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剣の隠れ家的店舗と魔法使いの過去の所業

とうとう『レイパレス』シャレンドーナ支店に到着します。




 2つ目の角を曲がり人々の視線を切り、もう一度曲がり、表通りから少し離れます。先を行く魔法使いの歩みに躊躇いはありません。流石、地元。

これは明らかに目的地を知っていますね。


人通りの少ない裏道、ただし決して治安の悪そうな所には行かず、ただ近道を選んですいすいと進みます。


そして、目的地間近のところでピタリと立ち止まり、レイドリック様に向き直りました。普段は合わせ(られ)ない視線を魔臣の色の変わった紅玉へと向けます。


「何を気にしているのかは判らないが、貴方は貴方だ。……現に貴方の手はこうして温かい」


騒動の際、袖を引いた魔臣の手首をそのまま握っていたのを名残惜しそうに放しました。


レイドリック様はその言葉にパチパチと(まばた)きをして、それから言われた事に思い至ったのでしょう、視線から逃れるように自らの視線を放された手へと向けます。


「……いずれ、貴方にも笑って話せる時が来たら、いいと思います」


魔臣にしては曖昧な希望をポツリと呟くように口にしました。


魔族には当たり前すぎる事実、ですが今の人間には想像も出来ないだろう事象を話すには、余りにも土台が無さすぎます。


その時まで、この関係は続いているのでしょうか。


「それまでに私は貴方の傍にいられるよう、せいぜい外堀を埋めておきますよ」


憂いを帯びた顔も素敵だ、はっ、これが傾国の美女というやつなのか!?という考えをおくびにも出さず、魔法使いはおどけたように肩を竦めました。


 「それよりも、ここだったな」

 そう言う魔法使いの目の前には、1件の小さな店舗。


本通りから外れた場所にある2階建てのそれは、店だという事が辛うじて判るものの、何を売っているのかはさっぱり判らない外観でございます。

唯一掛けられた流れるような『ブティック』の文字とその文字にひっそりと組み込まれるようにして描かれた『レイパレス』の(しるし)だけが、何の店なのかを表しているかのよう。


「はい、合っていますよ。やはり知っていましたか」


隠れた店舗にも関わらず迷わずここに来られる魔法使いに、感心すればいいのか(おのの)けばいいのか判断付きかねますね。きっと、いろんなものを駆使してここを突き止めたのだと思われます。


「そりゃあ、1番に探すでしょう。唯一の手掛かりだったのですから」


幼い彼に残されたのは、ある品と『レイパレスのデザイナー』という職業だけでございました。お互い名を名乗らずに別れましたからね。


「と、いう事は、中の者も知っていますね」

そう言い、レイドリック様はお店のドアを開けました。


「いらっしゃいませぇ。あ、レイ様」

溌剌とした声が出迎えの挨拶を発しました。

そして、視界に入った上司の姿に笑みを浮かべます。

「お久し振りです」


しかし、その笑みは上司の後ろを見て凍り付きました。


「げ、アンタ、あの時のガキ!」

「マギー、言葉使い!」

「やはり魔族だったか」


声を聞き付けて奥から出てきた男性に注意を受ける女性従業員を見ながら、魔法使いは納得の声を上げています。


「ふふ、元気そうで何よりです。お久し振りです、マグリッド、フランシス」


同じく彼女の反応を面白そうに見ながらレイドリック様は普通に挨拶をします。彼女の慌てっぷりは想像が付いていたようでございます。


「お久し振りです、レイ様。かれこれ10年振りですか」

男性の方が頭を下げます。そして、上司の後ろにいる魔法使いに目を向けました。

「君はあの時の子だね。……もしかして、何処かで情報が漏れましたか?」


そう聞くのも仕方ありません。レイドリック様と『レイパレス』の事はそれ程秘匿された情報なのですから。


「いいえ、自力で辿り着いたらしいです」

「自力で……」


レイドリック様の否定の言葉に男性は、そんな馬鹿な、と呆然としてしまいました。その気持ち、物凄く判ります。


その間にもレイドリック様は同行者に従業員を紹介し始めます。


「ディノ、こちらはフランシス、女性の方はマグリッドです。このシャレンドーナで『レイパレス』の業務を担ってくれています」


「まあ、知られているなら隠す意味ないものね。私がマグリッドよ。有翼族(ハーピィ)なの。接客担当」


マグリッドと紹介された彼女はあっさりと態度を変え、魔法使いに挨拶しました。

今のレイドリック様と同じブロンド色の髪の毛は肩の辺りで内巻きになっており、ぱっちりとした目は深い青。少し勝ち気な印象を持った女性です。


「……信じられませんが、納得かもしれません。ボクは会計と仕入れを担当している獣人族(コボルド)のフランシスです。よろしくお願いします、魔法使い殿」


自分の中で衝撃に対する折り合いを付けたのでしょう。男性の方も挨拶します。彼の方は柔らかそうな少し長めのブラウンの髪を後ろで束ね、束ねきれなかった髪は内巻きにされています。後で聞きましたところ、「マグリッドに双子コーデを強要されている」との事でした。

どうやら魔法使いの事は噂で聞いているようですね。


「知っているようだが、ディノ=コバリシェンだ。あの時は世話になった」

ニヤリ、と魔王よりも魔王らしい魔法使いは2人に向けて嗤いました。


「あの時、とは?」

レイドリック様が不思議に思ったのでしょう。フランシスに問いかけます。


「報告には上げていなかったのですが、実は、前回の訪問の少し後に子供が訪ねて来まして」

フランシスが困ったように笑い、

「紺色の髪、金色の目、不遜な態度!もう、子供なのに可愛げなんかぜんっぜんなかったわ!」

マグリッドが鳥らしく姦しく騒ぎ立てます。


「『金の髪に赤い目のデザイナー』はいるかと聞かれたので、シラを切ったのですが……」

「しつこいくらいに何回も来るんだもの。営業妨害だって言ってやったわ!」


天下の『レイパレス』。

只でさえこの店舗は場所も公開していなければ店先に品物も公開しておりません。そんな中、訪れる客には丁寧な接客をするように指示されているはずなのですが。

余程、それを超越してしまったのでございましょう。


「その後、ここに情報を求めるのを止め、自分の力で貴方を探す羽目になったというわけです。……口を割っていれば、早かったものを……」


魔法使いの呟きの後半はやたら物騒な雰囲気を醸しておりました。それにしても、改めて恐ろしい行動力だと感じます。


「そうなのですか。あの後、頑張ったのですね」

「はい、貴方にまた逢うために」

レイドリック様の言葉に、魔法使いは嬉しそうに頬を弛めました。


「誰、あれ?」

それを見てマグリッドが言えば、

「『M3』ディノ=コバリシェンに決まっている、けど、おかしいな」

とフランシスも歯切れ悪く不信感を顕にしました。今は見えない犬耳が伏せられている気配がします。


彼の恐怖神話はここまで伝わっているようですね。それを知っている人にこの光景は激しい違和感しか与えないでしょう。


「さて、紹介も終わりましたし、そろそろ仕事の話をしましょうか」


そんな空気をぶった切って、レイドリック様が話を変えました。ディノも真顔に戻りましたし、2人も戸惑いながらも話をする姿勢になります。


「はい。今回の指名依頼は、他の衣料品店には任せられない案件だという事でしたので、連絡させて頂きました」

フランシスが手に持つ帳簿のようなものを捲りながら言いました。


「相手はなんと、貴族の屋敷でーす。コネを作るのに最適ですね!」

それの続きをマグリッドが大袈裟な身振りで伝えながら、身も蓋もない言い方をします。商売人としては正解なのでしょうが。


「ほう、貴族か」

魔法使いが顎に手を当てて呟きます。大方、「貴族ごときがレイドリック様を呼びつけるなど、何様のつもりだ」とか思っている事でございましょう。何様も何も、貴族様でしょう。


「面白い依頼だったので、私も楽しめました。品物の搬入は出来ていますか?」

レイドリック様がそう言うと、魔法使いの不穏な空気は無くなりました。魔臣の副業は趣味と実益が兼ね備えられているのでございます。


「先日、届いています。しわ取りをしておきました」

「ありがとうございます。追加のパーツの手配は?」

「そっちもオッケーですよ。オーダー通りの出来でした!」


創業者の質問に、従業員達が次々に答えていきます。

ディノはその魔臣の姿をじぃっと見ておりました。そして、その視線に気付き、レイドリック様は彼を見返します。


「どうかしたのですか?」

「いいえ、レイドリック様は本当に服飾の事がお好きなのだと思って」


目を細めて言う魔法使いに、魔臣は微笑み返しました。

「はい、これが私の生き甲斐ですから」


「……そこは領地と言ってほしいのですが」

「それは当たり前だからじゃない? それにしても……」

「マギー、やっぱりあの魔法使いはニセモノかもしれません」

「やっぱり?」



レイドリック様はデレたディノに慣れすぎたのだ……。



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