襲撃
冴子はセリオンが本から現れたことや、自身の体調が少し良くなったことを四人に報告した。
「本から人が出てくるなんて……でも、神の力ならそれができても……」
とセラ。
「冴子が男を連れ込むとは思えないしね」
とマリヤ。
「冴子、体は大丈夫なの?」
良子が質問する。
「うん、セリオンさんのおかげで少し良くなったよ」
「私は冴子を信じるわ。だって冴子がウソをついているようには見えなかったもの」
綾女が言った。
「まずは食事にしない? セリオンさんもおなかがすいているでしょ?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、私が作るね」
と冴子。
冴子の特技は料理だった。
このところ寝込んでいて料理を作ることができなかった。
ほかの人が作ってくれたのだ。
食事は坂木家では当番制である。
五人が交代で料理を作るのだ。
「セリオンさんには客室を使ってもらいたいんですけど……」
とセラ。
「あとで、案内するね」
冴子の声がキッチンから聞こえた。
「それにしてもただ、待っているだけではひまだね? テレビでもつけよっか?」
マリヤがリモコンを取ってテレビをつけた。
すると映像が映った。
「なっ、何だ、これは!?」
セリオンが驚いた。
セリオンはテレビを知らなかった。
「セリオンさんは知らないんだ? これはテレビって言って、映像が映るのよ」
とマリヤが説明した。
「ねえ、暇なら一通り自己紹介でもすれば?」
キッチンから冴子の声が聞こえた。
「そうね。セリオンさん、私は坂木 セラ。教師をしています」
「私は坂木 マリヤ。スーパーで店員をしているの」
「私は坂木 綾女。保母さんをやっているわ」
「私は坂木 良子。セラと違って小学校の教師をしています」
一通り、みんなが自己紹介を済ませると、冴子が料理を運んできた。
料理はしゃぶしゃぶだった。
「冴子、今日は力の入れ具合が違うのね?」
とセラ。
「うん、セリオンさんがいるから豪華にしちゃった」
「それじゃあ、ご飯にしましょう」
「!? 待て! 何か邪悪な存在が近づいてくる!」
セリオンが警告した。
セリオンは縁側の引き戸を開けた。
その前には庭があった。
「誰だ!」
セリオンは大剣を構えた。
「クヒャハハハハハ! よくわしの存在に気づいたの。わしは悪魔アルグラット(Algratto)!」
そこには巨大なクモがいた。口からは牙がのぞいていた。
「クヒャハハハ! わしの目的は高い霊媒のエキスを喰らうことじゃ。ゆえに動けぬよう呪いをかけた。その娘はどこにおる?」
「!? おまえが冴子に呪いをかけたのか!」
「え?」
「ムム……呪いが軽減されておる? おかしい……うまく動けないほどの呪いをかけたというのに?」
「まあ、いい。おまえを倒せば冴子の呪いが消滅するわけだ。俺がここで倒してやる!」
セリオンは庭に躍り出た。
「むうう……その大剣は普通の大剣ではないな? 神の息吹を感じる……」
「その通りだ。この剣は神剣サンダルフォン。神が鍛えし、つるぎだ!」
「フン! 闇の力の前に神剣など無力であることを教えてやろう!」
アルグラットは口を大きく開いた。
魔力が収束する。
セリオンは目を細めた。
その瞬間、すさまじい息がアルグラットの口からはき出された。
いや、発射されたというべきか。
その力は「毒だ」。
ブレスの正体は毒の息であった。
「セリオンさん!」
冴子が叫んだ。
「クヒャーハッハッハ! 我がブレスの前には光など無力! ……!? むう!?」
ブレスが収まるとセリオンが現れた。
セリオンは傷一つ負っていなかった。
「バカな!? 我がブレスの攻撃を受けて無傷だと!? きさま、いったい何をした!?」
「ただ、受け流した」
「何だと!? おのれ! これは何かの間違いじゃ! もう一度くらえい!」
アルグラットは再び毒の息を噴射した。
セリオンは「蒼気」を展開した。
蒼気をセリオンは大剣にまとわせて、毒の息を斬り裂いた。
セリオンは必殺技「蒼波連刃」でアルグラットを攻撃した。
「うおお!?」
蒼気の刃がアルグラットをかすった。
「くっ!? わしの息を無力化するとは!? む!?」
「遅い」
セリオンが冷たく告げる。
セリオンは大剣で、アルグラットの左目を斬った。
「ぐぎゃあああああああ!? わしの、わしの、目が!? おのれええええ!」
アルグラットの目から血が吹き出る。
アルグラットは姿勢を変える。
「霊媒のエキスを吸い取る機会はまたにしてくれる! それまで霊媒はおまえらに預けておくわ!」
アルグラットは大きくジャンプすると、夜の闇に消えていった。
「逃げた、か」
「なっ、何だったの、あれ……」
冴子は再び腰を抜かしていた。
「あれは悪魔という奴だ。まあ、この世界で悪魔がどういう姿を取るかは、俺は知らないがな」
セリオンは大剣を消した。
セリオンは冴子の近くまで来ると、冴子を抱きかかえた。
いわゆるお姫様抱っこというやつである。
「え!? ちょっ!?」
冴子は狼狽した。
「立てないんだろう? 部屋はどこだ? 運んでやる」
「え? はううう……」
冴子は顔を真っ赤にした。