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第3話 この世界はダンジョンで廻っている

 清廉な白装束に身を包んだ職業神託官がおごそかに告げる。


「あなたのジョブは――ニンジャです」


 直後、神殿内が爆発的などよめきに包まれる。なにごとかと戸惑う俺に職業神託官が教えてくれる。

「ニンジャというジョブはあなたが《《世界初》》なのです」

 すぐさま俺はストラーヴァの王都にある【王立職業研究所】に連れていかれ、宇宙人にさらわれた人間のごとく数日ほどあれやこれやと大人数の研究員に朝から晩まで身体をいじくり回されることとなる。

 その結果、判明したのは忍者ニンジャが物理寄りの前衛戦闘職であるという事実だけだった。マジかよ。

 戦闘職ならばと経過観察もかねて【王立冒険者アカデミー】への入学が決まる。王立冒険者アカデミーはダンジョン攻略を目的とする冒険者を育成するエリート教育機関だ。


 そうこの世界にはダンジョンが存在しているのだ。


 王都の中央にそびえ立つストラーヴァ城の地下に【無限迷宮むげんめいきゅう】と呼ばれる果てしないダンジョンが広がっている。

 世界はその【無限迷宮】を中心に回っていると言っても過言じゃない。


 生き物のように定期的に内部構造を変える底の知れない未曾有のダンジョン。そこから排出される資源や食材は世界中で珍重され高値で取引される。

 宝箱やモンスターからドロップする貴重なアイテムなどに至っては家が一軒建つほどのルナが動くことも珍しくない。

 無限迷宮も例に漏れることなく、深く潜れば潜るほどレアなアイテムが手に入るという寸法だ。


 さらに特筆すべきは無限迷宮では女神ルナロッサの加護によりダメージの概念が信じられないほど緩いことだ。

 仮に腕が折れたとしてもほぼ無痛なのだ。ただしモンスターも痛みに鈍感であるためライフがゼロになるその瞬間まで怯むことなく襲い掛かってくるわけだが。

 ちなみに冒険者はライフがゼロになったらダンジョンの外へと強制的に転送される。まさにゲームオーバー。前世で寝る間を惜しんでのめり込んでいたMMORPGのような気軽さだ。


 なぜ無限迷宮の内部だけがそのような特別な仕様なのか――――?


 所説あるが最も有力なのは冒険者によるダンジョン攻略が『運命の女神ルナロッサ様の娯楽である』という説だ。

 巨大水晶球でダンジョン攻略の様子がライブ配信されている点や、ご丁寧なことに冒険者やモンスターのライフやマナがゲームのように《《可視化》》されている点など、観る者に配慮されているとしか思えない仕様が幾つもあるからだ。

 そんな物好きな女神様のことだ。俺という転生者《異物》をわざわざこの世界に招き入れたのも娯楽の一環なのだろう。

 見世物にされるのは愉快な気分じゃない。だが、終わるはずだった人生が、形を変えてではあるが、続けられると考えれば悪くない取引だろう。


 とにかく『どうぞダンジョンに挑戦してください』と言わんばかりの環境が無限迷宮には整備されている。

 年末に宝くじを求めて人々が行列を成すがごとく、富や名声はたまたロマンや知的好奇心を求めて日々冒険者が、100階層とも1000階層とも噂されるダンジョン最深部を目指すのは当然のことであった。


 ただし、ダンジョンへの挑戦は誰しもに与えられた権利ではない。戦闘職のジョブにのみ与えられた特権だ。

 無限迷宮は奥深くに潜れば潜るほど行く手を阻むモンスターが手ごわくなってゆく。さらに運だけで階層を踏破できぬよう10層ごとに階層ボスとの激熱バトルがお待ちかねだ。

 俺の両親は非戦闘職だったため冒険者の夢を泣く泣く諦めたらしい。その反動かもしれない。


「戦闘職だなんてやったじゃないか! ジュノン! 父さんは嬉しいぞぉ!」

「ジュノン! あなたは母さんたちの誇りよ! 盛大にお祝いしなくちゃね!」


 忍者ニンジャという訳の分からないジョブだったにも関わらず戦闘職というだけで両親は狂喜乱舞してくれた。それこそ勇者でも誕生したんじゃないかという勢いで村人総出で王立冒険者アカデミー入学を祝ってくれた。

 いくらなんでも大げさすぎると思わないでもなかったが、前世で身寄りのなかった俺にとって両親や村人たちの温かさは格別だった。

 これを味わえただけでも転生した甲斐があったと本気で感じるほどだ。


「せっかくだし……この人たちの期待に応えたいな」


 俺は嘘偽りなくそう思うのだ。

 

 

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