたから」


 大志は皆の前で猛烈に赤面した。

 分かり易く何を想像していたのかを、言ってしまったようなものだった。


「なーんだ。そうだったんだ……いや、良かった。うん、無事で何よりだった。安心しました」


 大志はとにかく一生懸命胡麻化した。隣で歯をギリギリ言わせているのが聴こえてきた。怒り狂った晴香に睨みつけられているのを感じ、絶対にそちらを見なかった。


「歩実が気付いて、衝撃波で吹っ飛ばしてくれたの。二回も衝撃波を受けて相当ボロボロになって退散したわ」

「とうとう他の能力者にも接触してきたってわけか……」


 相手が実力行使に出て来たというのは、ただ事ではなかった。

 いつ大志の前に現れてもおかしくない、仁美はそれを警告しに来たのだと分かった。


「襲われる少し前から、影山君は私と歩実にコンタクトをとろうとしていた。私は全く相手にしていなかったけれど、彼はこの事を警告しようとしていたらしいの」

「ああ、まったく相手にしてくれないからこうなった。色々あって遺恨もあるだろうが、協力し合わないとあいつに対抗できないだろうと、こうしてここへ来てくれたわけさ」

「成る程な。合点がいったよ」


 大志は納得したものの、やはり影山を完全に信用することは出来なかった。

 きっと大志よりも仁美と歩実の方が影山を信用していないだろう。


「それでどうするんだ? これから」


 影山は自分のプランを持っている筈だ。大志はその内容次第だと考えた。


「ああ、一番簡単なのは奴を消すことだ」

「消すって、殺すって事か?」

「ああ、丸井、おまえだったら誰だって証拠を残さず簡単に消せるだろ。頼まれてくれないか?」


 サラッと殺人計画を聞かされて、大志は首を横にブンブン振った。


「いやいやいや、それは無理。絶対やらない」

「そう言うと思ったよ。分かってたから色々手を回しといた」


 影山は那岐に監視をつけている事を明かした。

 衝撃波をまともに受けて大怪我をした那岐は、今入院中らしいが、二、三日中には退院するらしい。

 常時二名の監視をつけて見張っているのと、こちらの動きを気取られないよう那岐の雇った調査員は買収済みだそうだ。


「おまえ金持ちなのか?」

「ああ、金ならある。株で資産を増やし続けてる」

「嫌味なやつだ」


 バイトで稼いでいる大志とはだいぶ差があるみたいだった。


「あいつの鼓膜が治ったと確認できた時点で、仁美に暗示で能力を封印してもらう。恐らく可能だと思うが、失敗したら丸井に消してもらう」

「やだよ。その時は別の方法を考えてくれ」

「仕方ないな。まあ、そう言った計画を練りつつ、脅威が去るまではここでみんな固まっていようと思う。お互いに見張っていればあいつは近寄れない筈だ」

「おまえだって学生だろ? 黒川さんも歩実君も学校はどうするんだ?」

「ああ、長引きそうなら休学届を出す。こちらの方を優先しないと大変な事になりかねないからな」


 影山の言いたい事は分かっていた。

 この中で最も奪われて危険な能力を持っているのは自分だった。

 大志はそのうちに自分の前にも那岐が姿を見せるのではないかと想像した。

 もしその時に晴香と一緒にいなければ、自分で能力を発動できない大志は、太刀打ちできないだろう。

 いざという時に仁美や歩実が傍にいれば心強かった。

 仁美は少し心配そうな目で大志を真っすぐに見つめる。


「私と歩実もあいつの危険が無くなるまではこっちにいるつもり。万が一、丸井君の能力が奪われでもしたら大変な事になる。出来るだけ傍にいるつもりだよ」


 ちょっと可愛すぎる。


 後で晴香に何を言われるか怖かったが、大志はしっかり仁美に目を奪われてしまったのだった。


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