第2話 職業選択の自由ってなにそれ美味しいの?
俺ことジュノン・ジュリアスが『転生者』だと自覚したのは12歳の頃だった。
流行病で高熱に浮かされ三日三晩寝込んでようやく目覚めた朝のこと、落雷に撃たれたかのごとく前世の記憶が突如として蘇る。
あふれ出した膨大な記憶の洪水に頭の中をぐちゃぐちゃに蹂躙され、お陰で俺は再び三日三晩寝込むことになった。
どうやら前世の俺は三十代半ばの日常アニメやMMORPGやバトル漫画が大好きな身寄りのない平凡なサラリーマンらしかった。
一方で現在の俺はストラーヴァ王国の辺境の村で優しい農家の両親と暮らす容姿も学力も運動能力も至って平均的な平凡な少年だった。
「なんでやねん!」
思わず前世のノリで突っ込んでしまった。
「普通すぎだろ! 転生って人生がもっと劇的に変わるもんじゃないのかっ!?」
例えば魔王を討伐せんとする勇者とか、世界を破滅から救う大魔法使いとか、美少女たちにモテまくる超絶イケメンとかなんとか。
正直、期待外れだ。こんなことなら前世の記憶など思い出さなければよかった。いや、待て。諦めるのは尚早か。
なぜならこの世界には特別な『ジョブシステム』が存在しているからだ。
それは【運命の女神ルナロッサによる職業神託】である。
この世界では14歳になると主要都市にある『運命の神殿』に集められ、女神ルナロッサの代理人たる職業神託官から固有のジョブを神託されるのである。
例えば現在の両親が農家をしているのは【農民】のジョブが神託されたからに他ならない。ちなみに【神託官】も固有ジョブだったりする。
「職業選択の自由がないなんてひでーブラック異世界だ」
このシステムを知った当初はそう思いもしたが、よくよく考えてみれば前世も十分に理不尽だった。
俺の幼い頃の夢はプロ野球選手だったし、第一志望は法学部だったし、本命の大手ゲーム会社には最終面接で落とされた。
考えてみれば誰しもがなりたい自分に必ずしもなれる世界ではなかった。
後二年か。なら、それまで異世界生活を満喫しようじゃないか。
それこそ【勇者】みたいなど派手なジョブを神託されれば俺の人生は激変するのだから。むしろジョブを得てからが真の異世界人生の始まりと言えそうだ。
ところがである――。
俺の淡い期待はついに迎えた14歳の神託の儀で一瞬にして吹き飛ばされる。
「あなたのジョブは――ニンジャです」
勇者でも大魔法使いでもなく俺のジョブは忍者だった。