表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第二章 災厄の目覚め
21/52

第4話 ポイントは誰の手に

 ゴールデンウイークが終わり、大学の講義が再開した。

 休みの間、部活をしていなかった加総研のメンバーも、久しぶりに部室に集まった。

 晴香が一人やる気をみなぎらせる中、可奈子と加藤君はややぎこちない感じで席に着いていた。

 勿論そうなるであろうことを期待していた大志は、二人の一挙一動にさりげなく注目していた。


 この禁断の恋? の行方はどうなるんだ?

 加藤君はぎこちないながらも菊池さんをチラ見してるな。

 それに比べて菊池さんは、加藤君と絶対視線を合わせようとしない。

 いつも二人で何となくまとまっているのに、その均衡が崩れたってことだな。


 分かり易く膠着状態に陥っているのを見ていて、大志は可笑しくなってしまった。

 晴香もそれと分かるほど、目を輝かせてニヤついている。


「えー、では、今日は屋外に出て加速についての理解を深めていこうと思います」


 晴香はそこそこ、この雰囲気を愉しんで加総研の活動に戻った。

 屋外に出ると言い出した晴香に、大志が質問を投げかける。


「外で何をするんだ?」

「実験をします」

「実験ねえ」


 まさかこの二人の前で加速する訳ではないだろうと思いながら、晴香に先導されるままついて行った。

 そこには池があって、そのほとりで晴香は三人を振り返った。


「池の水の上を渡るにはどうしたらいいと思う?」


 晴香は可奈子を指さして早速質問した。


「脚の裏から気を発して、その反発で水面を渡り切るとか?」

「あのね、加総研の活動だよ。そうゆうオカルト的な回答は期待してないわけ。加藤君はどう?」

「そうですね。素早く渡りきるとかですか? 忍者が水の上を歩くとき、先に出した足が沈み始める前に次の脚を踏みだすって聞いた事あります」

「正解よ。加藤君に一ポイントあげる」

「えー、ズルイ。ポイントもらえるんならもっと真面目に考えたのに」


 可奈子はポイントをかっさらっていった加藤君を羨ましがる。


「まあ次がんばんなさいよ。解説すると、加藤君が言ったみたいに水の上を走って渡る事は実際可能なのよ」

「え? 無理でしょ。ひょっとして今からそれを試したりするの?」


 足の遅そうな可奈子は自分が不利だと考えたのかも知れない。

 晴香は手を振って馬鹿馬鹿しいと否定した。


「私たちじゃ出来っこないっての。でも動物で実際にいるんだよ。この間テレビでやってたから成る程なって感心しちゃった。じゃあ、二問目、その水面を走ってた動物は何でしょうか」

「はい!」

「じゃあ菊池さん」

「チーター!」

「ブッブー!」


 晴香は手でバツ印を作った。

 可奈子は残念と悔しがる。


「はい!」

「じゃあ加藤君」

「アメンボ!」

「いや、それって頑張んなくてもそんな感じのやつだから。昆虫は除外して」


 加藤君が間違えたので可奈子はフフフと口元に気味の悪い笑みを浮かべた。どうやら本気で張り合っているみたいだ。


「先輩はどう?」

「俺は知ってるんだ。前に色々調べててそいつの動画も見たことがある」

「そう、じゃあ私が正解を言おうかな……」

「待って待って!」


 可奈子が大慌てで割り込んだ。


「その場合、ポイントはどうなっちゃうの?」

「え? そこ、こだわる?」

「こだわります。もう一回答えていい?」

「いいよ。どうぞ」

「ヒント頂戴」


 どうしても当てたそうな可奈子に晴香はヒントをあげた。


「爬虫類」

「分かった!」


 可奈子は頂きましたという顔で手を挙げた。

 そして正解を口にしかけたそのタイミングで、加藤君が邪魔をした。


「トカゲだ!」


 加藤君の方がちょっと早かった。

 可奈子は先に言われて腹が立ったのか、悔しそうに加藤君を睨みつける。


「私が言おうとしたのに、ひどいじゃない!」

「あ、ごめん。頭に浮かんじゃってつい……」

「私のポイント返せ!」


 何だか険悪なムードになってしまったのを、大志はまあまあとなだめる。

 ちょっとさっきまでいいムードの二人だったのに、ぶち壊しだった。


「そんなにムキにならなくってもいいじゃないか。仲良くやろうよ」

「そうよ。クイズはこれぐらいにして実際の感覚を体感しましょう」


 晴香はその辺にあった小石を掴んで、三人を振り返った。


「さあー、ちゅうもーく!」


 そして大きく腕を振りかぶると、池に向かって小石を投げ込んだ。

 思い切り投げた割には大して飛ばず、小石はポチャンという音をさせて水面に波紋を作った。


「あれ?」


 晴香は他の小石を掴んでまた投げる。

 やはり今度も大して飛距離は伸びず、小石は池の中へと消えた。


「何がしたいんだ?」


 大志は晴香が石を何度も池に向かって投げつけているのに首を傾げた。


「おかしいな、こうやったら石が水面を跳ねるはずなんだけど」

「え? それをやろうとしてたわけ? そのオーバースローでか?」


 大志はちょっと見てろと言って、そこらにあった平たい石を掴むと水面ギリギリのアンダースローで投げた。

 石は水面に波紋を残しながら五回ほど跳ねて水の中に消えた。


「これをやりたかったんだろ?」

「そう。それよ。これがつまり加速している状態でなら再現できるってわけよ。分かった?」


 何だか回りくどい説明と実践の後で、晴香は皆にやってみなさいと指示した。


「いっぱい跳ねた人はポイント有るのかしら」


 石を選びながら、可奈子はまだポイントにこだわっていた。


「えっと、じゃあ、跳ねた数だけポイントを付けます。三回投げて一番多かった数を申告するように」


 その言葉で可奈子は俄然燃え出した。

 大志の近くに来て、ぼそぼそと囁いてくる。

 そして大志に何かを訊いた後、可奈子は石を選び始めた。

 晴香は大志に寄って来て、ひそひそ話の内容を訊いてきた。


「あの子なんて言ってたの?」

「どんな感じのやつが一番跳ねるのかって。それと投げ方のコツをこっそり教えてくれって」

「セコいわね。加藤君に絶対勝ちたいのね」

「みたいだな。被検体に負けられないというプライドがあるんだろ」


 そして四人は各々本気で石を投げ始めた。


「そりゃー!」

「どりゃー!」


 晴香と可奈子は掛け声こそ凄いものの、一回も跳ねる事無く終了した。

 結果は大志が六回。加藤君が四回だった。


「副部長も、被検体君もズルイ。こんなの女子が不利に決まってるじゃない!」


 ポイントが一つももらえなかった可奈子の腹立たしさは、大志にも飛び火した。

 いつの間にか加速についての考察から、ただの勝負ごとに切り替わっていた。


「まあ、あれだよ。ちょっとした余興だって……」


 大志は機嫌を損ねて不貞腐れる可奈子をなだめていた時、少し離れた所でこちらをじっと見ているであろう人影に気付いた。

 晴香も大志が何かに気付いたのを察して、その人影を振り返った。


「あいつは……」


 晴香の表情が険しくなる。


「どうしてあいつがここに……」


 同じく顔色を変えた大志の見つめる先には、あの影山冬真がいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ