表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第三話 出立の時 アレンside (1)

***


 あの王国会議のあと、俺たちは王都凱旋をして、間もなく王都を南から出立、半年間にもわたる遠征が始まった。


 十万人、十万人もの兵士を引き連れて俺は今、王城から遠く離れた農村地帯、その近くの魔力濃度の濃い森を超えた先にある古国に向かっている。


 現在の位置は森を抜けた先、もうじきに目的地である吸血鬼たちの根城に付くところだ。

 距離にして人間1000人ほど、視界の端に大きな城が見えてきたころ、横並びで歩く仲間たちの討伐に対する熱意も徐々に高まってきている。


 ふと、俺は疑問に思った。

 なぜあんなにも大きく目立つ城と、それを囲むようにある都市の存在に俺たち人間は気づけなかったのだろうか。

 まるで何かに隠されているかのような――。


「おいアレン、もうすぐ着くぞ

 ……怖くてふるえてんじゃねェだろうな?」

「ちげぇよ、お前こそ、怖くてちびってんじゃないのか?」


 むかついたから笑いながら答えてやる。

 急に話しかけられて体が震えた。

 考え事をしていたんだ。

 しょうがないだろ。


 彼は俺のパーティーメンバーで王国の近衛騎士団長、騎士職において右に出るものはいないとまで言われれているほどの剣の使い手だ。


 その名をガセフ。

 彼と会ったのは結構昔の事で、俺たちはお互いの事をよく知っていた。

 よくも悪くも、だ。


 彼について最も印象的だったのは、多分あれだ。

 俺がまだ子供だった頃、勇者の末裔だからと成績が悪かったのにも関わらず貴族学校に入れてもらえた時の事だった。


 喧嘩っぱやいことで学内でも有名な方の人間だった。


 曰く、彼と目があったら殺される

 曰く、彼に話しかけたら殺される

 曰く、彼を見たら死ぬ


 そんな根も葉もない噂が立っていたのだった。


 面白がった俺は、俺に付きまとってくる取り巻きをガセフのもとに連れていってみた。

 本当に喧嘩になるのかな、って気になったんだ。


 彼は期待を裏切らなかった。

 それはそれは大喧嘩になったらしく、その経緯は知らないが、大量の警備員と宣誓たち、剣術の師範たちが彼を取り押さえたらしい。


 しかし、俺が驚いたのはそのあとだった。


 その騒動のあと、俺が使わせた取り巻きの一人に会いに行ったら、そいつは傷一つなく、むしろいつも以上に元気だった。


 頭が疑問でいっぱいだった。

 喧嘩はやいときいたから使わせてみたら大喧嘩になって、状況を聞きに見に行ったら取り巻きは無傷。

 なんだこれ。


 まあ理由は簡単だった。


 彼、ガセフはめっちゃ弱かったのだ。

 それはもう弱かった。

 遅すぎる拳とあっても変わらないような細剣、まるで飾りのような筋肉。


 彼の噂は所詮噂でしかなかったのだ。


 喧嘩はやいだけ、彼自身はただの一般人以下の雑魚だった。


 そんな彼の話を聞いたのは、それから数年後だ。

 彼は王国の近衛騎士団員にまで上り詰めていた。


 聞いてみれば、あの時掻いた恥が忘れられない屈辱になったそうだ。


 つまり努力家。

 そんな彼は今では勇者パーティーの騎士としてSランク冒険者になった。


 こんな小言を言い合えるのも貴重であるかと思わせるような、そんなすごい奴なのだ。


「アレン、それにガセフも、ほどほどにしな

 戦いにきてるのにあんたらが戦ってどうすんの?」

「だってよアレン、まったくよォ

 幼馴染に心配かけさせんなよ」

「いやどう考えてもお前もだろ」


 まったく騒がしい奴らだ。

 彼女はアリス。

 俺の幼馴染で、魔法学校を首席で卒業した上に、魔法大学での成績が常にトップだったらしく、実技、筆記共に最高成績を収めた王国で最強と言っても過言ではない魔術師だ。


 周りは彼女を若き才媛だとかよくわからない言葉で表現しているが、俺からすればそんなのは嘘、彼女のそれを才能なんかで片づけていいわけがない。


 彼女も、ガセフと同じように努力家だ。

 ガセフと違う点は元から才能があったことくらいなものだ。


 そもそもこの世界に魔術師は少ない。

 もしかしたらそれは王国周辺だけの話なのかもしれないが。

 人間は魔物たちなんかと違って魔力に干渉する力をほとんど持っていない。

 そのため魔力に干渉する力を、魔術を撃てるほどの力でもって生まれてくるものはすごく珍しい。


 珍しい上に、そんな才能しかないヤツらが集まっている魔力の吹き溜まりの魔法学校、魔法大学で成績がトップだった。


 彼女は俺の推薦枠でこのパーティーに加わったが、そんなことしなくても攻撃魔術師の枠は彼女で埋まっただろう。

 そう断言できるほどの実力が、彼女にはあった。


「アレンさん、このくらいの距離なら、敵の数を占うことができるかもです」

「本当か?セシリア」

「はいっ!!」


 彼女はセシリア。

 王国の聖女で、彼女もまた優秀な魔術師らしい。


 らしいというのは彼女についてはなにも聞かされていないからと、あってから三か月も共に旅をしているのに自分の事をまったく話さないからだ。


 清楚な見た目に反してミステリアスな雰囲気が漂う少女。

 年齢のころは15とかそこらだろう。

 ギリギリ成人の、まだ幼い少女だ。


 一つわかっていることは、彼女が魔法大学に特例で入学し、その上で常に次席だったということだけ。

 しかし、首席だったアリサは彼女の事を見たことがないといっているから、彼女が何者なのか、ここにいるメンバーの中にそれを知っている者はいないのだった。


「あ、アレンさん

 それと、ガセフさんにアリサさん……」

「どうしたの?セシリアちゃん」

「……敵の数を、言いますね」

「ええ、頼んだわ」


 ガセフはずっと目をつむり黙っている。

『気は熟した!!』とか叫びそうな風采をしている。

 俺はというとアリサの顔とセシリアの顔を交互に見てさっきのガセフの面で汚れた目を浄化している。


「前方、あの城の付近までで、吸血鬼が三十万もいます......」


 セシリアが暗い声で呟くように話す。

 ガセフが飲んでいたナニかを吹き出す。

 アリサが「は?」と素でキレてる。


 後ろに連れている十万の兵士たちから徐々に声が上がってくる。

 不満に満ちた声、怒り、悲しみ、王に怒る言葉、諦め、厭世。

 たくさんの声が聞こえてくる。


 気持ちはわかる。

 それに、もちろんおれも文句をいいたい。

 お前何考えてんだよって、笑顔で送り出したザビウェルの禿げに文句を言いたい。

 だが俺はその気持ちを飲み込んだ。

 勇者として生きると決めた以上、こうなることもちょっとは想像した、だから大丈夫だ。

 俺は、すべてのシミュレーションができている。


 それに、俺が取り乱してはいけないんだ、俺が取り乱すようなことがあれば、それは同時に十万のこの軍が一様に取り乱すことにつながり、それはすなわち戦の負けにすらつながる。


 なにより、それを避けなくてはいけない。

 それを避けるのが勇者としてこの隊を任されている俺の役目なんだ。


「セシリア」

「アレンさん……?」

「大丈夫だ、安心してくれ

 それにガセフ、アリサ、後ろに控えているみんなもだ!!」


 俺はみんなに、できる限りこの場に全員に聞こえるように声を張り上げる。


「セシリア、俺に拡声の魔術をかけてくれないか?」

「わかりましたっ!!」


 セシリアがその綺麗な髪を振りながら返事をする。

 甘い匂いがする。


「アレンさん、かけましたよ」

「ありがとう……」


 俺は一層声を張り上げる。

 十万の兵士に聞こえるように、みんなを勇気づける。


「いいか!!

 敵の吸血鬼の数は三十万だ!!

 だがしかし、お前らがそれを憂う必要はない!!

 お前らには、この俺がいる、俺にはお前らと、この受け継ぎし聖剣がある!!

 俺たちは負けない、俺たちは勝つ!!

 それが勇者にかけられし役目だ、お前ら行くぞ!!」


 精一杯言葉を選んで放ったその言葉に、みながどう答えてくれるか。

 心配はしていない。


「「オオオオオオォォオ!!!!」」


「ガセフ、セシリア、そしてアリサ」

「なんですか?アレンさんっ」

「なによ、アレン」

「……」


 俺は、この三人を抱きしめて、一抹の不安を脱ぎ捨てる。

 この三人と、このかけがえのない仲間たちと、必ず全員で王都に戻り、始まりの吸血鬼の首を持ち帰る。


 そして、認められるのだ、王に、国民に、そして仲間たちに。

 俺が、勇者にふさわしい人間であると。

 俺たちが、この最高の仲間たちが、Sランク冒険者にふさわしいのだと。


「――この戦いが終わったら、みんなで宴をしよう」

どうも、ウマノスズクサの奴隷こと作者の相坂です。


読んでいただきありさんたくさんありがとうございます。


この話も次回から本格的にギャグに入ってきますのでどうか、今神経を擦り切らしながら執筆に励んでおりますので、どうか、どうかブックマークをして評価に貢献しやがれください。


いいですか?


『ブックマーク』をしやがれください。


以上、ウマノスズクサの奴隷こと作者の相坂でした。


毎日の午後一時と三時、気が向いたら十一時にも投稿していくのでよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ