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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第二章 災厄の目覚め
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第5話 再会は突然に

 大志は目を疑った。

 かつて敵対していた、もう二度と会う事も無いだろうと思っていた相手のいきなりの登場に、目には見えない緊張がはしった。


「やあ、なんだか楽しそうだね」


 久しぶりに聴いた影山の声は、なんとなく後ろめたさは感じられるものの友好的だった。

 大志と晴香は近づいてくる影山に身構える。


「どうする? 先輩」

「二人がいる。少し様子を見よう」


 二人の前で加速する訳にはいかないので、本来ならば話をしたくもない相手だったが、ここは様子を見る事にした。


「突然済まない。邪魔するつもりは無かったんだ」

「何の用だ」


 いつもの大志の穏やかさは、その口調から消えていた。

 自分を罠に嵌め、仲間を傷つけようとしたこの男を、大志は今でも許せなかった。


「話があるんだ。とても大切な」


 大志は影山から目を離さずに晴香に声を掛けた。


「戸成、今日は一旦ここで終わろう。菊池さんと加藤君には悪いけどまた明日にしよう」

「そうね。そうしましょう。二人とも、そういうわけだからまた明日ね」


 有無を言わさず、二人を解散させた後、大志は誰も周りにいない事を確認してから口を開いた。


「もう一度聞く、何の用だ」

「そう身構えるなよ。俺は前の俺じゃない」

「信用できる訳ないだろ。どの口で言ってんだ」

「だろうな。それだけの事をしたんだ。甘んじて罵倒されるよ」


 しおらしい態度だったが、二人の猜疑心は拭えなかった。


「で、話ってなんだ?」

「ああ、ちょっと込み入った話なんだ。聞いてくれるか?」

「ああ、信用するかは別だけどな」

「手厳しいね」


 影山は口元に薄っすらと皮肉さを含んだ笑みを浮かべた。

 その顔の皮の下に何を隠しているのかを探るような眼で、大志は対峙する。


「お前たちとは二度とやり合う気はないよ。とてもじゃないが勝ち目はない」

「良く分かってるじゃない」


 晴香は当然だという感じでそう応えた。


「話というのは丸井、お前の、いや、俺たち能力者全員の事なんだ」

「どういうことだ?」


 大志は何を言っているのかと、依然として疑いの目を向け続けていた。

 だが影山の次のひと言で、大志だけでなく晴香の表情も一変した。


「丸井、とうとう俺は知ってしまったんだ。何故俺たちが加速能力を獲得したのかを。それを知らせに来たんだ」



 場所を変えて大学の食堂に移動した大志達は、湯気の立つほうじ茶をすすりながら、影山と向かい合うようにして座っていた。

 もし影山が何かを企んでいるとしたら、ひと気のない所より、こういった場所の方が実行し辛いだろうと考えたからだった。


「本当に君たちは用心深いんだな」

「当たり前だろ。もし変な動きをしたら、すぐにさっきの池に落としてやるからな」

「それは流石に嫌だな。大丈夫だよ。話をするだけだ」


 そして影山は大志と晴香に、自分が今の時点で辿り着いた事を語りだした。

 生まれた時に自分たちがいた新生児室の隣で、謎の衰弱死で無くなった赤子が四人いた事。

 その裏で、助からないであろうと思われていた超低体重児が奇跡的な回復を遂げていた事。

 そしてその生き残った赤子こそが特別な能力者で、我々能力者はその赤子の影響を受けてこうなったのではないかと。



 湯気を立てていた湯呑のほうじ茶が、すっかり冷めてしまうほど影山の話は続いた。

 話を聞き終えた大志と晴香はしばらく言葉もなく、その信じ難い内容に呆気に取られていた。


「つまり、俺たちが能力を獲得したのはその時で、すべての元凶はそいつの持つ特別な能力のせいだったという事か……」


 大志の言葉に影山は少し首を横に振った。


「丸井、その表現は少し違うな。加速理論に精通している戸成さんには分かっているよね」

「ええ。教授の理論では時間の異常を抱えているものが正常な状態に戻ろうとして、反動で加速は起こる。つまり能力はその時獲得したのでは無く、むしろ略奪された。正常な時間の流れをそいつに奪われたのだという事ね」

「そうだ。そして正常だった時間の流れを奪われた為、俺たちは生まれてすぐに時間に障害を持ってしまったんだ。つまり俺たちはただの普通の赤ん坊だった。そして略奪者によって奪い取られた結果、反動で加速をしてしまう能力を自ら獲得したんだろう」

「つまり超能力者は一人だったという事ね」

「恐らく。君が言うように超能力者やミュータントの類だろう」


 ひととおり聞き終えても、大志にはまだ合点がいかないことが残っていた。


「なあ、影山、お前の推論通りだとしても、人としての意識がまだ芽生えていなさそうな未熟児に、誰かの時間を奪い取る事など出来るんだろうか」

「ああ、可能だ。むしろそちらの方が可能性が高い」

「説明してくれ」

「つまり、超常的な力というのは全て脳内で発揮されるものなんだ。人としての自我を持つ前に、ただ生存の本能のままに突き動かされた結果、生存の確率を高めるために、他人に備わっているものを奪う能力が発現したのかも知れない。ただ純粋に生きるためだけに力を使った。そう考えると辻褄が合う」

「でも、看護師さんもそこにいたのに、奪えたのは赤子からだけだったんだろ。どうしてなんだ?」

「恐らく発達しきった大人の脳には、対抗できなかったんだろう。無防備な周りにいた赤子からなら容易だった。そう考えるね」


 気付かぬうちに話に集中していた大志は、喉の渇きを覚えて冷めてしまったほうじ茶をグッと飲んだ。

 晴香も思いだしたようにお茶に口をつける。


「それで、もう話は終わったのか?」


 大志の問いかけに、影山は皮肉を秘めた笑みを口元に浮かべた。


「これだけで、わざわざここへ来るわけないだろ。ここからが本題だ」

「まだ何かあるのか」

「ああ、これまで話したのは過去の事だ。今から話すのはこれからの事。俺たちの未来、あるいは俺たちだけでは済まない可能性のある未来の話だ」

「どういうことだ? はっきり言えよ」


 影山は恐らくわざとそうしたのだろう。

 皮肉そうな笑みを浮かべた口元はそのままに、手元で振動した携帯の画面に目を落とした。


「その前に、やっとお客さんが到着したみたいだ。話の続きはそれからにしよう」


 影山は食堂の入り口に立つ人影の方に目を向けた。

 大志と晴香も影山の視線の先に目を向けた。


「えーっ!」


 大志は思わず声を上げて立ち上がった。


 学食の入り口に立つ長い黒髪の女の子。

 その美貌に、そこにいた学生たちの視線が集まっていた。

 ひときわ輝く美貌の女の子は、大志たちに気付くと小さく手を振った。


「久しぶりだね、丸井君」


 その唇に見合った涼し気な声の持ち主。

 それは紛れもなく黒川仁美だった。

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