交差点。信号が変わったらサヨナラね
夕陽が民家に沈む頃、通学路を歩く。
「で、唐揚げフライドチキン論争は北海道出身の杉本先生がザンギで参戦して三つ巴になって授業が終わった。」
交差点の信号は赤。ここの信号は待たされる。
「くすくすくす、なにそれ?授業それでおわったの?本当に!?くすくすくす。」
信号を待ちながら話す。
他の場所では出会わない。
信号が青になるまでがタイムリミット。
彼女はくすくすとお腹を抱えて笑い転げる。
「そんなに面白い?」
「面白いよ、私の学校よりずぅっと。
先生そんな風にノッてくれないし、楽しい話は悪いことみたいに睨まれるから、くすくすくす、サイコー。」
その目に嘘はない。澄んだブラウンの瞳がこちらを真っ直ぐ向いていた。
「そういえば、『ザンギ』って皆知ってるの?」
「杉本先生、自作弁当持ってきてるけど、週三でザンギ。最近は布教用ザンギを別で持ってきてるからまぁ…………アレガウマインダ。」
最後のヒソヒソ声を拾ったらしく、またしてもお腹を抱えて笑い転げていた。
車両側の信号が黄色に変わる。
もうすぐだ。
「今日はそれだけじゃなくてさ……」
もう一つの楽しい話、『大智の昼食がカレーの時に部活でスーパープレイを連発する件』を披露しよう。
「……だめだよ、今日はおしまい。」
優しく突き放すように、でもそれがとても悲しそうに、言った。
「信号がもうすぐ変わる。そしたら真っ直ぐ帰ろう?」
「また今度、カレー事件について話す。だから、楽しみにしていて欲しい。」
「うん、解った。楽しみにしとく。今日はもう、サヨナラね。」
悲しそうに手を振る彼女が遠く 遠く とおく
「よっ!遅いな。」
背中を力強く叩かれた。
「…なんだ大智かよ。部活乙。」
「サンキュっ。今日どうしたんだよ?帰宅部がこんな時間に一人で。
はっ!まさか彼女が居ないからって噂の幽霊に…。」
「っ……なわけあるかよ!」
大智の頭をド突く。
『通学路の交差点で出会う見知らぬ制服の女子。
その子と話続けて交差点の青信号を渡り損ねると、そのまま彼女と同じ場所に連れていかれる。』
そんな噂がある。
噂じゃない。
もう二年、あの子と話続けている。
それでも、戻ってこれている自分が居る。
もっと話したい。笑いたい。その為に面白い話を仕入れて披露して…それでも、交差点の信号が青に変わったら『サヨナラね』と、悲しそうにそう言われる。
「ままならねー」
「爺臭っ!」
「るせー!帰るぞ大智!」
大智と二人、振り返らずに家に帰る。
交差点で出会う学生2人が信号が変わるまでに謎解きする探偵物語を作る筈だったのに何故かガバチャー発動してこうなりました。
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