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剣の仕事現場と魔法使いの交友範囲

依頼人の元へと向かいます。




 大きなトランクを3つと愛用の裁縫道具箱を店舗所有の馬車に積んで、やってきたのは貴族街と呼ばれる高級住宅街の一角、その中でも比較的小さめの邸宅でございました。


それでも庭にはシンメトリーに庭木が剪定され、その足元には花が途切れないよう計算され配置されております。邸宅は街並みと同じように白壁、屋根は差し色をするかのように群青色が使われておりました。

まあ、規模も質もフェーレウスの屋敷には敵いませんが。


「やはり、ここか」


馬車を帰した後、その玄関口でディノが口を開きました。トランク2つを遠慮の欠片もなく魔法で出した植物で運ばせながら。

この街は魔法が禁止だったはずですが、今度は衛兵が来ません。魔法使いに関しては特例でも出ているのでしょうか?


「知り合いですか?」

本当は荷物を全部1人で持つ予定だったレイドリック様は尋ねます。1番重要だというトランクと裁縫箱を軽々と持ちながら。


「前に1度、あの店舗の位置を話してしまった事があるくらいだ。貴族社会にありがちな横の繋がりでしかない」


そうは言いますが、彼の性格からいって、そんな話が話題に上るくらいには親しい関係なのでございましょう。現に邸宅に入る事に嫌な顔をしておりませんし。


 手の塞がっているレイドリック様の代わりに魔法使いが呼び鈴を鳴らしました。チリンリーンと独特な音を立て、邸宅に響き渡ります。


暫くの後、その玄関のドアが開かれました。中から出てきたのは、背筋の伸びた老人。執事の様で、スーツを着こなし、ほとんど真っ白になった髪を後ろに撫で付けております。白手袋を付けた清潔感のある装いで、10歳は若く見られるような御仁でしょう。


その方が正面にいる魔法使いに一瞬目を見張った後、何事もなかったかのように一礼します。

「いらっしゃいませ、コバリシェン様。どの様なご用件でしょうか?」


やはり顔見知りのようですね。まあ、魔法使いはこの国では有名ですが。


「久しいな。だが、俺は付き添いだ」

そう言うとディノはレイドリック様に場所を譲ります。


後ろから出てきた波打つブロンズの髪に白皙の相貌を持つ人物に、執事らしき老人は先程よりも長く時を止めておりましたが、気合いを入れて営業用であろう笑みを向けました。


「失礼しました、お客様」

「いいえ、私は手が塞がっていたもので」

そう言ったレイドリック様は確かに両手に荷物を持っております。それが判ったのでしょう、老人も軽く頷きます。


「私は『レイパレス』のレイと申します。本日、こちらからの依頼の品をお持ちしたのですが」

「貴方がレイ様なのですね。用件は伺っております。主がお待ちです。応接室にご案内致しましょう」


名前の確認の際、チラリと魔法使いを見たのは何だったのでしょうか?


すぐに屋敷に通され、屋根と同じ群青色の絨毯が敷かれた廊下を歩きます。磨かれたダークブラウンの床板と窓枠によりシックな印象を受けますが、時折飾られている絵画が少しの華やぎをもたらしているかのようです。


「……アイツ、判っていて依頼したな……」

外からの自然の音と足音だけが響く中、レイドリック様の少し後ろを歩く魔法使いが憎々しげに呟きました。

それを聞き止めたのはこの屋敷の老人。


「申し訳ありません。そういう打算もあったとは思いますが、他の商品では納得出来なかったのも事実なので」

「ふん、よく喋るものだ」


金色の双眸が後頭部に突き刺さっているのが判ったのでしょう。彼は口を閉ざしました。


「打算、とは?」

代わりにレイドリック様がディノへと問いかけます。それに少し眉を下げ、魔法使いは魔臣へと顔を向けました。


「ヤツは、俺が貴方の事を探っていたのを知っている。あわよくば、俺より先に見つけて笑ってやろうとでも思ったのだろう」


なんというか、遊び心ある御仁のようです。しかし、そうでなければこんな依頼はして来なかったでしょうね。少し腑に落ちた気分でございます。

レイドリック様もそう思ったのか、彼に微笑みます。


「面白い方のようですね」

「迷惑なだけだ」


依頼主をそう切って捨てた魔法使いは、老人の立ち止まったその扉をノックよりも先にバタンと開きました。


「はっ、貴様ごときが偉くなったものだな!」

「……ディノ、帰って」

「名前を呼ばれる筋合いはない」


つかつかと入っていった部屋の中から聞こえる喧嘩腰のような会話に、レイドリック様は老人を見ました。


「彼らは、いつもあのような感じなのですか?」

「いつも、でございますね」


日常の風景だと言わんばかりに執事のような身形の老人は答えました。それにニッコリと魔臣は微笑みます。


「大変仲がいいのですね」

「それはもう」



 「今から来客があるのだけれど」

「ほう、誰が来るのか言ってみろ」

「それは、……私の一生の思い出になる人さ!」

「有罪だ。俺がここにいる時点で誰を招いたか知っているに決まっているだろうが。表に出ろ。建物は勘弁してやる」


 そう言いながらも、対面の席の後ろに立つ魔法使い。そんな予想外の行動をした魔法使いに相手も困惑した顔をしているようですが、座ったままです。本当に外に出たら、魔法が飛んでくるという事が判っているからかもしれませんが。


「本当に仲がいいみたいですね」

1つ頷いて、レイドリック様は部屋に顔を覗かせました。老人はお茶の準備なのか、笑いながら部屋から離れて行きます。


「ディノ、終わりましたか?」


戸口からそう声をかけると、魔法使いはこちらを向き、自分の前の席に促します。


「すみません、レイ。勢いが付きすぎた」

「いいえ、年相応だなと思いました」


そして、部屋の主だろう男性に声を掛けます。

「ディノが申し訳ありません。私は『レイパレス』のレイと申します。ご注文の品を届けに参りました」


こうなった今、挨拶の順番などと言っている場合ではないので、さっさと話を進める事にしたようですね。


この時、依頼主は「負けた」と思ったと後で溢しておりました。何に、というのはレイドリック様のためにも黙っておきますが。


「見つけていたのか……」

レイドリック様から視線を外さずに呟かれた言葉に、ディノが眉を上げます。


「散々諦めさせようとしておきながら何を言う」

「だって君、国を出てまで探しに行こうとするから。君がいないと黙ってた奴等がのさばるんだよ。今回だって、ほんの軽い気持ちで指名したんだ。困っていたのは本当だったからね。……私はハインツという。依頼を受けてくれて本当に助かった」

「それで、あの依頼に繋がるのですね。座っても?」


立ちっぱなしで話をするのも何だと思ったであろうレイドリック様が、着席の許可を求めます。相手は貴族なので、いちいち許可を求めなければなりません。

「どうぞ」と軽く対面を示され、『レイパレス』のデザイナーは座りました。


それを見ていた相手が後ろの魔法使いに目をやります。

「思っていたよりも若いね。私達くらいに見える」


ディノの恩人は10年程前で『レイパレスのデザイナー』だったはずなので、おかしいと思ったのでしょう。レイドリック様が微笑みます。


「『波打つ金色の髪、紅玉のような瞳』でしょう? 私もよく聞かされます」

本人が自分じゃないと言うように宣います。

「それは先代の事なのですよ。私は最近『レイ』の名前を頂きまして」


ほら、髪の色とか違うでしょう?と偽りの姿を本物と言わんばかりに利用しておりますね、レイドリック様。そういう設定にしているという事でしょう。人間達の生涯と魔族のそれでは大きく異なりますから。


「ディノは先代に頼まれて私に付いて下さっているのです」


その後ろの魔法使いは無表情を装っていますが、よく見ると口元がピクピクしております。大方「貴方だから付いてきているんだ!」と言いたいのを我慢しているのでしょう。

よく考えれば、先代もレイドリック様に他ならないのですが。


「そうか、先代に会いたかったのだが。彼をどうやってタラシ込んだのか」

「お前に語る価値は無い」

「腕は遜色ないと思いますので安心して下さい。それよりもディノ、トルソーを」


レイドリック様は話のキリが良さそうなところで、話を仕事へと持っていきました。実際、魔法使いに対して特別な事は何もやっておりませんし。


ディノが魔法で運んでいた荷物を床に降ろしました。その中には衣装を見せるためのトルソーも入っております。

「失礼します」と断りを入れてから、レイドリック様は片方の荷物を開けます。そして分解してあったトルソーを素早く組み立てました。


次に、自分の持ってきた方の荷物を慎重に開きます。


ふわりと開いたそこは、白の洪水でした。


レイドリック様は中身を丁寧に持ち上げていきます。印象として、ふんわりしている布を幾重にも重ねている、というのが判りますが今の段階ではどのような服なのか予想も付きません。

その布をレイドリック様はトルソーに順番に掛けていきました。



ディノは、レイドリックに「友達がいてよかった」と母親目線で思われている等と、知りようがないという。


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