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アルグラット

ここは「スタジオ」というらしい。

冴子は体が少しでも動くようになったのがうれしいせいか、声優業を再開していた。

冴子はスタジオで「アフレコ」に臨んでいた。

セリオンの目から見ると、白い紙のようなものがあり、その画面に声優たちが声を吹き込んでいるようだった。

セリオンは冴子の護衛のため、スタジオまでついてきたのだ。

「ちょっと、いいかい?」

「ん?」

セリオンはサングラスをかけた太った中年の男性に声をかけられた。

赤いシャツに、黒いズボンの男だ。

「君は島津君の何なの?」

「島津?」

セリオンはこの男性の言っていることが理解できなかった。

「島津 冴子君だよ。君は彼女の関係者なのかい?」

「ああ、そういうことか」

セリオンは男性の言いたいことをようやく理解した。

「冴子」と呼ばれて気づいた。

「俺は彼女の護衛……ボディーガードだ」

「そうかい……なんだかまるで軍人のみたいな雰囲気だったからさ。はっはっは!」

男性が声を上げて笑った。

「軍人か……あながち間違いでもないな」

セリオンは聖堂騎士……宗教軍事組織の一員である。

そのためまとっている雰囲気が軍人と思われたのだろう。

「おつかれさまでしたー!」

スタジオでは声優たちの仕事が終わったらしい。

解散していく。

「ひ、緋山ひやま監督!?」

冴子がセリオンの前に現れた。

「やあ、島津君。いい演技をしていたよ。音響監督の杉下すぎしたもよくうなずいていたからね」

「あ、ありがとうございます!」

「島津君はもっと伸びそうだね。君にはいい素質がある。役者として努力すればもっと上を目指せるよ」

「はい!」

「ぼくはね、声優とは役者であるべきだと思うんだよね。今はアイドルのような声優もいるけど、そういう人たちは長く持ちそうに思えないんだよね。声優の本質は声による演技にあると、ぼくは思うんだ」

「わ、私もアイドル路線は苦手です。特に人前で話をするのは苦手なので……」

「はっはっは! まあ、島津君のように主演をこなせるなら未来もあると思うけどね。あっ、それじゃあね、島津君。ぼくはこれから用があるから」

そう言うと、緋山はその場から去っていった。

「なあ、冴子」

「なっ、何、セリオンさん?」

「監督ってえらいのか?」

「もちろん! アニメの制作で一番偉い人だよ!」

「なんだかわからないが、その監督っていう人に話しかけられたんだ」

「ええ!? 何か失礼なことを言わなかった、セリオンさん!」

「俺には彼の意図がよくわからなかったんだが……まあ、いい。帰るとしようか」

「そうだね」

セリオンと冴子は電車に乗って家までの帰路についた。

夕食はカレーライスだった。

坂木家では食事は全員集まって取るのが基本だ。

しかし、冴子のように収録が長引いて帰りが遅くなる場合、冴子抜きで食事を食べることもある。

今日の料理担当は綾女だった。


その夜、冴子は部屋で台本を読んでいた。

次の収録に合わせて演技を磨いていく。

「冴子、いいか?」

「セリオンさん? ま、待ってて! 今片づけるから!」

「あ、ああ……」

セリオンはドアの前で固まっていた。

冴子の部屋の中からいろいろと音が聞こえる。

しばらくすると静かになった。

ドアが内側から開けられた。

「入っていいよ」

「それじゃあ、入る」

冴子はもうおふろに入ったのか、ジャージを着ていた。

「それで、何の用?」

冴子はセリオンに座布団を用意した。

セリオンはそれにあぐらで座った。

「このまま俺がボディーガードをし続けても、事態は進展しないだろう。そこで冴子、冴子は俺を信じることができるか?」

「え?」

「事態を動かすために、わざと捕まってみる気はあるか?」

「……私はセリオンさんを信じるよ」

冴子はセリオンにほほえんだ。

「ありがとう。奴は君からエキスを搾り取ると言った。つまり奴はすぐには君を殺せないということだ。君は霊媒体質のようだからな」

「ところでその霊媒って何なの?」

「霊媒とは超自然的存在とコミュニケーションを取る際、それを仲介する存在のことだ。簡単に言えば巫女ということだ。俺が思うに、坂木家の人々はみな強い巫女としての力を持っているようだ。冴子が狙われたのはそれが強かったからだと思う。だから聞いたんだ。君は俺を信じられるか? この策にはリスクもあるからな。君の呪いを解くにはアルグラットを倒すしかない。しかし、俺がいてはむしろアルグラットを倒すチャンスが失われてしまう。本当は食事の席で言いたかったんだが……」

冴子はベッドの上で座布団を抱きしめながら。

「うん、私はセリオンさんが私を守ってくれるって信じるよ」

「わかった。君は俺が必ず守る。守って見せる」

かくしてセリオンの策が実行にうつされた。


その日は雨が降っていた。

冴子は近所の自動販売機に行って、ジュースを買おうとした。

その時、傘が飛んだ。

そしてアルグラットが冴子の前に現れた。

「娘よ、おまえだけか? あの男はいないようだな。まったくバカな男よ。みすみす娘をわしの手に入れさせるとは……まあ、よいわ。娘よ、わしといっしょに来てもらうぞ?」

アルグラットは冴子をさらった。

その様子をセリオンは陰からうかがっていた。

敵が罠にかかった。

あとは敵のアジトを探るだけだ。

セリオンはアルグラットをひそかに尾行した。

暗いフロアにアルグラットと冴子はいた。

冴子は糸で巻きつけられてつるされていた。

「クハハハハハ! まったく愚かな男よ! 娘をむざむざ放置しておくとはな! さて……霊媒のエキスの味を味合わせてもらおうか……」

「そうはいかない!」

「何奴だ!?」

アルグラットが振り返る。アルグラットの視線の先にはセリオンがいた。

セリオン・シベルスク――

青き狼、英雄セリオン――

「きさまは……!? なぜ、この場所を!?」

アルグラットが驚愕した。

「おめでたい奴だ。つけられていたことに気づかなかったとはな。それに俺の名はセリオンだ。アルグラット、冴子はおまえには渡さない。ここで決着をつける!」

セリオンが大剣を構えた。

「クヒャーハッハッハッハ! きさまこそおめでたいわ! このわしの真の力を見せてやろうではないか!」

アルグラットが毒の息を収束し、放射した。

「その攻撃はもう通じない!」

セリオンは蒼気の斬撃「蒼波斬」でブレスを斬り裂く。

「毒槍!」

毒の槍がセリオンに向けられて発射された。

セリオンは蒼気を刃として放ち、毒槍を無力化する。

セリオンの技「蒼波刃」である。

「毒の爪をくらうがいい!」

アルグラットは前足の爪から毒を出し、セリオンを攻撃してきた。

セリオンは大剣で毒の爪をやり過ごす。

そしてセリオンは踏み込んで、アルグラットの前脚を切断した。

「ウギャアアアアアアアア!? あ、脚が! わしの脚が! きさまあ! 許さん! 許さんぞお!」

アルグラットは大きく高くジャンプした。

アルグラットが着地すると、周囲に衝撃波が巻き起こった。

セリオンは横に蒼波刃を放ち、衝撃波に穴を開けた。

「ギフト・シャウム(Giftschaum)!」

アルグラットは毒の泡を出現させた。

セリオンはとっさ後ろに下がる。

「ギフト・ラケーテン(Giftraketen)!」

毒のミサイルが上方に発射された。

毒のミサイルはセリオンの位置と特定すると、下に下ってきた。

セリオンは大剣に光を集め、かかげた。

閃光のような輝きが大剣につどっていく。

「閃光剣!」

集められた光が輝き、爆ぜた。

「ぐぎゃああああああ!?」

アルグラットの皮膚が焼けこげる。

光による浄化作用である。

セリオンは光の粒子を収束した。

光子をまとう大剣でセリオンはアルグラットを斬りつけた。

「光子斬!」

アルグラットは一刀両断にされた。

アルグラットは紫の粒子と化して消滅した。

セリオンはつるされた冴子を助け出した。

「どうだ? アルグラットを倒したから体の自由が利くようになったはずだが?」

「うん、セリオンさんのおかげだよ。ありがとう。ね、ねえ……」

「?」

冴子は急にもじもじとし始めた。

「その、まだ歩けないから、おんぶしてくれる?」

「ん? ああ、わかった」

その後冴子は仕事に復帰した。

セリオンは坂木家の姉妹たちからお礼を言われた。

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