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剣のアシストと魔法使いの法律

話し合い?最初から無かったさ。



 そして辿り着いた玄関ホール。

数人の臙脂色の軍服を着た憲兵がそこに立っておりました。外には更に倍ほどの人の気配がいたします。


「おお、コバリシェン殿。やはり帰ってこられたのですね」

その内の1人が友好的そうな台詞を吐きながら、近付いて来ました。


1番位が高いのでしょうか。目は相手を観察するように動いています。

その視線が隣に立つ人を惑わせる程の美貌を持つ人物に移ると、厭らしく口元を歪ませます。

「そちらの方が探しておられたという者ですかな?」


明らかに性的な感情が乗せられている視線が纏わりつくように寄越されるのにも、レイドリック様は微笑んだまま。


「何様だ、お前は」

顎を上げ、暖かみの無い金色の目で相手を睥睨する魔法使いは、正しく『魔王よりも魔王らしい』です。


その一言は彼が気分を損ねていると如実に表し、周りの温度を下げているのにも拘わらず汗を誘発させ、その場にいる人間を固めるのに充分な威圧が含まれておりました。


「先程の人間の方がマシだったな。仕事をしに来たのでは無いのか?人の屋敷にまで上がり込んでおいて関係無い事を(さえ)ずるなど、その辺りに止まっている鳥の方が聞き甲斐あるのではないか。まあ?」

彼が手に持つ杖を相手に突き付けます。

「どちらにしても、とやかく言われる筋合いはない。攻撃以外の魔法の使用は様子見だけのはずだからな。それがこんな大勢で囲むとは、反撃してもいい、という事だな?」


レイドリック様のいるところで何無礼を働いているんだ、といきなりヤル気満々の魔法使いに対し、相手も強気です。


「世間話程度、大目に見て頂かないと。それに都市の中で攻撃魔法を使う事は厳罰対象になりますよ。確認は仕事の一環ですから文句を言われても困ります。尤も、結界の張ってある他所様の屋敷で魔法は使えないでしょうが」


その台詞を聞いた途端、喋れない屋敷の主が「あちゃー」と言わんばかりのオーバーなリアクションをしました。その場にいた者達の心を代弁すると、「やっちまったな」でしょう。


「吠えたな」

ニヤリと嗤った口元。杖先に集まる魔力。


「扉が傷付くかもしれませんが、修理代の請求はこちらに回して下さい」


レイドリック様がハインツ氏に困ったように言うのと同時に、室内に風が吹き荒れ、扉を開け放って対象を外へと放り出しました。


尚、扉はぶち破られたのではなく、押し開けられるように開かれました。蝶番がちょっと弛むかもしれませんが、魔法使いなりに気を使ったのでしょう。『レイパレス』の評価にも関わりますからね。


「レイ」

魔法使いの短い呼び掛けに、レイドリック様は微笑みます。

「従業員のサポートをするのが上司の役目でしょう? 大丈夫。跡は残しませんよ」


その言葉にプイッと前を向き、外へと出て行きました。


実は、ディノが魔法を使う直前に、レイドリック様が扉の()()()のストッパーを剣の魔法の応用で外し、扉を開きやすくしていたのです。それに魔法使いは気付いたのでしょう。


レイドリック様の言った『跡』は魔法の痕跡です。本来なら多少は残るものでしょうが、そこは『吸魔』が得意なレイドリック様。自分の魔力を回収する事など、布を裁つよりも簡単なのでございます。


「少し騒がしくするかもしれませんが、お庭をお借りしますね」

そう言いながら、レイドリック様は魔法使いの後を追いました。


 開け放たれた扉に、臨戦態勢を取った憲兵が、一個小隊程でしょうか待ち構えておりました。

飛び出てきた上司だろう男に驚いていましたが、すぐに体勢を調えた辺り、評価出来るでしょう。


そこにゆったりとした歩調で現れるディノ=コバリシェン。


魔王です。本物の魔王がいます。

ちなみにデール王国の王座におわす本物の魔王様は+高笑いも入れるでしょうね。お茶目な方ですから。


玄関の上がり口を陣取った魔法使いは、手にしている杖をとんっと床に打ち付けました。ざわりと庭の草木達が揺れ、蔦を生やし彼等を更に取り囲みます。


「王国法第34条3項」


そんな緊迫した中、静かに彼の口から出てきたのは、この国の法律でした。


「国内の結界内での魔法の使用を制限し、第35条における場合を除いて罰則を科す。第34条4項、国内の結界内での魔法の使用は、規定の施設に届け出を出さなければならない。そして第35条」


後ろからレイドリック様と家主が出てきて、後ろ気味の位置で止まりました。


「個人の私用並びに命の危険に脅かされ、やむを得ない場合、土地の所有者の許可を得ての安全を考慮した上での魔法の行使において、個人敷地における結界内の使用については罰則に問う事は出来ない」


誰も許可していないよ、と家主の口が動いています。恐らく事後承諾が魔法使いの常套手段なのでしょう。


「また、第9条6項。先の2項に記された騎士団所属者の武力行使において過剰とされる判断がなされた時、これを退ける権利を有する、だ。つまり」


バッと杖を前に差し出しました。ぶわりと植物達が伸び上がります。


「俺は違反など犯してはいない上に過剰戦力を向けられた幼気(いたいけ)な一般庶民という事になるのだがな?うん?」


魔法使いに『幼気』……。何だか言葉が間違っている気がするのは何故でしょうか。


「ま、待て……!」

「待たん。話し合う気も無い奴が」


先程転がっていった1番位の高そうな男が制止を掛けますが、一蹴。

蔦達の猛攻が始まりました。


ちなみにこの魔法は初級魔法の『蔦』を応用したものですね。縛るものを庭にいる憲兵達に指定、追尾機能も付いているようです。ついでに拘束力を強めるために強化魔法と、あ、燃やされないように水の膜も見受けられます。

焼き斬られる事を想定しての布陣ですね。抜け目無いです。


阿鼻叫喚は一瞬の事。

ほとんどが蔦に捕らえられ、残りはいつの間にか呼び出していたらしい数十匹の小悪魔に(たか)られて動けなくなっているか、その場で尻餅を付いています。


どれを取っても騎士にとっては不名誉な体勢でしょう。小悪魔に鼻の穴や口を広げられたりしていなければ、少しはマシだったかもしれませんが。


「俺を出し抜けると思うなよ。法律に縛られている国の犬が、法律の専門家に口で勝てる道理は無い」


どうやら魔法使いは法律のスペシャリスト関連の資格も持っているようです。確かに事業を起こしているレイドリック様には必要でしょうね。


「ディノ=コバリシェン! 無事か!?」


そんな見ようによっては如何わしい光景が広がる庭に、新たな声が響きました。


「ナイトの登場だ」

レイドリック様に聞こえる位の音量で魔法使いが呟きました。


声のした方を見ると、人を引き連れ家の門から入ろうとして庭の惨状にギョッとしている、金色の髪を高くポニーテールにした憲兵と色違いの制服を着た人が。


遠目では女性と判らない程の長身で、声も低めです。しかし、女性と言ったのには根拠があります。


それはレイドリック様と一緒に成り行きを見守っていたハインツ氏。

彼は妖精のような(かんばせ)に喜色を湛え、恋する乙女のように目尻を赤らめています。


「レミリア!」

どうやら魔法を解かれたらしいその声は、どう聞いても愛しいものを呼ぶ声でした。


「なるほど、あの方がハインツさんの婚約者なのですね」

ディノの短い言葉にレイドリック様は納得の表情です。


「ハインツ! 我が女神、怪我はないか」


入ってきた直後はディノの名前を呼んでいましたが、やはりというか婚約者の無事を確かめるレミリア嬢。『我が女神』等というセリフが嫌味なく使用されています。


「無傷だよ。でも、私は神などではないよ。そんな大層なものならば、君といられないじゃないか」


駆け寄りながら、こちらも歯の浮くような言葉を言っています。『女』神に不満は無いのでしょうか。

そして、周りの方々(+召喚されたものたち)の中でよくそんな事が出来ますね。あ、リーダーらしき人が悔しそうにしています。この場合、どっちに嫉妬しているのでしょうか?



私は法律関係さっぱりなので、それっぽく書いているだけです。マジで。


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