第4話 希少さと強さは必ずしも比例しない
春に入学する頃には俺が世界唯一の忍者だという噂は知れ渡っており、俺は俄かにアカデミーの有名人だった。
「ジュノンくん! 良ければ一緒にパーティーを組まないか?」
会う人会う人に期待に満ちた瞳でそう持ち掛けられる。ちやほやされるのは最高の気分だ。単純な俺は前世で味わったことのない幸福な時間に有頂天だった。
しかし、周囲の俺を見る目が冷めてゆくのに大して時間はかからなかった。
残念ながら希少さと強さは必ずしも比例しないらしい。
忍者は既存のジョブ中で最高の俊敏性と回避率を持つが、それ以外のステータスは平均以下の期待外れジョブだったのだ。特に火力は前衛系ジョブの中でも下から数えた方が早かった。
ならば前例のない忍者よりも【剣士】や【拳闘士】など認知度が高く先人たちの努力によりパーティーバトルでの立ち回りがすでに確立された前衛ジョブのほうが圧倒的に効率は良い。
その結果、幾つかのパーティーをたらい回しにされた挙句、
「皆との話し合いの結果、君にはパーティーから抜けてもらうことになった」
一方的に戦力外通告を受けることになった。気づくと忍者は落ちこぼれジョブの烙印を押され、
「その話し合いに俺は参加してねーんだけどな! くそったれ!」
俺はすっかりやさぐれていた。
(……もういい。パーティーなんて組まない。ソロで攻略してやる)
不幸中の幸いか。忍者はソロ性能だけは高かった。パーティーボーナスがないのはかなりの痛手だが、余計なストレスを抱えるくらいな一人のほうがマシだった。
「このままおめおめと村に帰れるかよ……」
俺はがぶりとトマトにかぶりつく。定期的に送られてくる両親からの励ましの手紙と故郷の野菜が唯一の心の支えだった。
◆◇◆◇◆
「――そんな感じでこの半年ほど、一人寂しくダンジョンに潜り、火力がないから低層でチマチマと雑魚モンスターを狩る、という途轍もなく地味な生活を続けてきた。そんな哀れな俺を見かねてナナミ先生が声をかけてきたってわけさ」
改めて自分の現状を口にしてみて改めて傷つく。息巻いてみたものの一人では階層ボスにさえたどり着けなかったのだ。
「あー、ごめん……なんか愚痴っぽい自己紹介で……」
反省だ。沈んでいるみんなを少しでも和ませようと思ったのだが、口を開いた途端、溜まりに溜まった鬱憤が吹き出して止められなかった。
ところがである。怪我の功名か。本心を曝け出したことでメンバー同士の結束を生むことになる。
「心中お察し申し上げます! 戦力外通告される瞬間というのは本当に辛いものです……覚悟をしててもお腹がぎゅっとします……」
「ああ! 一人でダンジョンに潜る惨めさったらない! 周囲のパーティーからの蔑むような視線が刺さるんだ……」
「うん。痛いくらい共感できるよ。ぼくたち全員が君と同じような辛い経験を多かれ少なかれ味わってるからね」
落ちこぼれの気持ちは落ちこぼれが一番理解できるということらしい。三人とも頭が落ちるんじゃなんかというほど大きく頷いている。
すると、居ても立っても居られないという様子で角の生えた青髪の少女が椅子からガバと立ち上がる。
「あたしはセブンブレイズ出身の鬼族、ラヴィアン・ラヴァースだ! ラヴィと呼んでくれ! 年齢は16歳だ! ジョブは【暗黒戦士】だ――」