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セリオン召喚

世界は地球。

国は日本。

晴空はれそら市にて。

坂木さかき 冴子さえこ――十八歳は、原因不明の病にかかっていた。

その症状は体がうまく動かなくなるというもの。

姉妹に付き添われていくつもの病院を訪れたが原因不明と言われ続けた。

おそらく精神的なものが原因なのではないかと考える医者もいた。

冴子は精神科を受けてみたが、そこでも原因不明と言われた。

坂木家は5人姉妹で、年齢順に、セラ 27歳、マリヤ 26歳、綾女あやめ 25歳、良子よしこ 24歳、冴子 18歳である。

冴子はもう一か月も家から外出できない病気にかかっていた。

もう一か月ほど仕事を休んでいる。

このままであれば仕事を失うことになるだろう。

冴子は黒髪のショートカットで、どこかボーイッシュなところがあった。

冴子は自分の病に不安を強めていた。

冴子は学校の給食センターで働いていた。

大勢の食事を作る仕事である。

白衣を着て体を清潔に保つ必要があった。

しかし、給食センターの仕事は冴子の本業ではなかった。

冴子は声優である。

芸名は「島津冴子しまづさえこ」。

芸歴は三年。所属事務所はクレド(Credo)。

三年までは新人と呼ばれ、カテゴライズされる。

冴子は忙しい、と言えるわけではなかったが割と仕事に恵まれて、売れ始めていた。

しかし、この病気により、声優業も中断されていた。

「冴子、体調の方はどうなの?」

「うん、あまりよくないね」

冴子は自分のマネージャーと会話していた。

マネージャーの名前は「奈良崎ならさきいのり

髪は長く、後ろで軽く結んでいる。

奈良崎はその声から冴子を気づかっていることがわかる。

冴子も役者だ。

そのくらいわかる観察力を持っていた。

「いい? くれぐれも無理はしないでね? 休むことも仕事のうちなんだから」

「うん、そうだね。奈良崎さん」

「きっと疲れがたまったと私は思うんだよね。声優とパートの両立はむずかしいでしょ? あんまり不安に思うのもどうかと私は思うよ。知ってる? 心理学では楽観的な人の方が良い結果を出すことが多いって。だからさ、あんまり気にしないで堂々と休めばいいんじゃない?」

「ありがとう、奈良崎さん。私も奈良崎さんがいなかったら声優としてやっていけなかったと思うから。今はゆっくり休むことを考えておくね」

「おっ! 少しは元気が出てきたかなー? それはいいことだよ? じゃあ、切るね?」

奈良崎からの電話は切れた。

冴子は自分の部屋でスマホの画面を見ていた。

着信切れの表示になっている。

冴子はふとんをよけて立ち上がろうとした。

しかし、全身におもりがあるような感じでうまく立つことができない。

「ほんとに、どうしちゃったんだろ、私?」

冴子は自分の部屋から出て書斎に入った。

ここは父の部屋だった。

この書斎には冴子の父が集めたコレクションが入れてあった。

冴子は神に祈った。

自分の救いを。

だが、この病気に救いはあるんだろうか?

冴子はヘルデンリートに手を伸ばした。

すると、突然、本が光輝き出した。

「あれ!? どっ、どうしたの、これ!?」

冴子は後ろに下がった。

光の粒子が人の体をかたづくっていく。

「ここは?」

そこには一人の男性がいた。

金髪に碧眼、戦闘用の服、紺のブーツ、そして背中には片刃の大剣。

「あ、あなた、誰!?」

冴子は驚いて腰を抜かしてしまった。

床にへなへなと倒れこむ。

冴子の目には本から人が出てきたように「見えた」。

「俺か? どうやら言葉を話すには問題がないようだな。こちらのことも、そちらのことも、理解できるようだな。おっと、コミュニケーションは可能か? 俺はセリオン。セリオン・シベルスク。聖堂騎士だ」

「え? 聖堂騎士? セリオン?」

冴子の頭にヘルデンリートの中身が展開された。

なぜか、この男性がウソを言っているようには直感的に冴子には思えなかった。

「それで?」

「それでって?」

「おまえの名前は?」

「わ、私?」

「そうだ。相手の名を知ることはコミュニケーションの基本だろう?」

「私の名前は『坂木 冴子』。冴子でいいよ」

「それでは俺のこともセリオンと呼んでくれてかまわない」

「ところで、セリオンさんはどこから来たの?」

「俺か? 俺は……」

セリオンは窓から外を見た。

セリオンは目を細めた。

「どこだ? ここは?」

「は?」

「この街並み……俺の世界とは文明が違う。エーリュシオンにはないものだ」

「何を、言ってるの?」

「…………」

セリオンは冴子を再び見た。

「俺はどうやら異世界に来てしまったらしい」

「えーと、まずお茶を入れるから居間に行かない? いろいろと話さなければいけないことがあるらしいし」

冴子はセリオンに提案してみた。

「ああ、そうだな。よろしく頼む」

セリオンは普通に部屋を歩いた。

すると、ある違和感があった。

それはセリオンがはいている紺のブーツだった。

「セリオンさん、ちょっといい?」

「何だ?」

「この国の文化なんだけど、土足は禁止で、家では靴を脱ぐ決まりなんだよね」

「何? そうか。すまない」

セリオンはブーツを脱いだ。

「これでいいだろう? ん? 君は……」

「? どうしたの?」

セリオンは無言で冴子に近づいた。

「冴子、君は呪いに犯されている。それも強烈なやつにだ」

「え? 呪い?」

冴子は仰天した。

まさか「呪い」などどいう言葉を聞くとは思わなかったからだ。

「この呪いは、呪いをかけた奴を倒せば解けるようだ。冴子、体を動かすのがつらいだろう?」

「よ、よくわかったね……」

「冴子、俺には今すぐに完全には治せないが、症状を軽くすることはできる」

セリオンは冴子に顔を近づけてきた。

「えええええ!? ちょ、ちょっと!」

冴子は目をつぶった。

すると額にセリオンからの「息」が当てられたのがわかった。

ふしぎなことに冴子の体が少し軽くなった。

まとわりつくような重さが軽減された。

「あれ? 体が少し動くようになった」

冴子は体をいろいろと動かしてみた。

完全ではないが重みが消えている。

「うそ……信じられない……いろんな医者がお手上げだったのに……」

冴子とセリオンは居間にあるテーブルについた。

ちなみにセリオンのブーツは玄関に置いてきた。

「冴子、この世界は何という名前なんだ?」

セリオンが真顔で尋ねてきた。

「えっと……特に名前はないかな」

「世界に名前がない?」

セリオンは理解できないというような顔をした。

「えーと、しいて言うなら『チキュウ』かな」

「チキュウか。ではこの国はいったい何という名前なんだ?」

「日本」

「ニホン?」

「そう。一応先進国で、G7の一国、東の外れの辺境の国」

セリオンは顔をしかめた。

セリオンからすれば日本国が経済大国だろうが、先進国であろうが、どうでもいいことなのだ。

ましてや経済成長のためにこき使われるなど論外である。

「とりあえず、基本的なことはまた聞くことにしよう。まず、自己紹介をしよう。俺の名はセリオン・シベルスク。テンペルの一員であり、聖堂騎士団の聖騎士だ。青き狼とも、英雄とも呼ばれている」

冴子にはセリオンが言っていることがわからず、目を丸くするだけである。

冴子はお茶を入れた。

「これは?」

「これは緑茶。安心して、毒とかは入っていないから」

「では、いただくとしよう……」

セリオンはお茶を飲んだ。

「うまいな。これはいける!」

「よかった。口に合わなかったらどうしようって考えてた。私も自己紹介するね。私は坂木 冴子。職業は声優」

「セイユウ? なんだ、それは?」

「えっと、声で演技をする役者のこと」

「声で? そんな職業があるのか、この国には……」

「ところで、何でセリオンさんはこっちの世界にやって来たの?」

「それは俺にもわからない。気づいたときにはチキュウにいたんだ」

「えっと、セリオンさんって信じられる人?」

「どういうことだ?」

「あんまりこの国の人に、自分は宗教関係者だって言わないほうがいいよ。変な目で見られるから」

「俺は自分の信仰を偽ることはできない」

「私はシベリウス教徒なんだけど、外ではあんまり宗教色を出さないようにしているんだ」

「!? この国にもシベリウス教はあるのか!?」

「? どうしたの?」

「いや、気になっただけだ。では、俺がエーリュシオンからチキュウに呼ばれてきたのは神の意思ということか」

「ただいまー! 冴子いるー?」

「あ、あの声は……」

冴子はドキッとした。

「? どうかしたのか?」

「あっ、セリオンさんをどうしよう……?」

「? 俺が何か問題でもあるのか?」

とそこに一人の女性がやって来た。

長いウェーブヘアの茶色の髪で、セーターとズボンを着用していた。

「あれ? 男の人? 冴子、あんた病気なのに男を連れ込んだの!?」

「そ、そうじゃなくて!」

冴子はしどろもどろになった。

「あ、綾女! この人はセリオンさんって言って、あの、その」

「冴子、少しは落ち着きなさい。男と密会しているのがばれたってそこまで慌てることはないでしょう?」

綾女はびっしりと指摘した。

「その人は何? 外国人? 目が青いのね?」

「俺か、俺はセリオン・シベルスクだ」

「セリオン・シベルスク!?」

「? そんなに驚くことか?」

「セリオンっていったらヘルデンリートの主人公と同じ名前なのね?」

「ただいまー!」

「ただいまー!」

「ただいまー!」

「あら、セラ、マリヤ、良子も帰ってきたのかしら?」

三人ともリビングにやって来た。

「あら、男の人?」

とセラ。

セラは金髪の髪に青い、タイトスカートのスーツを着ている。

「男の人がいるの?」

マリヤは茶色の長い髪に緑色のシャツにズボン。

「え? 男の人!?」

良子は紺色のセーターにタイトスカートをはいていた。

三人は三人とも目をぱちくりさせた。

「あー-! もう! 一から説明させてー-!!」

冴子の叫び声がリビングにこだました。

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