第9話 嘲りや蔑みを越えて
門番にアカデミーの学生証と冒険者ライセンスを提示して城門を抜けると、そのままの流れでダンジョン入り口に進む。
進むにつれ冒険者の恰好をした人間が徐々に増えてくる。俺たちは遠足の前日のような心持ちで受付の列に並ぶ。だが、間もなくして冷水を頭からぶっかけられたかのように俺たちの気分はズドンと沈む。
「おい! 見ろよ! 噂の落ちこぼれパーティーがいるぜ?」
「あいつら本気かよ! あんなひどいパーティー構成でいけると思ってんのか?」
「うはっ! 装備もしょぼ! あいつらダンジョン初心者かよ!」
「マイナージョブすぎて『専用装備』が手に入んないっしょ?」
「いやー、誰かさんたちと違って自分らメジャーなジョブで良かったわー!」
「目障りにゃ。才能ないんだからさっさとアカデミーを辞めればいいにゃ」
「そう言ってやるな。きっとこれは奴らなりの思い出作りなんだろうぜ!」
「そうね。どうせ学期末が過ぎたら永遠にさよならね」
周囲のパーティーからさまざまな嘲りが漏れ聞こえてくる。
ついさっきまで輝いていた三人の表情が初対面の時のように曇っている。目を伏せ、唇を噛みしめ、背中を丸め、三人ともただただ屈辱に耐えている。
俺の現在の年齢は15歳だが、中身は30代半ばの元サラリーマンだからだろう。捨てられた子犬のようなメンバーの姿に猛烈な庇護欲を掻き立てられる。
熱血教師よろしく三人のことを全力で抱きしめてやりたくなった。そして嘲る連中を全員ぶっ飛ばしてやりたくなった。
けれど、俺は拳を痛いくらいに握りしめるだけでなにも言い返さなかった。
なぜなら、それらが根も葉もない中傷ではなく、俺たちにとって大なり小なり心当たりのある内容だからだ。
冒険者は実力主義だ。ダンジョン内は実力社会だ。悔しかったら結果で黙らせるしかない。だから俺はリーダーとして皆の肩をぽんぽんと叩くと、
「自分たちのことに集中しよう」
そう怒りを押し殺して静かに励ます。いや、励ましというか事実を言っただけか。崖っぷちの俺たちによそ見している余裕はないのだ。
幸いにも少しは効果があったらしい。皆が弱々しくではあるが笑顔を浮かべ小さく頷いてくれる。
三人の健気な様子に「この落ちこぼれパーティーのために全力で頑張ろう」と俺の胸はさらに熱くなるのだ。