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剣の指名依頼と魔法使いの里帰り

4作目です。1日ごとに1話更新します。

趣味の方で人間の国に行きます。




 本日は麗らかな陽気でございます。


透き通るような空には綿雲がぽかりぽかりと漂い、日差しはぽかぽかと暖かく、爽やかな風が道端の名も無き花を優しく撫でていきます。


それは広げられた剣の翼にも平等に触れていきました。


 「ううーん、気持ちのいい天気ですね」


 その翼の持ち主、『剣の魔臣』レイドリックは大きく伸びをしています。


フェーレウス領の領主でもあるこの方は、連日、いつも以上に執務に没頭されておりました。そのために固まった身体を目一杯伸ばしているのでございましょう。


明るい日の光に照らされて、背中の剣の翼も立派な巻き角が覗く波打つ金色の髪も紅玉の瞳もキラキラと輝いて見えました。


 「凝っているようならマッサージしましょうか? 資格もありますし、何なら異国から伝わった秘術でも」


 そんな魔臣に声をかける人物が1人。


黒に近い濃紺色の髪の毛は日の下では青みが勝ち、金色の目はメガネを通していても穏やかに凪いでいるのが判ります。


彼の名はディノ=コバリシェン。

レイドリック様のためにいろいろな資格を取って、魔族の地まで会いに来た『M3(魔王よりも魔王らしい魔法使い)』と呼ばれる人間でございます。


現在、レイドリック様と遠出が出来るのが嬉しいのでございましょう、普段の威圧感が鳴りを潜めております。


 「ストップだ、魔法使い」


 それを即座に止める存在が。


頭部にある獣の耳をバンダナで隠した魔臣の部下のグランです。本日の魔臣の付き添いなのでございます。


「何の心の準備も出来ていないのに、旦那に触れるという不埒な真似が出来るとでも思っているのか、お前に」


そう言うと、ディノがハッとした表情でグランに向き直ります。

「た、確かに……、俺には無理だ……!」


何を想像したのでしょうか。顔を赤くした魔法使いが床に手を付き項垂れます。

今日も彼のレイドリック様好きが止まらない様子です。意外と奥手なのでございましょうか?


「……平和ですね……」

一連の会話を聞かなかった事にして、レイドリック様は空に目を向けます。数羽の魔鳥が視界を横切っていきました。


ゴトゴトと進む一般的な馬車に揺られて、彼らは目的地へと向かっているところなのでございます。


それは一週間ほど前の事でありました。






 「今回、魔王様より許可が降りました」

 突如、レイドリック様は口を開きました。


朝食後のお茶の時間。いつもならこの時間に本日の予定等を話し合うのですが、何やら魔臣から報告があるようでございます。


そうして取り出した手紙は先日、この領主の館に届けられたものとデール王国の封蝋が押されたものでした。


「あらん? それって『レイパレス』の指名依頼の手紙じゃなかったかしらぁ?」

魔臣の部下であるアリアルが首を傾げながら尋ねます。首を傾げる角度も赤い髪の流れ方も計算されつくしたように艶やかですね。


そして、何時ものボンテージのような露出の高い服装……ではなく、今日は少し露出控えめの洋服を着ておりましたね。それも合わせて目の保養になりそうな美女でございます。


ただし額には第3の目、臀部からは細いしっぽが生えておりますが。


彼女の着ているのは『レイパレス』の新作のワンピースとジャケットです。


キチンとした服装であるにも関わらず、腰よりやや上に付けられた切り替えからギャザーが寄せられたワンピースでスタイルアップがなされ、縁に付けられたレースとジャケットが透けるような素材のため、少しドキリとする仕上がりでございます。


アリアルが着ていると、いつもとは別の意味で目の毒なのかもしれません。


 ……それは置いておいて、先程の『レイパレス』とは、一言でいえば世界的な洋服の老舗ブランドでございます。


年齢、身分、国関係無く普段着からドレスまで幅広く扱っており、老若男女問わず支持されております。


そんなブランド『レイパレス』ですが、何を隠そう、この魔臣であるレイドリック様が興したものであり、レイドリック様は未だ現役のデザイナー兼お針子でもあるのです。


 「そうです。この依頼を受ける事にしました」

 アリアルの言葉を肯定し、レイドリック様は部下の顔を見渡します。


「その為の領外への外出許可です。前回からも大分時間が空きましたから、魔王様も頃合いだと判断されたのでしょう。小出しにして付加価値をつけるのを狙っているのでしょうけれど。

もちろん、いつものように視察も兼ねていますので、各自そのつもりで動いて下さい。

今回の付き添いはグランでしたね」


「そうねぇ……、前は私が行ったわね」

「判った。そのつもりで準備しておく」


交代で付いていっている部下2人が納得するように頷きます。

それを見てから、魔臣は視線を魔法使いに。黙って話を聞いていたディノはその視線にピクリと反応しました。


「ディノ」

少し彼をじっと見た後、レイドリック様は口を開きました。


「国に、帰りませんか?」

「は?」


後に彼は言う。

「レイドリック様に出すような声ではなかった」と。






 「それはそうと、行き先がシャレンドーナだったとは。早く言って下さればよかったのに」


 遠くに人間の国の王都であるシャレンドーナの城壁が見えたところで、ディノが思い出したように言いました。


そうです。

今回の『レイパレス』の指名依頼は敵の本丸、といった場所からの依頼なのでございます。

だからこそ魔王様への許可取りが必要だったのです。


「早く判っていれば、げぼく……いや、知り合いにゴミ掃除でもさせていたものを」


完全に下僕って言っちゃってますよね?魔法使い。

ゴミ掃除の言葉もやたら不穏な響きがあるのですが。


「ディノ。今の私はただの『レイパレス』のデザイナーです。余計な気遣いは無用ですよ」

レイドリック様は気付いているはずですが、いろいろな含みを無視して彼に言いました。


「それでも貴方様は私の主です。憂いを払いたくもなります」

そう魔法使いは返し、優しく微笑みました。

それって、雇用主って事ですよね?


「そこまで人間の国に思うところがあるわけではないのですが」

その様子に思わず苦笑するレイドリック様。


何せ魔族に敵対体制をとっている人間の国です。かの国の物価が高かろうと治安が悪かろうと、こちらの国(デール王国)に影響がなければどうでもいいのではないでしょうか。


確かに流通が滞ったり、悪人が流入したりすると困りますが。




 「旦那、そろそろ用意した方がいい」

 グランがレイドリック様に言いました。


「そうですね。変な所はありませんか?」

そう尋ねたレイドリック様は先程とは違う姿をしておりました。


波打つ金色の髪は艶のあるブロンズ色で肩口までの長さに。紅玉の瞳は赤茶色にまで色味を変えています。剣の翼は見えなくなり、立派な巻き角は帽子の下へ隠されました。


以前、魔法使いが魔臣に会いに来た時に『光り輝く髪』『紅玉の瞳』と言っておりましたので、その特徴を変えた形になります。

しかし白皙の相貌は変わりませんが。


そして一応存在する『レイパレス』の制服を身に付けております。


襟の縁に深い赤のラインが入ったシャツにお好みでリボン、ネクタイ、スカーフ等を巻き、ジャケットは優しいベージュ色に黒を取り入れたツートンカラー。

胸元には『レイパレス』の(しるし)


そしてスカートまたはスラックスはジャケットと同じくベージュ色と黒色で、アレンジは各自自由となっております。


レイドリック様のお召し物は、ジャケットの裾が少し長めでループタイ、スラックスは黒地にラインが入ったものです。


「変な所はないが……」

グランがちらりと横を見ます。


そちらにはレイドリック様を見たまま固まった魔法使い。所謂ガン見という状態でしょうか。瞬きしていない気がします。


「あの、ディノ? 似合っていませんか?」

「いえ、とってもお似合いですよ」


魔臣の呼び掛けに反射と言っていい程の早さで、店員のよく口にする言葉を言いました。そして少し赤い顔を背け気味にしながら、追加を口にします。


「ごくありふれた色彩のはずなのに普段と違った良さがある。髪を短くした事によって普段目が行かない白い首筋に目が行ってしまう。ああ、近寄りがたいくらい高貴な紅玉(ルビー)が隠されただけなのに何故こんなに距離が縮まった感じが!より身近に感じられるからか!?普段の目が細められる様もいいがこちらもいい。全然いける。ふわりと揺れる髪も思わず触れたくなる。質感と丁度いい長さも相俟って何時もはない愛らしさみたいなものまで加わって……」


「問題ないみたいだぞ」

ディノの言葉はまだ続いていますが、グランはバッサリと一言で終わらせました。


「そうみたいですね?」

少しディノから視線を外したレイドリック様は遠い目をしました。

恥ずかしすぎますね、これは。


「では、オレは別行動させてもらう。魔法使い、旦那を頼む」


上司が問題無いと判り、馬車を降りるグラン。

今回は最初から別行動を取る予定でした。シャレンドーナでの護衛はディノでも問題ないと部下2人が判断したためです。


それだけ人間の国での『M3』の影響は大きいようでございます。


「何かありましたら、店までお願いします」

レイドリック様がそう声をかけると、「わかった」という返事があり、別の門へと去っていきました。


「何故、門を入ってから別行動じゃないのですか?」

その背を見ながら、魔法使いは上司に尋ねます。


「ディノ、私は『レイ』ですので、そのつもりで」

「うっ、気を付けます」


意地悪そうに笑うレイドリック様にディノは顔を背けます。直視に耐えられないようですね。


「それで、別行動の理由ですよね」

更に覗き込むように魔法使いを見た後、レイドリック様は間近に迫った城壁を振り仰ぎました。


「王都の城壁に魔法の無効化の結界があるのは、もちろん知っていますね?」

「もちろんです。いっその事、敷設にも携わった事もあります」


そういえば、上級結界士の証も持っておりましたね、魔法使い……。だからこそ、結界貼りの求人に戸惑いもなく飛び付いたのでしょうが。



里帰り、というよりお礼参り?

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