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第六話 ラミリスの勇者

「ようやく、ようやく辿り着いた……!!

 お前が始まりの吸血鬼だな……?」


 来ちゃった……。

 来ちゃったよ人間。どうしよう。


 いや、でも作戦は伝えているし、レインとユキは信用できないけれど、レーゲンなら大丈夫だろ――。


「ふんっ!!」


 男が叫んだと同時に、空気を切り裂くような、なにかの音が耳をつんざいた。

 なんだよ急に……。

 びっくりした――。


 は?


「貴様らのような雑魚に用はない

 俺が用があるのは始まりの吸血鬼だけだ!!」


 いや、え?

 何があったかは見てなかった、だからそんなことわからない。

 けれど、勇者の周りには五人くらいの吸血鬼だったもの――灰が転がっていた。

 なんだよそれ、そんなの勝てないじゃん。

 軽く振っただけで吸血鬼蒸発させるとかチートもいいところでしょ。おかしいって。


 あんなの、私みたいな弱い吸血鬼、触れただけで灰になるじゃん絶対。

 やばい、震えが……。


 最初死のうと思ってたなんて嘘みたいだ……。

 もう怖すぎて前見れないもん、ずっと自分の白い手を見てるもん。


 ああ、なんか言ってたから返事しないとな。

 声が震えそうだ、女王ロールを崩さないように、威厳たっぷりに言い放そう。

 頑張れ私。


「やっと来たか勇者

 僕は嗜虐のレイン、始まりの吸血鬼様の従順なる僕にして最高幹部の一人だ」

「待て、レイ……!!」


 私は勇者と呼ばれた男のもとに飛び出していったレインを急いで止めた。


 え、ていうかこいつ勇者なの?

 姿見れないからわからないけれど、こいつ勇者なの?

 確かに低めのイケメンな声だけど、声的には勇者っていうよりかは騎士とかそっち系だと思ってたんだけど……。


「レイン殿、こちらへ

 この場の指揮はわたくしが任されております故、殿同士ヨルン様と勇者殿で話をさせましょう

 あなた方はそちらの、三人の足止めを任せたい」

「……わかった」


 レインの不満げな声が聞こえてくる。

 でもレーゲン、ナイスだ。

 どう考えても勇者が一番強いだろうから、彼とうまく話せれば帰ってくれるかもしれない。


「任せましたぞ、レイン殿、ユキ殿――」


 *** アリサ視点 ***


 来たときから思っているが、ここは空気が悪い。

 埃臭いし、光は少ない。

 アレンの自信過剰な声に不つり合いなくらいに気味の悪い空間だ。


 それに、さっきから吸血鬼たちがなにかを話している。

 何を話しているか全く聞こえないが、作戦でも練っているのだろうか。


 セシリアは、少し震えていて、ガセフは相変わらず黙って目の前の少年と、少女のような吸血鬼を睨んでいる。

 その見た目は、遠目から見れば大きな椅子に座っている始まりの吸血鬼となんら変わらない、しかしまとう物が違うことは一目瞭然だ。


 始まりの吸血鬼は私たちがここにきても全く動じず、それでいて面倒くさそうにずっと下を向いている。


 まるで、私たちなんか視界に映す必要もないといわんばかりの態度だ。


 額に汗が伝る。

 話が終わったのか、少年のような見た目をした吸血鬼がこちらに近づいてくる。


「お前らは、勇者の仲間だな?」

「……そうよ、私はアリサ

 勇者パーティーの魔術師をしているわ」

「僕は嗜虐のレイン、お前たちをヨルン様のもとに近づけるわけには、いかない――」

「――ガセフ!!」


 レインと名乗った少年が一瞬で間合いを詰めてきた。

 早すぎる、これが城内の吸血鬼なのか。

 外にいたやつらとはまるで違う。

 肉薄、ガセフが少しでも遅れていたら私は死んでいたか、瀕死の重傷を負っていただろう。


「セシリア、私たちは後ろに下がるわ

 アレンがいなくても、このくらいならやれるってことを見せてやりましょう」 

「アリサさん……」

「支援魔法と、治癒魔術を頼めるかしら、ガセフを助けてあげて

 私は横の女をやる」

「わかりました……!! 《ホーリープロテクト》ッ!!」


 私は横を見る、横にいるさっきまでガセフが睨んでいた女を見る。


「あなたは、なんていう吸血鬼さんなんですか?」

「ん?それは私に聞いているの?」


 あんた以外この場にいないだろう。

 時間稼ぎのつもりか?


「ええ、あなたの名前、聞いてもいいかしら」

「私の名前ね……

 私はユキ、別に忘れてもいいよ」


 少女はユキというらしい。

 わたしは杖を構える、こいつらに負けていては、始まりの吸血鬼になんて勝てるわけがない。


「……レインのほうはもう始まっているみたいだけれど、そろそろこっちも始めましょうか――」


 *** ヨルン視点 ***



 とりあえず、そうだな。

 なんだろう、なんていえばいいんだろう。

 話をしようとか、そのあたり?


「勇者君、その剣を納めてくれないかな、話がしたいんだ」

「今さら話すことなんてないだろう

 国を滅ぼし、その民で人間牧場…!! 貴様の悪行は全て知っている!!」


 いやなんのことだよそれ……。

 どうやら私と同じ名前の吸血鬼がどっかの国を滅ぼしたらしい。

 人間牧場ってなんだよきいたことないよそんな物騒な牧場。


 ん?待って?

 国を滅ぼした?私が?

 どこの国だよ。

 私ここから出たことないんだけど。


 それ絶対人違いだよね。

 私知らないもんそんな人、ここにいるだけで国一つ滅ぼせるならお前らの国なんかとっくに滅んでんだろ。

 言いがかりにも程があるって。


「そんなこと知らないが……

 人違いではないのか?」

「お前……!!

 この期に及んでしらを切るか!!」


 あーあ、怒らせちゃった。

 この言い方はよくなかったか、それとも真実を言ったのが良くなかったのか。

 とりあえず敵じゃないことは伝えないと、うまくやるんだ、私。

 灰にならないように、私の命がかかっているんだ。


「私は、君の敵じゃない

 君も、できるだけ被害は出したくないはずだ」

「……」


 見上げられないから勇者の表情は見えない。

 黙っているのがなんか怖いが、続けて話しかけてみれば何とかなるかもしれない。

 乙女ゲームみたいな、あんな感じで。


「とにかくだ、私は君たちの国を滅ぼす気はないし、被害なんてなおさらだ」

「それはどういう……!!」



 だれかが駆け寄ってくる。

 勇者の仲間だったらどうしよう、そう考える暇もなく声をかけてきたのはレーゲンだった。


「ヨルン様、転移装置の準備が整いました」

「ああ、よくやった

 すぐに彼らを送り返せ」


 よかった、これで戦いが終わる……。

 どうにか、なんとか、ぎりぎりって感じだけれども。


「いいえ、ヨルン様

 この場にいる吸血鬼が魔術師の放った聖属性魔術で数名瀕死です」

「……わかった、今治しにいこう」

「申し訳ございません、ヨルン様」


 安堵からか、がちがちに固まってた体が少し軽く感じた。

 よかった、本当に。

 私は顔を上げた。


 話が住んでふと横を見ると、今はユキが幻術を使って勇者たちを一か所に集めているところのようだ。

 いつの間にかそれにさっきまで話していた勇者が含まれていて、彼らと同じように混乱の坩堝にいた。


 阿鼻叫喚。そこには『死ね吸血鬼!!』と言いながら味方のいかにも魔術師っぽい黒めのローブを着た女の子を切っている大男と『危ないですアリサさん!!』と言いながらユキに向かって魔法を撃っている白い少女。


 そしてそれを暇そうに見ているレインと、同じく暇そうに見ているユキがいる。


 このままいけば、普通に何とかなるだろう。


 一つ、気になることはあるが、それもきっと些細なことだろうし、今から起きることから考えればなんてこともない。

 あとで伝えてあげればいいだけだ。


 ……そういえば、勇者ってどんな顔しているんだろう。

 まあ、どうでもいいか、どうせもう見ないだろうし。

 一応、くぎを打っておこう、本当にもう二度と見ることのないように。


「勇者君、帰ったら君を遣わしたやつに言うんだな

 私たち吸血鬼は君たちの国を滅ぼす気なんてない、お互いに不可侵でいた方が国のためだろう、とね」

「始まりの、吸血鬼……

 お前の目的は、一体何なんだ!!」


 勇者が幻術であさっての方向を向きながら訪ねてくる。

 もうこの戦いも終わるし、盛大に格好つけて送り返してあげよう。


「私はただ、静かに暮らしたいだけだ」

「そ、それはどういう――」


 勇者がそういった瞬間に転移装置が起動し、青白い色の光があたりに充満する。


「君にも、いつかわかるさ――」


 言い終わるよりも少しだけ早く、勇者たち数人が光に飲まれて消えていった。

 さて、終わったのはいいが、なんでこうなったかだけはちゃんと話しておかないといけないな。

 っていうか、時間稼ぎのために最後の方適当に話していたが、一体何がわかるんだろうか。

 まあいいか。きっとわかるやつにだけわかる言葉なんだろう。

 言ったのは私だが。


「レイ、私は今からここを出て外の子たちを治療してくるから、帰ってくるまで君たちも用事を済ませてここにいて」

「わかりました、ヨルン様!!」


 それにしても、勇者がうちの吸血鬼たちを一瞬で灰にしたのは怖いな。

 彼が本気で襲い掛かってきたら、ここはすぐに落ちるだろうし。


 それも含めて、レインたちに話しておかなければいけないな。

相坂です。

アリさんが家を破壊しているので(食器がアリさんになりました)次回投稿おくれるかもしれません……

予定では三時になりますが、五時になるかもしれませんし、明日になるかもしれません、ご了承ください。


まあこれみてるひとなんかいないとおもうけれども

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