第1話 落ちこぼれジョブたちによる絶望的邂逅
「お前ら四人でパーティーを組め。異論は認めん」
由緒正しき王立冒険者アカデミーの旧校舎の空き教室に集められた男女四人は褐色の女教師からそう命じられる。
「……おえっ」
俺は学旅行のグループ決めで『好きな者と組んでいいぞぉ』と担任教師から言われたが誰にも誘われず残り物のメンバーと組む羽目になった《《前世》》の苦い記憶が蘇り密かにゲロを吐きそうだった。
(いや、これ……アカデミー最弱のパーティーじゃね?)
おそらく他の三人も似たような感想を抱いるに違ない。黄昏に染まる皆の表情は絶望に満ちている。
絶望の理由は明白だ。俺たち四人がこのアカデミーの誰もが知る『落ちこぼれ』だからだ。誰にもパーティーを組んでもらえない嫌われ者だからだ。
俺の右から角がこめかみ付近から生えた【暗黒戦士】の青髪少女、頭上の猫耳がピョコピョコと忙しない【呪術師】の金髪お嬢様、エメラルドの髪から覗く尖った耳が特徴的な【自然術士】の長身エルフという訳ありマイナージョブのオンパレードである。
俺は堪らずに髪をもしゃもしゃとかき混ぜる。
(どうすんだよ……ジョブ構成もむちゃくちゃじゃん。こんなパーティー上手くいきっこないだろ)
だが、俺は文句を言える立場にないのだ。いや、四人全員か。
なぜなら俺たちは次の学期末までに『ダンジョンの10階層を突破』しないと退学が確定している崖っぷちの四人だからだ。
そんなお通夜のような旧校舎の教室とは裏腹に、
「おおおッ! 【聖姫士】率いるパーティーが40階層を突破したぞおおおおおおおおおお!」
本校舎の中庭から大歓声が響いてくる。巨大水晶球に映し出されたダンジョン攻略の様子にアカデミー生たちが興奮しているのだ。落差がえぐい。
重たい空気に耐えきれなくなったのか女教師は、
「私は急用を思い出した。あとはジュノンが仕切れ。ではさらばだ!」
そう言い残して教室を逃げるように去ってゆく。
「ふざけんなよ! なんで一番年下の俺が!」
無責任な女教師の背中に抗議をぶつけるも、皆の表情を窺うに俺が一番精神的なダメージが少なそうではある。
それとこれは誰にも言ってないが、俺は《《前世では三十代半ばのサラリーマン》》だったのだ。ならば元社会人として俺が仕切るべきなのだろう。
「あー、えーっと、その……とりあえず自己紹介しようか」
言い出しっぺ自ら席を立つ。
「俺はジュノン・ジュリアス。ストラーヴァ王国の辺境の村出身だ。15歳だ。みんなも知っての通り、この世界でたった一人の【忍者】だ――――」
この中世ヨーロッパ風の異世界に忍者という概念は存在しない。
運命の女神ルナロッサから忍者という特殊なジョブが与えられたのはおそらく俺が《《転生者》》だからだろう。