第八話 勇者、出立の日
「ここは、どこなんだ......?」
俺は、確か、あの吸血鬼と話していて、それから、魔法陣のようなものにはめられ、それから……?
飛ばされた?
ここは王都?
王宮の、目の前に飛ばされたのか?
一体、何があったんだ。
「どうやら、俺たちは転移魔術でここに飛ばされてきたみたいだ」
「アレンさん……
でも、一体どうやって……?」
呟いたのはセシリアだ。
どうやって、そんなこと俺にもわからない。
そもそも、転移魔術があるなんていうことも俺は知らない。
そんな魔術は、少なくとも剣士であるおれは知る由もないだろう。
だが、魔術大学次席のセシリアですら知らないのなら、この場であれを知っているのは一人になる。
「それは、すまない、わからないんだ
アリサ、あの魔術について、何か知ってるか?」
俺は恐る恐る、顔色を窺いながらアリサに聞く。
アリサが今まで見せたことのない顔をしているからだ。
綺麗だった長い髪がすっかり荒れてぼさぼさになっている。
「知らないわよ、あんな魔術」
「……そうか」
アリサが怒りを丸出しにしながら返事をする。
実際、彼女がなぜ起こっているのか全く見当もつかない。
だが、彼女はめったに怒りを面に出さない。
きっと、相当に参っているのだろう。
「あんな魔術、学校では習わないもの
でも、私は知ってる、あれは、滅亡した文明が残した禁忌の魔術よ」
禁忌の魔術、そんなのが存在するなんて。
「……とりあえず、王城に戻ろう
俺たちは、これを国王様に報告しなければいけない」
「そうね、あの魔術と倒せなかった始まりの吸血鬼の事は気になるけど、城の外の吸血鬼たちはみんな倒したし、あいつらもすぐには復活することはないと思うわ」
「そうですよ、アレンさん
アレンさんが始まりの吸血鬼さんと話してるとき、私たちは三人で二人の強そうな吸血鬼たちと戦ってました
三対二だけど、それでも互角だったんです」
アリサとセシリアが、俺を慰めている。
でも、そんな慰めは、今はいらない。
俺は、ただ。
始まりの吸血鬼に敵として見られていなかったことが許せないんだ。
始まりの吸血鬼は、俺と話すときにずっと下を向いていた。
普通、武装したものが本拠地にくれば、いつでも応戦できるように姿をとらえておくのが当たり前だ。
あの魔王だってそうしたはずだ。
それが、彼女は、俺の姿を見たのは最後の一瞬だけで、それ以外はずっと下を向いて震えていた。
そんなの、そんなのないじゃないか。
許せない、やつに敵として見られなかった自分自身の未熟さが、許せないんだ。
「……そう、だな」
「さ、はやく王様に報告しましょう
きっと、明日は凱旋よ」
アリサの言葉にガセフ以外の全員がうなずき、俺たちは王に戦果の報告をした。
アリサたちが嬉々として戦果を報告している中、俺の気持ちは複雑だ。
ずっと、去り際に始まりの吸血鬼が吐いた言葉が、頭の中で反芻する。
『私は君の敵じゃない』
『私たち吸血鬼は君たちの国を滅ぼす気なんてない、お互いに不可侵でいた方が国のためだろう』
『私はただ、静かに暮らしたいだけだ』
俺を見た彼女の赤い瞳は、妖艶さの中に、死を覚えてしまう怖さがあった。
底知れない彼女の余裕さ、王国そのものが敵じゃないといわんばかりの態度。
間違いない、彼女は王国の長い歴史の中でも最強の魔物だ。
それから行われた王都凱旋でのアリサたちの明るい表情は、俺の心を無意識に抉っていた。
***
凱旋の後、ガセフが俺たちを連れだして酒場に集まった。
なんでも、酒場にいたみなにおごるのだそうだ。
酒場は大いに盛り上がった。
ガセフの気ままな施しにみなが悪乗りをする。
あやうく、酒場が壊れてしまうのではないかと思うほどの狂乱ぶりだった。
「馬鹿騒ぎは終わりだ、ガセフ」
「ああ、わかっている、アレン
お前こそ、最後の酒場は楽しめたか? これはお前のための宴なんだ、お前が開くって言ってたからな」
そんなの、わかっている。
俺は、ガセフにしか言っていないことがある。
それは、これから旅にでるということだ。
俺は、己を鍛える旅に出る。
吸血鬼たちに打ち勝てるほどの実力を手に入れて、吠えずらを掻いているやつを必ず屠る。
そのために、俺は。
聖剣に頼った戦い方をしていてはだめなのだ。
俺は、剣王の技術を盗む。
「ああ、楽しめたさ。 ありがとうよ、ガセフ」
「はっ、礼なんていい
そんなことをするくらいならあいつらもその旅に誘ってやれよ?」
「いや、ダメだ
これは俺の旅なんだ、俺のための戦いなんだ」
ガセフの言っていることはよくわからない。
なぜこの度にアリサたちを連れて行かないといけないのか、俺には全く理解ができない。
「あ?
いいかアレン、よく聞け
俺たちはSランク冒険者、勇者パーティーだ
最終的にあいつらや魔王と戦うのは俺たち四人なんだ」
「そんなの、わかってんだよ」
「いいやわかっていない」
むかつく野郎だ。
俺を批判したいならそう言ってくれ。
はやく用件だけをいってほしい、俺は、今すぐにでも出発したいんだ。
「よく考えてみろ
最終的に戦うのが四人なのに、お前だけが鍛錬をしたらどうなる?
俺たちも連れていけ、アレン
それがパーティーだろ?」
あ、ああ……。
そうか。俺は、勘違いをしていたんだ。
やつと話したのが俺一人だから?
周りが見えていなかった?
そんなことこの際どうでもいい。
そうだ、俺たちは仲間なんだ。
俺が一人で鍛錬を積んでも、それは全く意味がない。
俺たち四人で、ともに強くなってこそ、その力に本当の意味が宿るんだ。
それが、仲間という物なんだ。
なんで、そんなことを忘れていたんだろう。
ガセフ、ありがとう。
言葉には出さないが、俺はお前に感謝している。
「そうよ、アレン
私たちも連れて行きなさい?」
「そうですよ、アレンさんっ!!
私たちは仲間なのですから」
いつの間にか話に入っていた二人も、俺を説得してくる。
そうだよな。
俺は、みんなと一緒に戦うべきだ。
「ああ、俺が間違っていたよ、ガセフ
それにみんな」
「はっ、そのくらい自分で気づけってんだ
リーダー」
「アレンさん、なにを悩んでるのかは知りませんが、一人で抱え込まないでくださいね、私たちは仲間なのですから、アレンさんの悩みは、私たちの悩みですっ」
俺は、みんなの顔を等分に見て、声高々に告げる。
もう、答えは知っている問いを投げかけよう。
「俺は、西の国の剣王のもとに弟子入りしようと思う
ガセフ、セシリア、アリサ
俺に、ついてきてくれるか?」
「当たり前でしょ?」
「はいっ!! アレンさん!!」
「へっ!! 行かないわけがないだろう? アレン」
仲間とは、かけがえのないものだ。
彼らは、俺の短い人生になかで、必ず一番大事な記憶の一部になるだろう。
俺は、仲間の意味をやっと理解できた。
「じゃあ行こう、出立は今夜だ!!」
ここまで全9話読んで頂きありがとうございます!!
一応これで一章が終わる予定です。
精神的なやつと眼精疲労と実家に帰還命令などが出ていて次回更新がいつになるかわからないので一応完結としておきます。
拍子抜けですいません。本当に申し訳ない。けど八月中に再開しますので暖かく細めた目で見ていただければな、と思います。願望です。
それはそうと報告させてください。
カクヨム甲子園のなんとかぐっとれびゅわー?に相坂が選ばれたみたいです。嬉しい限りですね。
あと朝最強テンプレ設定が降ってきたので体調が戻り次第吸血鬼ともども更新していこうと思いますので、まあ、あくまで思っているだけですがそんな予定なのでぜひ読んでください。
以上、作者の相坂でした。長文、駄文、お目汚しすいません。
改定
どうやら完結ブーストなるものがあるらしく、それを狙ったのでは?という憶測が飛び交うらしいので完結は取り下げます。