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第七話 会議

 あのあと、私は十万以上の吸血鬼たちを治療した。

 って言っても一か所に集まってもらって、レーゲンに編んでもらった大規模術式を私の治癒魔法で起動しただけだけど。


 それで今は、最高幹部を自称している三人に、ちょっと前に言ったように玉座の間に集まってもらった。

 レーゲン以外の二人が得意げな顔をしているが、私はそんな気分にもなれなかった。


「それじゃあ、これからどうするかを話し合っていこうと思うのだけれど――」


 私がそういうと、三人が一斉にこちらを見てくるから少し笑いそうになる。

 レインたち二人は満足げだが、レーゲンだけは不安そうな、もというかない顔をしていた。笑いそうになるが、これから話す内容は深刻そのものだ。

 少し表情を作っていかないといけない。


「……私、思ったんだ

 私が女王になって三十万人も吸血鬼を従えてること自体が間違いだったんじゃないかな、って」

「そ、そんなことないですヨルン様!!僕たちが不甲斐ないばかりにっ!!」


 レインが食い気味に言う


「……勇者にもいったけど、私はただ静かに暮らしたいだけなんだ」


 そういうと、今度はレインとユキすらも深刻そうな顔になった。

 今にも泣きだしてしまいそうな顔だ。

 不安、悲しみ。そのどちらともつかないような顔がそこにはあった。


「……ヨルン様がそうおっしゃるのであれば、わたくしどもは人類を滅ぼすことだって辞しませんが、いかがなさいましょう」

「……?」


 言ったのはレーゲンだ。

 話聞いてた?

 会話になってないんだけど……。

 私はレーゲンを信用していたのに、レーゲンまでも話が通じなくなったら私はどうすればいいんだ。


 そうだ、重要なことを思い出した。

 私は、吸血鬼はおろか、人間に恨まれるようなことをした覚えがない。

 それに彼、勇者と呼ばれていた男は私の名前を知っていた。

 つまり、誰かが外で私の名前を使って活動しているか、もしくは人間を襲ったときに私の名前を言ったかしたってことだ。

 そこで、レーゲンとユキの班はまずこの城、もといこの都市からでない。

 ということは残された選択肢は一つ、レインの班だ。


 確かにレインは喧嘩を多くする少年気質なところがあるからありえることだろう。

 だが、だとしたらレインは一体人間に何をしたのだろうか。


 そもそも、何回も言うが私は魔物の血を取ってこいと命令している。

 人間と会っても無視するか逃げてこい、と。

 あらかじめそう伝えてあるのだ。


「それと、レイ?

 レイって人間と接触してないよね?」

「い、いえ、してません」


 してない、か。

 だとしたら勇者が私の名前を知っているのはおかしい。

 いや、他の吸血鬼たちの間の噂を人間がキャッチしたという可能性は捨てきれない。

 そうなると、ときどきこの城から出ることがあるのはユキだ。


「ユキは、なにか知ってる?」

「いや、私はなにも知りませんが……

 しいて言うなら昔レインが自慢げにそんなことを言っていたような気がします

 何分昔のことなので曖昧ですが……」


 レイン黒。

 黒確です。

 ユキは嘘をつかない。

 特に、私に対しての嘘なら持っての他だ。


 もちろん、今みたいに少しだけ濁したりはするか、嘘だけは絶対につかないのだ。

 どんまい、レイン。

 君は黒だ。


「……レイ、勇者がここに来た理由も私のありもしない噂だった、それにある時から血液が美味しくなった

 ......まさかとは思うけど私に黙って人間を襲ったりしてないよね?」


 レインが顔を背けて挙動不審になる。


「え!?いやその......そんなことはないと......思います......よ……?」

「......その反応は絶対にやったよね?

 私が命令した通りに魔物の血を取ってさえいれば、勇者がきてこんな大変なことにはならなかったんじゃないの......?」


 レインがうつむいた。

 もう隠そうとなんかしなくていいんだ。

 君は黒。もう無理だ。


 限りなく光を吸収している。

 それは、吸血鬼としては最高の姿なのだが、今この場においてはただ惨めなだけだ。


「も、申し訳ありません......その......どうせならヨルン様に、その、美味しい血を飲んで、頂きたいな、と......」


 段々語気が弱まっていくレインは、みていて何とも惨めに見えた。

 惨め以外の言葉が出てこない。

 もともと私はボキャブラリーにとんだ人間ではないのだ。


 レインはもう無視しよう。

 所詮もう何を言ったところで命令違反の言い訳でしかないし。

 どうせロクなこと言わないし。

 さあ、さっさと会議を進めよう。

 本題に入らずにレインを攻めるだけの会議でもいいがあとが面倒臭くなる。


「……で、だ、さっき私は勇者に交戦の意思がないことを伝えた

 からもうこれ以上人間が攻めてくることはないと思うけど、念のため、それを未然に防ぐ方法を考えたい、なにかいい案はある?」

「それならヨルン様

 都市の外に大きく結界を張るのはどうでしょうか」


 言ったのはユキ。

 頼もしいな、ユキは。

 どっかの命令違反とは違って優秀だ。

 あ、でも朝、勝手に部屋にきて私に抱き着きながら寝ているの知ってるからね。


「結界って、どんなものを張るの?」

「吸血鬼以外の生物をはじく結界です」

「そっか、それ採用

 じゃあレーゲン、準備を頼める?」

「もちろんにございます

 このレーゲン、かならずやその命にこたえて見せましょう」


 レーゲンも相変わらず頼もしいや。

 どっかの命令違反野郎とは違って。


「ユキも、ありがとう

 ユキとレーゲンは頼もしいね、君たちがいてくれて助かるよ」

「はっ、ありがたき幸せにございます」


 レーゲンが答えて、ユキが顔を赤くしている。

 もしかしてユキってちょろいのだろうか。


 まあいいか、そんなこと。

 レインは……。

 ずっと俯いている。


 しょうがないよね。今レインをほめることはできない。

 だってこの事態を招いたのはレインなんだから。


 レインが具体的に何をしたのかなんて全くもってわからないけれど、まあきっとろくでもないことをやらかしたんだろう。


「じゃあ、大体の方針は決まったから、会議は終わり

 みんなお疲れさま、今日はありがとう、

 あとユキ、夜中に勝手に私の部屋にきて抱きついて寝てるの、バレてるからね?」

「……え?

 わ、わかってたんですか!?」

「当たり前でしょ

 ほぼ毎日抱き着かれてるのに逆に気づかないと思ったの?」

「申し訳ありません、もうしません……」


 そんなに反省しなくても。

 ああ、レインも見習えこの姿を。


「いや、別に迷惑じゃないからいいよ、甘嚙みするのはやめてほしいけど」

「本当ですか!!

 ありがとうございます、ヨルン様!!」


 やっとおわった。

 これで今日やることはもうないな。


 ……いや、一つ残ってた。

 レインのお説教がまだだ。


 レインから話を聞かなきゃ。


「よし、じゃあ解散!!

 でもレインは残ってね、ちょっと話があるから」

「……はい」



 ***レイン視点***


「はぁ……」


 まさか人間を襲っただけであんなに怒られるとは思わなかった。

 たかが人間ごときで、ヨルン様は相変わらず慈悲深いお方だな……。

 人間なんて僕らからしたら食料でしかないのに。


 にしてもこわかった。

 貧血になりそうだ。

 ふらふらする――。


「大丈夫……?」

「ユキか……これが大丈夫なやつの顔に見えるか?」

「あ、ごめんね……

 まあ、ヨルン様になにを言われたかはわからないけれどさ、きっと許してくれたんでしょ?」


 ユキ、なんか今日は優しいな。

 普段僕をおちょくってくるだけの憎たらしい女が、今日に限ってなぜこんなに。


 いや、自分が嫌いなやつだからって余計な詮索をしてはだめだ。

 気に入らないことには変わりないが、ちょっとは評価を改めるのもいいかもしれない。


 ……そうだ。

 さっき俯きながらヨルン様の話を聞いていたけれど、ユキがヨルン様と一緒に寝ているとかなんとか聞こえたような気がした。

 しかも許されていた。


「そうだな、ヨルン様は寛大で、慈悲深いお方だ、今回の最大の戦犯の僕でも許してくださった

 それとユキ、お前ヨルン様といっしょに寝てるって聞いたんだが……」

「ん?

 なに?羨ましいの?」

「そ、そんなわけないだろ!!」


 うらやましいなんて、そんなわけないじゃないか。

 ただ、なんとなく心がもやもやするだけだ。

 きっとこれはユキだからなっているだけなんだ、僕がユキの事を嫌いだから、そうなっているだけだ。


 ふと見たユキの顔が、いつもの憎たらしいおちょくり顔になっていた。


「レイくんかわい~!!」

「レイくんって呼ぶな!!死ね!!灰になれ!!」


 やっぱり、こいつの評価なんて改めなくていいのかもしれない。

 ……こいつ嫌いだ。

 本当、灰になればいいのに。

一日一話投稿にしていきます!!

それと、最近眼精疲労からまじで体調が芳しくないのでたまに休むかもしれません……

いじょう、あいさかでした

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