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剣の依頼内容と魔法使いの使い魔

依頼の品はこちらでしょうか?





 ここで、依頼人であるハインツ氏の容姿を紹介しておきましょう。


彼はこの町で『精霊のような』と他称される事が多いと言われています。

絹糸のような美しい銀髪、切れ長の瞳の色は春空の青。鼻梁はすっと通っており、肌はミルクを溶かし込んだかのように、しっとり柔らかそう。そして色素の薄い中、ほんのり色付く唇が誘っているかのように存在を強調しております。


つまり、見た目がひどく美人だという事でございます。美男とか美丈夫ではありません。美人、なのでございます。


そんなお方の依頼とは、


「婚礼衣装を任せて頂けるなんて光栄です」

レイドリック様が言われた通り、結婚式で着る衣装のオーダーなのでした。


「しかも『凛々しい彼女の隊服姿と対になるような花嫁のような衣装』とは、素敵なオーダーです」


そう、彼は周りからは「とうとう嫁に貰われるんだな」と思われているそうです。と、いうのも、花嫁は騎士団に所属しており、前線で活躍しているエース。女性ファンも多いそのお方は、非常に男前な性格をしているらしいのです。


そんな事を言われ続けているハインツ氏。

考えました。


そして『彼女の隊服姿は確かに凛々しい。だったら、自分が綺麗を担当してやろうじゃないか』という結論に至ったというわけでございます。


「『花嫁のような』っていうのがミソなのに、何故だか皆、私に女物を着せようとする。花嫁になるつもりは無いのに。だからこその依頼だ」


そう言って期待するような眼差しを向ける依頼人へ、レイドリック様がトルソーに着付けた衣装を見せるようにその横に立ちました。


 それは全体的に白でございました。


白と言えども様々な白があるのでございます。純白に始まり、絹色、白百合色、月白、白練などなど。


それがふわりと重なり決して色味が少ないという感想を抱かせません。

喉元は隠すようにハイカラーとなっており、中性的な依頼人の性をより曖昧にさせています。


その下の胸元にはレースで造られた繊細ながらも大きな花があしらわれており、目線を集めます。

真ん中にはパートナーの目の色と聞いているエメラルド。


そこから肩口に走るドレープをとった薄布は、男性独特の肩を隠しながらも優美に見せ、それに合わせた上着は布を重ねているため、動く度にひらりひらりと羽衣のように棚引きます。


その中に着ているベストは唯一、白以外である銀色の糸でびっしりと羽根のような意匠の刺繍が刺してあります。裾を腰上で斜めに切り、そこに柔らかな垂れ布をする事によって、腰回りにボリュームを出しているのです。


下には裾の広がったズボンを合わせています。こちらも薄い布を重ねて、一見ドレスの様にも見える仕様でございます。

裾には、やはり銀色の糸で大地から芽吹く葉のような意匠の刺繍が控え目に刺されているのがワンポイント。


結果、全体的にふんわりとした印象ですけれども、それでいて甘くない仕上がりとなっております。

花嫁衣装のように見えても、やはり違うと誰もが判る一品。


これを見てハインツ氏は目を見張りました。

「これは、すごい……!」


今までが散々だったのでございましょう。言葉を失っているようです。


「これに、当日はこちらを被って頂きます」

そう言ってレイドリック様が残りのトランクから帽子を取り出しました。


それはカンカン帽のような形状をした帽子でした。

色は勿論白。

リボンは限りなく薄い緑。

よく見れば同色で蔦の意匠の刺繍が。

そして、そのサイドにはレースや薄い布を幾重にも重ねた白い花々が咲き乱れておりました。


「お(ぐし)のアップも考えましたが、ここは男らしく伝統を踏まえて、ね」


確か人間の国では、女性が顔を隠すヴェールを身につけるのと同様に、男性は帽子を被る習慣があったはずです。しかし、最近は被らない方が多くなったと聞き及んでおります。


「それも参列者への意表返し、という訳か」

魔法使いが納得したように頷いています。


そこにノックの音が聞こえます。


しかし部屋の主は、顔を少し赤らめて衣装を穴の開く程見ている……ガン見と言うのでしたか、をしているため気付きません。仕方無くレイドリック様が返事をします。


「ほう、これはこれは」

主の返事のなかったため、室内が気になった老人は扉を開け、1番に目に入った婚礼衣装を見、次いで主の様子を伺い、大きく頷きました。

「良いものが出来上がったようですね。お茶をお持ちしました」


その申し出にレイドリック様は困ったような顔をしました。

「お茶は後で頂けますか? 今から衣装を合わせようと思っているのですが、立ち会いをお願いしたくて」


仕立て屋が服を持って来ているのに、お茶をこのタイミングで持ってくる。……何かありそうですね。

しかし主が(ほう)けているので、後回しにしたようですが。


「それは失礼しました。後程、新しいものに取り換えて参ります」

「有り難うございます」


ここで断るのも使用人の顔を潰す事になると判っている領主様は、微笑んで提案を受け入れました。


そして、依頼人に衣装を合わせるため、トルソーから一旦衣装を脱がしにかかります。


その前に、レイドリック様は魔法使いに顔を向けました。

「ディノ、あの子達を」

「判った」


すぐに意を汲んだ魔法使いが、魔法を組み出しました。彼の足元から広がる光の魔法陣。


その様子にギョッとするこの屋敷のお二人。屋敷の中でまさか魔法を使われるとは思っていなかったのでしょう。

実際、貴族の屋敷には、町中よりも更に厳重な魔法防止の結界が張られているとお聞きしておりますので、使えないと思っていたようですね。

もちろん、魔族から見れば、旧式なので穴が沢山あるのですが。


「……詠唱省略。来い。お前等、仕事だ」


魔法陣から2つの小さな魔法陣が分かれ、ぽん、ぽん、と小さな破裂音と共に音に見合う小さな存在が魔法陣から現れました。


ちなみに省略された詠唱ですが、ディノにしてみれば「頭がお花畑でないと唱えられん」という、宙に……?といわれるような文言だと以前レイドリック様に溢していました。

ちゅうに、とは一体何なのでしょうか?


魔法陣から出てきたのは、透明な羽根の生えた小さな人でした。

ディノにツンと顔を背け、レイドリック様へと近付き、2人揃ってピッと敬礼をしました。小鬼のフレディの入れ知恵でしょうか。


そうです、彼女達はフェーレウスの住人で、更に『レイパレス』の縫製工場で働くピクシーなのです。


「よく来てくれました。サポートお願いしますね」


レイドリック様の要望で、事前に魔法使いと召喚の契約をして、こうして魔法で呼び出したのです。

契約……というよりも、半分脅したというか、レイドリック様をダシにビジネスライクな話を拳を交えながらした、といった様相だったのは、工場に一緒に行ったアリアルの心の中だけに留められております。


それを知らない雇い主は、彼女達に微笑みました。敵陣の真っ只中なのです。小さいピクシーにとっては獅子の口に手を入れる行為に等しい感覚です。


「君の、召喚、獣(?)なのかい?」

驚いて口が塞がらない様子のハインツ氏が、ようやくディノに声をかけました。


「はっ……、こんな奴等」

「私がディノに頼んだのです。仕事のサポート出来る者を召喚出来るのか、と。ディノは嫌かもしれませんが、とても助かっていますよ」

その質問に鼻で笑い、魔法使いが何か言いかけましたが、レイドリック様が遮ります。


確かに主であるはずのディノをないがしろにしている様子を見れば、双方にとって不本意な契約なのだろうという事は、魔法に長けてなくても判ります。


召喚獣と言われて、小さいにも関わらず見るからに不機嫌になった妖精達に、レイドリック様が笑いかけます。

「報酬はこの国の甘いお菓子にしましょうか」


その言葉に『仕方無いなぁ』という態度を取りつつ口元が綻んだのを、男達はバッチリ目撃しました。小さくても女の子は女の子なのです。


「さあ、始めますよ。ハインツ様、お願い出来ますか」

「ああ、よろしく頼む」


そうして、着付けに入りました。



某芸能人のあの言葉を知らないまま書きました。日本にはいろいろな色があるのです。



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