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剣と魔法使いの対面

初投稿です。

友人同士でやりとりしていたものを投稿します。

出来るだけ読みやすい文章を目指していますので、ご意見頂ければ嬉しいです。

ですが、作者はガラス&チキンハートなので、マイルド~に生温か~く見て頂きたいです。



 その日は、青い空、ぽっかり浮かぶ雲、爽やかな風が吹き、絶好の洗濯日和でありました。


 「あら、お仕事終わったの?」


 洗濯物を干していた女性は、洗濯物の間から声をかけました。作業は一時中断です。


彼女は差し出されたバスケットを屈んで受け取り、中身を確認します。


「いっぱい取れたのね、えらいえらい」


中に入っていたのは、緑色の草。この辺りに自生する薬草の一種です。

渡した方も褒められて嬉しそうにしています。


「お駄賃あげなきゃね、ええっと……」


スカートのポケットに手を入れ、何かを取り出しました。


「はい、どうぞ」


そう言って渡されたのは、2レラン(レランはお金の単位です)でした。

2レランあれば、お菓子が5つくらいは買えるでしょう。

もらった方は大喜びです。

自分の体をめいいっぱい伸び上がらせ、感動を伝えています。


……そうです。

お駄賃をもらったのは、言葉を持たない種族。いわば魔物と呼ばれるものでした。

しかも、ゲル状の。


 ここは、人間と魔族と呼ばれるものが争い、支配する世界。

その中の魔族の支配する土地にある町の一つでございます。


別に魔族の土地だからと言って、人間が住めないわけでもありません。

人間の国が一方的に攻撃を仕掛けてきているわけですから、魔族としては、人間が住もうが危害を加えられない限り、問題が無いわけですね。


先程のお駄賃である、『レラン』は世界共通通貨なので、魔族の土地でも有効です。


そうなると、魔族や魔物も通貨を何らかの手段で手に入れないといけなくなります。

通貨の発行元は人間の国ですからね。

では、どのように通貨を得ているのか?となりますが、ご安心を。


ご覧の通り、彼らもまた、労働によって対価を得ているのでございます。





 「こんにちは、いい天気ですね」


 そんな1人と1匹に、声がかけられました。

そちらを向くと、大きな帽子をかぶった青年が通りかかったところでした。波打つ金色の髪の毛が、光に当たってキラキラしています。


「レイさん、こんにちは。えぇ、まったく」


女の人は彼に返します。魔物は体を左右に振りました。

そして、こちらにきた青年に先程もらったお駄賃を見せます。


「あ、いっぱいもらいましたね。よかったですね。……いつも有難うございます」


レイと呼ばれた青年は、魔物の代わりにお礼を言いました。


「いえ、彼(?)もよく手伝ってくれるので、その気持ちですよ」


女の人もにっこり笑います。それにつられて青年も同じように微笑みます。


「レイさんがこんな時間に出歩くなんて珍しいですね。それにその荷物」


彼女がそう話を変えました。確かに青年の腕には、大き目の紙袋が抱えられています。

それに、彼は満面の笑顔で答えます。


「前に注文していた糸が届いたんです! いい布も手に入りましたし、仕事を抜け出した甲斐がありました」


笑顔が日差しにも負けないくらい眩しいです。彼女も思わず目を背けているではありませんか。


それにしても、仕事を抜け出したって、今頃他の人は慌てておられますよ?


そう思ったのか、足元にいた魔物が彼のズボンの裾を引っ張ります。それに気付いた彼が、「えっ」と声を上げます。


「あ、そうですね。早く帰った方がいいかもしれません」


魔物の声が聞こえたかのように、彼は頷きました。


「それでは、私たちは帰ります。洗濯の手を止めさせてすみませんでした」


彼は優雅にお辞儀をしました。足元の彼(?)も伸び縮みをして、別れの挨拶をします。


「いえ、こんないい天気ですもの。すぐに乾きますよ。貴方もまたよろしくね」


魔物に向けて後半の言葉を言うと、上下に揺れました。


「それではまた。皆さんにも宜しく伝えておいて下さい」


そう言って、彼は魔物と一緒にその場を去っていきました。





 レイ、と呼ばれた青年は、先程少し触れたように、糸と布を使う仕事……洋服を縫うお針子兼デザイナーをしています。


服と一言で言いましても、普段着からドレスまで幅広く手がけておりまして、人間の貴族からのオーダーもあるのだとか。

そんな彼のブランド『レイパレス』は、老舗ブランドとして多くの人に愛用されています。彼が着ている服も、実は手作りなのです。



しかし、それは彼の本職ではありません。





 彼は自宅の前で、魔物と別れた後、こっそりと裏口に回ります。

そこは、邸宅というよりはお城と言わんばかりの建物。


扉を開けた途端、見えた黒色に「あ~ぁ」と天を仰ぎました。


「ちょっと、何なのよ!?レイドリック様! 人を見て溜息なんて!!」


少し開いていた扉を、バタンと大きく開け放ちながら、黒色……の大きく胸の開いたボンテージのような服を着た者が叫びます。


人間のような姿をしていますが、額には3つめの目が、背中にはコウモリのような翼が生えています。着ているものと合わせると、大層目のやり場に困る魔族です。


「すぐに戻ると言いましたのに……。只今戻りました」


彼は彼女をやんわりと押し戻し、中へ入りました。静かに扉を閉めるのを忘れません。


「アリアル、またグランが探しているのですか?」


アリアルは彼女の名前です。彼女は赤い髪を後ろに流しながら、答えます。


「グランじゃなくて、お客さんよ。お客さん!」

「客、ですか?」


レイドリックと呼ばれた青年は、問い返します。


「そうよぉ、しかも人間の。今グランが相手しているけど。早く行った方がいいわよぅ」


「へぇ、珍しいですね。……判りました。アリアルはこれを作業場へ。グラン、聞こえていますね? その方を10分後、謁見室へお連れしなさい」


そう言って紙袋とかぶっていた帽子を目の前の彼女へ押し付けました。


その彼の頭には立派な巻き角。


彼こそが、この地を治める魔王様の部下『剣の魔臣』レイドリックその方なのです。

今まで力を抑えていたのか、見えなかった1対の剣の翼がカランと澄んだ音を立てます。


「私は着替えてきます。くれぐれも客に失礼ないように」


それだけ言い残し、彼は早足で屋敷の奥へと消えてきました。





 彼は、魔臣にして有名ブランドの創始者なのでございます。


洋裁をし始めましたのが、魔臣になる前からの事でしたので、魔王様もご存知……むしろ推奨しているため、二足の草鞋を履く事となっているのです。


まぁ、『レイパレス』が魔族のレイドリック様発祥だという事は、秘密になっておりますが。そうでないと、人間は買いませんからね。


魔物たちの所持金も、実は一部彼の財布から出ているのではないか、と専らの噂なのでございます。





 さて、10分後になりました。

謁見室の扉を叩く音が響きます。


「入って下さい」


すでに席についていたレイドリック様は、入室許可を出しました。


彼の服は先程とは違い、黒を基調にした正装をしています。普段を知らない人ならば、魔臣の名に相応しい姿形をしているでしょう。そうして幾人もの人間の『勇者』達を倒してきているのですから。


扉が外側に開かれ、まず入ってきたのは、青い髪に同色の獣の耳を持った青年。

彼が、先程レイドリック様の指示にあったグランです。狼のような魔族のため、耳もいいのでございます。


「客人をお連れした」


そう言って、彼に促されて入ってきたのは、魔法使い然とした人間の青年でした。


まず印象に残るのは、眼鏡の奥から覗く金色の鋭い目つき。

黒に近い濃紺の髪には、魔法を修めた者に与えられる髪飾り。

耳に光るのは、これまた治療士(ヒーラー)の証の耳飾り。

よく見ると、身に着けている外套の止め具にも魔封士の証。

それぞれが、かなりの業を修めないともらえないものです。


彼は、レイドリック様の前まで来ると、跪きました。扉を蹴破って入ってくる自称『勇者』達とは大きく違います。


ちなみに、ここの扉は外開きなので、結構失敗している人がいるのは内緒にしておきましょう。


「楽にして下さい。 私がフェーレウス領領主レイドリックです。どのようなご用件でしょうか?」


領主の許可に顔を上げた彼が、口を開きました。


「突然の訪問にもかかわらず、謁見の許可を頂き、有難うございます。私はディノ=コバリシェンと申します」


視界の隅でグランが呆気に取られたような顔をしています。

なるほど。余所行き用なんですね、この態度。


「コバリシェンといえば、聞き覚えあるわぁ。……確かメラニーだったかしらぁ。あの元気なお嬢さん」


レイドリック様の隣に控えていたアリアルが顎に手を当てて言います。


「あぁ、初めてここに走りこんで来た時に、ずっこけて仲間に白い目向けられていたな。あいつか。何か聞き覚えあるなと思ったら」


お前の現在地が丁度その躓いた所だ、とグランが付け加えます。


「メラニーは私の祖母です。そうですか、(交渉に使えそうな)いい話を聞きました」


彼は笑いますが、目が笑っていません。それに何か言葉の含みが怖いですよ。

青年は懐に手をやりました。


「本日の用事は他でもありません」


アリアルがはっとして主君を守るように身構えます。





「求人情報誌アイテム見てきました! 雇って下さい」





その手に持たれていたのは魔族の間で発行されている求人情報誌。


内容は仕事の募集や最新情報、自称『勇者』の動向などが書かれている、お役立ちな1冊です。

古代デール語で書かれているため、普通の人間では読めないのですが、それ以前に人間の手に渡るようなものではありません。


一瞬、ぽかんとしたレイドリック様と腹心2人ですが、


「え……、え~と、確かに求人を出していましたが、それをどこで?」


何とか言葉を搾り出しました。

流石です、レイドリック様。


それに怪しく笑う魔法使い。


「ふふふ。ちょっとしたツテを使ったのですよ。ちょっとした……ね」


その様子も堂に入っていますよ。何だか温度が2~3度下がった気がします。


「……そうですか。詳しくは聞かないでおきましょう」


それでいいのですか、レイドリック様! 目を逸らして言うことじゃないですよ!?


「それよりも、それを見てきた、という事は中身も読んだという事ですね?内容は?」


先程の間に、ファーストインパクトから立ち直ったようで、魔臣はその男に問いかけます。

……さりげなく話を変えましたね。


「えぇ、古代デール語を修めていますので。結界の強化のために魔法の秀でた者と書いてありました」


魔法使いは、その求人情報誌の付箋を貼ってあるページを開きながら、答えました。


「このために、必要そうな資格は全て取って来ました。お陰で、お偉いさんに泣きながら散々引き止められましたが」


必要そうな資格全てって、どれだけの人に引き止められたのでしょうか、この人。

きっと、それを心底鬱陶しいと思ったのでしょうね。出会って数分ですが、それくらい想像に難しくないです。


「こちらとしては有難い限りですが、しかし、そこまでしてここで働こうとする理由は?失礼ですが、貴方は人間です。何もこちら(魔族)側に来なくても仕事はあるでしょう」


何だかお偉いさんに同情したくなったのでしょう。レイドリック様も困った様に尋ねます。


最初にも言いましたが、アイテムは魔族間で発行されている冊子です。人間が読む事を想定していません。もちろん、求人内容も暗に魔族に限定したものなのです。


魔族側に壁は無いと言えども、人間は人間側の仕事に就いた方が良いでしょう。人間側から完全に敵と見做される可能性があるからです。


それでも、彼は今、このフェーレウス(魔族)の地を踏んでいます。


「私としては、こちらが本題なのですが……」


彼が初めて目を泳がせました。

そして、決意したように魔臣を見据えます。





「一目惚れです。昔からずっと好きなので、傍にいさせて下さい!!」





1話目を前後編にしました。

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