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剣の特性と魔法使いの通常運転

魔臣の秘密の一部とM3の帰還の狼煙。





 「あの後、道を間違って、人に場所を聞いたのでしたね」

 思い出に苦笑を浮かべたレイドリック様は、隣のディノに言いました。


「あの時は本当に女神かと思っていたから、ちゃんと人なんだと俺は安心した」


あの時黙っていた子供は実はこんな事を考えていたようです。レイドリック様も呆れ顔でございます。


「それにしても」

ディノが懐かしげに周りを見渡します。

「こんな場所であんなに怪しい子供に関わろうと、よく思ったな?」


花屋は当然店員が変わり、パン屋もあの頃と違うパンが並んでいます。それでも長年親しんだ場所は変わらないと言えるのでしょう。


レイドリック様とディノの関係も、あの頃と少し違うようで同じなのかもしれません。


「目立っていましたからね。貴族のような子があんなに泣くような事があるのか、と思いまして」

魔臣が言葉を選びながら答えます。


「しかも魔力暴走を起こしそうになっている子を放ってはおけないでしょう? それに、私に似ていたので……」

後半の言葉は濁すように呟かれました。

レイドリック様にも似たような記憶があります。しかし今語る事ではないでしょう。


 魔力暴走とは、魔力を持つものにおいて、感情の高ぶり等で体内の魔力の制御が効かなくなり、外に一気に排出される現象の事です。魔法使い程の魔力を持つものならば、例え子供だったとしても辺り一面は吹き飛んでいた事でしょう。


そうなれば、その件を盾に国が彼を縛っていたかもしれません。そういう国なのです、シャレンドーナは。


「まあ、魔力暴走を起こしても私()大丈夫だったと思いますが、周囲を破壊させて幼い貴方にその責任を押し付けるのは見過ごせなかった、という事です」


そうレイドリック様は締め括りました。

その言葉に「やはり貴方の傍に居られて幸せです」と目を潤ませた魔法使いでしたが、言葉の途中で引っ掛かりを覚えたようで首を捻りました。


「レイ。何故、貴方は魔力暴走に巻き込まれても大丈夫と言い切れるんだ?」


先程も述べた通り、周囲を吹き飛ばす程の威力を持つ魔力暴走。それを受けても尚、大丈夫というのですから、そう思うのも無理はありません。


ディノの言葉に「ああ、そうでしたね」とレイドリック様は彼と視線を合わせます。


「ディノ、認識阻害の結界を」

「ああ、判った」

レイドリック様はこれを機に理由を話すつもりのご様子です。


すぐにふわりと風が抜けるような感覚がして、結界が張られたのが判りました。


「貴方は私の種族を知りませんでしたよね?」

「種族、ですか」


種族とは、魔族の中でも外見的特徴や特性により、分けられたものでございます。

例えば、グランならばワーウルフ族でございますし、アリアルならば悪魔族(サキュバス)となります。


レイドリック様の外見は、すでにご存知でしょうが側頭部から生える1対の巻き角にトカゲのような尻尾、そして剣の翼。一見、何の魔族かよく判りません。


「そう。隠しているわけではありませんが、公表はしていません。でも、私の元で働いているのですから、知っておくべきでしょう」


そう少し目を伏せて言った魔臣は、何でもない風を装いながら口を開きます。


「私はインキュバスとゴーレムの複合(ハーフ)です。だから魔力の吸収と物理への抵抗力もあって無事だった可能性が高いのです」


「インキュバスというと吸精……」

「何赤くなっているんですか! 私はそんなにしませんよ!」

そう言うと、ヤっているみたいに聞こえますよ、レイドリック様。何を、とは言いませんけれども。


実際、レイドリック様はハーフという事で吸精よりも吸魔に特化しています。よって、そんなふしだらな事になったりはしません。

それにしても、ディノのインキュバスに対する反応が早過ぎて、若干引きます。


多少ホッとした雰囲気の魔臣は咳払いをしてから続けます。


「別に種族特性を全開にして生活しているわけでは無いので、私に魔法はほぼ効かない、とだけ覚えていてくれたらいいです」


「もしかして、今までアリアルが貴方との2人きりを許していたのは、それがあったからなのですか……?」

魔法使いが今更な疑問を魔臣にぶつけました。デートとかに浮かれすぎでしょう、貴方。


「はい。どれだけ力を持つ魔法使いでも、私に危害を加えられないと判っていますから。申し訳無かったですが、外から来た人間を最初から信用する事は出来なかったので、黙っていました」


レイドリック様の言葉にディノは深く頷きます。

「それは何処に行っても同じ事でしょう。最初からホイホイ人を信じたら痛い目に遭うのは明白でしょうし」


そう言ったディノが通りの先を見て、ムッと眉をしかめました。

「レイドリック様、招かざる客が来たようです。……魔法の使用を探知したか」


彼の視線の先には、数人の武装した者達。

臙脂色の制服に肩章、その上からハーフプレートの鎧を身に付けています。周りを威圧するように手には槍を持ち、真ん中のリーダーらしき男を囲むように歩いてきます。


「衛兵? 仕事熱心というべきでしょうか」

「初動が遅すぎます。半分は見せ付けでしょう。……失礼な事を言うかもしれませんが、ご容赦を」

「先程も言いました通り、今日はデザイナーのレイです。気にしませんよ」


そんな会話を交わしている間にも、彼らはレイドリック様たちの進行方向に立ち塞がりました。


ディノがあからさまに機嫌悪そうに結界を解きます。認識阻害しながらの話はやりにくいでしょうからね。彼らは探知の何かを持っているのか、認識阻害されているにも関わらず、真っ直ぐこちらに来ましたけれども。


「城下町での魔法は禁止されている。直ちに使用を止め、詰め所まで同行してもらおう!」


リーダーらしき男がそう言うと、周りはさっと包囲するように展開します。

それには目もくれず、魔法使いは言いました。


「誰に物を言っている」


空気が2、3度下がったような気がしました。彼の金色の目は凍てつき、感情の触れ幅なのか、髪や服が風もないのに揺れています。


「ちょっと見なかっただけで、偉くなったものだな。大事な人の秘密をようやく明かしてもらえたというのに、そんな無粋な理由で話を中断させられるとは……。覚悟は出来ているのだろうな?」

そして口がゆっくりと弧を描きます。


その怯える様子もなく、むしろ威嚇してくるような態度で、ようやく可笑しいと思ったのでしょうか。周りの衛兵がざわめきました。いつの間にか集まっていた野次馬も身の危険を感じたのか、少し輪を拡げています。


「何を言っている!」

「行ってやってもいいが、今度は半壊で済むか保証しないぞ」


詰め所半壊って、何やったのでしょうか。そして、初めてでは無いのですね、魔法使い。


目を合わせた事でメガネの奥が見えるようになったのか、リーダーが狼狽(うろた)えます。


「ま、まさか、お前は……!」

「お前などと呼ばれる筋合いは無い」

「金色の目! 『M3』のディノ=コバリシェン……!!」

「ちょっといない間に礼儀を忘れたと見える。再教育に行かなければならないな」


その歪な笑顔は決して笑ってなどいませんでした。再教育に行くって、どこに行く気なのでしょうか? 怖くて聞けませんが。


魔法が放たれると言わんばかりに魔力が高まった頃、レイドリック様が魔法使いの袖を引きました。

「ディノ、そこまでにして下さい」


それに不満そうではありますが、ディノはあっさりと魔力を散らせます。


「貴方が庇う程のものじゃない」

その言葉にレイドリック様は首を振りました。

「いいえ。仕事に遅れますので、事を大きくしないように、とだけ」


本日の魔臣は老舗服飾店のデザイナーなのでございます。しかも指名依頼を受けての訪問。クライアントに迷惑をかけるなど、商売として不届き千万の所業でありましょう。


「そうだったな。では、自由時間にでも実行するか」


一瞬ざわめき、安堵しそうになった周りの衛兵を嘲笑うかのように一瞥し、足を一歩踏み出します。途端に割れる人垣。

市民の皆さんも存在を知っているのか、訓練されたようにバッと開きましたよ?

流石、魔王よりも魔王らしい魔法使いです。


「上に言っておけ。俺とこの方を妨害しようとしない事だ、と」

「……妨害も何も私、ただの会社の代表取締役なのですが」


人の壁を抜けなから、レイドリック様が穏やかに微笑みました。


「でも、気遣いは嬉しいです。仕事が中断されないようにしてくれたのでしょう?」

「貴方の憂いを晴らすのは当然だ」


即座に何事もなかったように反応を返す魔法使い。本当に当然の事と思っている事でしょう。



ディノって、俺が法だとか思っていそう。



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