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加速する世界 時の彼方へ  作者: ひなたひより
第一章 春、輝いて
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第13話 お弁当の味は

 少し開けた展望の良い広場。

 山小屋のあるこの場所でそこそこの人たちが昼食をとっていた。

 ワンゲル部も適当な場所を見つけて各々お弁当を食べ始めた。


「せーんぱい」


 横に座った晴香がリュックからお弁当箱を二つ出す。

 大志はいいと言ったのだが、晴香は自分が作ると譲らず、二人分のお弁当を作って来たのだった。


「私の愛のこもったお弁当だよ」

「えっと、うん。ありがとう」


 ちょっと照れながら大志は晴香から弁当箱を受取った。

 お弁当を母親以外に作ってもらった経験の無い大志は、こういう感じに免疫が無かった。

 隠してはいるが隠しきれないほど、実はかなり嬉しかった。

 そこへ可奈子と早食い君がやって来た。

 やはり加総研は一心同体という事なのだろう。


「ねえ、戸成っち。隣いい?」


 ダジャレのつもりか可奈子は自分でちょっとウケていた。

 すかさず加藤君も真似してウケる。

 一体この二人の関係ってどうなってるんだと、大志はしばらく考え込む。

 晴香は二人になりたかったとはっきり顔に出しつつ、リュックをどかして場所を空けてやった。


「あれ、お揃いのお弁当箱ですね」


 可奈子が大志の膝にある弁当箱と晴香の手にあるのを見比べた。

 晴香はちょっと自慢げにフフフと笑った。


「そう。お揃いなのよ。分かるでしょ」

「へえ、今度私も同じやつ買いに行こ」


 やはりどこかズレてる。もう何も言う事は無かった。

 食べ始めると早食い君は実力を発揮した。

 別次元の速さで弁当は彼の胃袋に納まった。

 大志と晴香は唖然として自分たちの弁当箱の蓋すら開けれなかった。


「さらなる加速を見たでしょ。もう一息ってとこです」


 何だか自慢げに可奈子はここ最近の成果を見せつけた。

 やはり方向は間違っていたが、もしかするとこのままいけば、早食いでは世界一を狙えるかもしれない。


「よくやったわ。被検体君」

「はい。今後も精進します」


 何かしらこの二人には目に見えない絆が出来つつある。

 大志と晴香は険しい目で、二人の喜び合う姿を見ながら今日もゾクゾクと戦慄を覚えていた。


「さ、食べましょう」


 今のシーンをすべて忘れようとするかのように、晴香は大志に笑顔で向き直った。


「あ、じゃあ開けさせてもらうよ」


 弁当箱の蓋を開けると綺麗にサンドイッチが並んでいた。

 なかなか美味しそうな見た目に、大志は意外そうな顔をした。


「戸成が作ったんだよな」

「そうだよ。どうして?」

「いや、美味そうだなって思って」

「どうゆう意味よ!」


 二年前の合宿の時、まるで料理のできなかった晴香を知っていた大志にとって、サンドイッチとはいえ、色どりも綺麗に出来上がっているのは想像以上だった。


「ごめん。ちょっと期待以上だった。食べていいか?」

「なんだかカチンと来たけど、食べていいよ」


 口に入れてみると、ちゃんと美味しかった。

 そのままパクパク大志は食べ続ける。


「ゆっくり食べてね。今お茶淹れるから」


 大志は淹れてくれたお茶をグッと飲んで一息ついた。


「うん。美味いよ。ありがとう」

「へへへ。良かった」


 晴香は照れながら自分の作った物を味見するように食べ始めた。


「うん。なかなかいける。寮の炊事場ってみんな使ってる事が多くって、あんまし凝ったもの作るのも自信ないからこれにしたの」

「上出来だよ。ほんとに美味しいよ」


 頬を少し紅くした晴香と幸福感漂う大志を、可奈子はじっと見つめていた。

 そして何を思ったのか、自分の弁当箱を大志に向かって突き出した。


「私のも味見してください。戸成っちに負けないくらい美味しい筈です」

「なんであんたがここで張り合ってくんのよ!」


 晴香は可奈子の弁当箱を押し返した。


「私も仲間に入れてええええ」

「絶対にだめええええ」


 どうやらまた置いてけぼりにされたくないだけで食らい付いてきたらしい。

 どうしても理解できない可奈子の二人への執着に、絶対に譲れない晴香は必死で食い止めたのだった。

 そして結局、晴香が味見をしてやると言うと、あっさり可奈子は引き下がった。

 仲間の輪に入りたかっただけのこのオカルト女子は、やはり寂しがり屋のようだった。

 そして午後からの山歩きは加総研で固まって歩いた。

 晴香も大志と二人でというのを諦めたようで、それならばと可奈子と加藤君に歩きながら加速理論を熱く語りだした。

 熱気を帯びつつ山を登る加総研のグループに、皆一目置いていそうだった。

 ワンゲル部からちょっと浮いている印象だったが、それはそれでなかなか楽しそうだった。

 そして加速理論を熱く語るのを耳にして、教授も入れてくれと加わった。

 自然の景観を愉しむという趣旨そっちのけで、加速理論に花を咲かすメンバーに、大志はこれでいいのかと思いつつ、話の輪に加わっていたのだった。

 そして言うまでもなく、あのオオカミ先輩はオカルト女子を畏れて、加総研には近づいて来なかった。


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