表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/22

剣の殺し文句と魔法使いの思い出

人間の国入国と魔法使いとの出会い。



 レイドリック様の言う通り、王都の城門には街中で大きな魔法を使わせないようにという名目で結界が張られています。しかし、それは建前で、実際のところ外から魔族や厄介な魔道具が入って来るのを阻止するためのものなのでございます。


そうなると、魔族であるレイドリック様やグランが引っ掛かるのでは?とお思いになるでしょう。

心配はご無用、でございます。


「その結界、私達からするとかなり旧式なものなのです」

レイドリック様は苦笑をしつつ、訳を話します。それに「でしょうね」とディノが納得顔で頷いております。その理由は。


「100年単位で結界の術式が変わっていないと聞いています。完璧だから変える事はないと。あんな穴だらけの術式でふざけた事をぬかす……!」


何だか許しがたい事を思い出したのか、不穏な空気を出し始めましたよ、魔法使い。その様子に微笑むレイドリック様。


「でも、そのお陰で私達はこうして入り込めるのですが。流石に固まって入ろうとすると引っ掛かるので、こうして別々の門から入るとか時間をずらす等しています」


まあ、術式を改善しよう抜けられますけれど、と魔臣は言いました。それほど、両国の魔法技術は隔絶しているのでございます。


「魔法の研究が始まったのはこちらの方が断然早いのに、何故、そこまで自信満々なのか理解に苦しみます」

「マヌケだな」

「そう言わず。その点、貴方の結界の術式は我々も舌を巻く程です。そういう方が多数出てくると、私達も困ってしまうかもしれません」

「ほ、褒められた、だと……!」


レイドリック様の言葉を理解する一瞬の時間差で魔法使いの顔が真っ赤になりました。それを見せまいと顔を手で覆い「うぉぉぉ」と唸っております。


「私は、貴方をすごい魔法使いだと思っていますよ」


その状態でも気にせず、ついでとばかりにレイドリック様は魔法使いに笑いかけます。


不味いです、魔王よりも魔王らしい魔法使いが言葉だけで倒されそうです。

何だか痙攣を起こしている気がするのですが、レイドリック様。


「ほら、門を潜りますよ」

魔法使いを言い負かした魔臣が上を見上げます。


 日の高さに合わせて自分達に落ちてくる黒い陰。

青い空を切り取る石造りの壁。

そこに口を開けた大きなアーチ。

今は引き上げられている門代わりの太い木で出来た柵。

ふわりとくすぐるように揺れた空気(結界)。


そして、それらを背後に見送った後に、目の前にぱっと広がる白い街並み。

門から続く大通りは真っ直ぐ王城まで続いており、周りの建造物も全て白い石材で造られているのでございます。


「シャレンドーナよ、久し振り、ってところでしょうか」

レイドリック様が変わらないその潔癖なまでの街並みを見てそう呟きました。


「歓迎はしてくれるでしょうが、排他的ですよ、この国は」

ディノはメガネの奥の瞳を細め、自嘲するように言葉を吐き出しました。


「そうですね。否定はしません」

レイドリック様も頷きます。


「でも」

そっと近くにあった魔法使いの手を取る魔臣。


「貴方の生まれた国です。それだけで価値がある」


そう言って、停留所に停まった馬車から彼の手を引いて降りました。いつも門から一番近い停留所で降り、そこから目的地まで歩いて行くのです。


どうしたのでしょうか、魔法使いは。

俯いたままレイドリック様に手を引かれるように歩いています。よく見ると、横から覗く耳と首筋が真っ赤になっております。

どうやら許容量を超えたようでございますね。


 「ディノ、貴方の事だから覚えているでしょう」


 そんな彼を促すかのように、レイドリック様は手を引いていない方の指で道の先を示しました。


「あの辺りが貴方と出会った場所でしたね」


そこは丁度、花屋とパン屋の間くらいです。

人通りは多く、大通りという事で人が次々と出たり入ったりを繰り返しております。


レイドリック様の言葉に、驚いたように顔を上げたディノ。


「……っ、覚えて、おられた、の、ですか?」

その声は少し震えておりました。


「敬語」

『レイパレス』のデザイナーは、唇に指を当てます。


「忘れたとは一言も言っていませんよ。左膝の擦り傷の事も、あの時貸したハンカチの柄も」

そして泣いていた理由も。と懐かしそうな顔をしました。


それに魔法使いは思わずといった様子でレイドリック様の顔を窺います。そして、指差されたその場所に視線を向けました。


「あれは、俺の人生の汚点でもあり、貴方に逢えた人生の分岐点でもある。貴方の言葉のお陰で、あの時の状況を吹っ切る事も打開する事も出来た。俺も、忘れた事は無い」






 それは10年程前の事でございました。


レイドリック様は本日のように人間に変装して、この大通りをそぞろ歩いておりました。


依頼の仕事は終わり、時折店先を覗きながら『レイパレス』の店舗に戻る途中だったのでございます。領地にいる時は余り出歩けないレイドリック様は、ここぞとばかりに自領には無いものを見回っておりました。


そこに小さな泣き声が耳に届きます。


その声が気になったレイドリック様は、回りをぐるりと見渡し、人が避けて通っている場所を見つけると、そちらに向かいました。


本来、潜入中の他国で騒ぎに首を突っ込むのは勧められません。ましてや魔臣なのです。通常ならば、無視するはずでございました。


遠巻きに見る人間達を避けて前に出ると、中心には濃紺色の頭に仕立てのいい服を着た子供が蹲っておりました。


周りはひそひそと「こんなところで泣くと邪魔だ」とか「あの服装、貴族かも。関わるとろくな事無い」等と囁いて、誰も助けようとはしていません。


その様子に何か思うところがあったのか、レイドリック様はその子供に駆け寄り「大丈夫?」と声をかけたのでした。


上げられた顔には木の枝で切ったような傷、大きな黄金色の目には溢れんばかりの涙が浮かび、それがポロリと(まろ)い頬を滑り落ちていきます。


「怪我をしていますね。歩けますか?」


顔を上げた事によって見えた膝小僧の擦り傷。きっとこの場で転けたのでしょう。魔臣はポケットから未使用のハンカチを取り出し、傷口に当て両端を縛りました。


動く様子の無い子供にレイドリック様は「失礼しますね」と声をかけ、その子を抱きかかえ、道端に移動しました。野次馬も話が終わったと感じたのかバラバラと解散していきます。


心配していたのでしたら、誰かが手を差しのべれば解決した出来事なのです。でも誰も助けなどしなかった。

今も変わらないシャレンドーナの悪習は、当時から改善の兆しが見えないのでございます。


道の端に寄り、花屋の店員に水を分けてもらったレイドリック様は子供の傷口を洗い、もう一度ハンカチで膝小僧を包むように縛ります。


その間もずっとレイドリック様を見ていた子供に魔臣は内心首を傾げます。しかしそれを外には出さず、子供に話しかけました。


「これでひとまず大丈夫でしょう。後はお家で診てもらって下さい」


その『お家』という言葉にその子供は肩を跳ね上げました。それが判ったのでしょう。レイドリック様は苦笑しました。家庭で何かあったのが丸分かりです。


「でも折角知り合ったのだから、私と一緒に街を見て回りませんか? 私はこの国の住人ではないので、1人だと心細いので」


警戒しているのでしょうか、子供は見極めるかのようにジッとレイドリック様の紅玉の目を見ています。


……今思うと、これはレイドリック様に見惚れていたのかもしれませんが。


ともかく、初対面の大人の誘いに戸惑うのは仕方の無い事です。人攫いがあってもおかしくないのですから。


「うーん、信じてくれないかもしれませんが、私は『レイパレス』という洋服のお店のデザイナーです。この服も店の制服なのですよ」


その日のお召し物も本日と同じように『レイパレス』の制服でした。ただしループタイではなく細いリボンが首元を飾っております。


その時、ようやくその子供が頷きました。きっと今のディノに置き換えると美辞麗句を並べている事でしょう。


「そうしたら、何処に行きましょうか?」

微笑みながらその子の顔を覗き込みました。


すっと目を逸らした子供に、おや?という顔をします。どうやら、この子供は街を出歩いた経験が無い模様。


レイドリック様は少し悩む素振りをした後、彼に笑いかけます。


「私は氷菓子が食べたいですね。付き合って下さい」


そうして子供の手を取りました。少し皮が剥けているそれを慈しむように見た後、包むように握りました。


「確か2つ目の角を曲がるのだったと思います」

そうして、2人は城下町へと繰り出したのでした。




「糸は紡がれる」の2話目(1話目後半)を当て嵌めてみると……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ