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剣の気持ちと魔法使いの硬直

これで現在のストック分は終わりです。

ディノがいろいろ忙しいですね。



「和解をしたのなら、とりあえずセツ様の傷を見せてもらってもいいかしらぁ?」

アリアルがやれやれといった様子で話に割り込みました。

確かに痛々しい見た目のセツ様を放置しているのは人道……ん?魔族道ですかね?に反します。


「そうだな、見た目よりも軽症ではあるだろうが頼む、アリアル。……さて、レイドリック。そろそろ領主として相談させてもらいたいのだが」

魔臣の部下の言葉に鷹揚に頷くと、麒麟の長兄はあっさりと真面目な話題を口にしました。


「……はい、今回の自称勇者達の件ですね」

レイドリック様も改めてソウ様に向き直ります。


「あれらはエイデンシンからこちらに来てしまったものだ。身柄はこちらで預からせてもらいたい」

「ここはフェーレウスです。こうして出張ってくる必要があった事ですし、こちらで処するのが当然なのですが」


領主として、はいはいと身柄を引き渡せば他の者から軽んじられる事になりましょう。

レイドリック様はソウ様の話に難色を示しました。


「それはこちらとて判っている」

そうして始まる政治的やりとり。






「……まあ、セツが襲われたのはオレ等も予想外だった訳だ。助けてくれて有難うな」


そのやりとりを余所にライ様はセツ様の頭を撫でながら魔法使いに言いました。


「大事ならこんな事に巻き込むな」

腕を組み呆れた視線を送るディノ。


「そうよぉ、それこそアイテムに目を通しておかなきゃ」

アリアルがセツ様の傷を水の魔法で洗い、魔力をながしながら忠告します。求人情報誌アイテムには自称勇者達の動向も記載されていますからね、その通りでございましょう。


「あー、ちょっと知られた時期が悪かったというか、うっかり口が滑ったというか、思ったよりもセツがじゃじゃ馬だったというか……」

「馬、違う。結構、我慢していた」

素直に撫でられていたセツ様がライ様を見上げます。


それにアリアルが何か納得したように頷きます。

「この間、マガン様から来た手紙はもしかしてこの事があったからなのかしらぁ?」


以前、急ぎでレイドリック様へマガン様から手紙が送られていました。それにはどうやら『セツの様子がおかしい』というような事が綴られていたようなのです。それと『急にフェーレウス(そちら)に行くかもしれない』とも。

親の勘は当たっていますね。


「そうだな。その事に関しては母上から説教されてしまった。ゲンコツも」

「自業自得だな」

「女心を利用するなんてサイテーですわよぉ」


処置が終わったのか、赤毛の魔族は屈んでいたその身を起こします。然り気無くセクシーポーズなのは、気にしない事にします。


「いやはやその通り」

その声に顔を上げるとソウ様が扇を開いて笑っていました。


「母上の鉄拳は何時受けても痛い」

「二人とも、セツの事も考えて、ちゃんと反省して下さい」

横にいたレイドリック様が溜め息をつきつつ反省を促します。幼馴染み達の態度は昔から変わらないようでございます。


「四六時中考えているさ。さて、セツ、そろそろ帰らねば日が暮れる」

そう言いつつ、セツ様の背を押します。


「まだ、レイドリック様、話してない」

折角来たのだから、少しくらい話がしたかったのでしょう。セツ様が渋ります。


「今回の訪問は突然の上、非公式だからな。潔く帰ろう」

ライ様が説くように妹に言います。


「怪我もしているし汚れもついている。きちんとした姿の方がお前もいいだろう」

ソウ様は手にした扇でヒラヒラとセツ様を扇ぎます。

それに己の姿を思い出したのか、セツ様が顔をしかめます。


「今度はきちんとした時に来て下さい。セツの好きなお菓子を用意しておきますから」

「判った。帰る」

レイドリック様がセツ様の手を握り微笑むと、彼女はあっさりと頷きました。


「ライ、我等の妹はチョロいな」

「前から判ってた」


兄二人がヒソヒソと言葉を交わします。


「レイドリックもレイドリックだな」

「それも判ってた」

「そこがいいんだろうが」


魔法使いが一言割り込みます。やたらいい笑顔なのは何故なのでしょう。


「帰ったら、ちゃんと治癒師に見てもらってねぇ」

魔臣の部下が上司の婚約者に話しかけています。傷自体は治っているように見えるのですが。

「ここに治癒師の証持ちがいますけど、見る気がまぁっっったくありませんからぁ」


そういえばディノは治癒師の業を極め、証明書ともいえる耳飾りをしていましたね。

本人はそんな言葉を聞かなかった事にしているようです。


「レイドリック様」

そんな中、セツ様が婚約者を見上げました。


「はい」

「本日、は、ごめんなさい。そして、助けて、くれて、有難う。今度、は、きちんと、お目にかかりたい、と、思います」

たどたどしくはありますが、文章になっている言葉と共にレイドリック様にギュッと抱き付きます。


即座に上がる魔法使いの悲鳴。


それをフフンと鼻で笑って、レイドリック様から体を離し走り出すと共に麒麟へと転身して空に飛び出しました。


「セツ、一人で行くんじゃない!じゃあな!」

ライ様がそれを見て、慌てて自身も麒麟の姿になりその後を追っていきます。


「やれやれ、慌ただしいな」

パチンと閉じた扇を懐に収め、ソウ様が肩を竦めます。


「レイドリック、また来る。今度は手土産の1つでも持ってこよう」

「手土産はいいですが、厄介事は御免被ります」

「おや、手厳しい。まあ、その魔法使いがいる限り愉快な事になりそうだから、な。私が何かする事はしばらく無いだろう」

ニヤリと笑って、手をひらりと振ると彼もまた兄弟達の後を追い、空へ駆け上がっていきました。



 末姫と魔法使いの魔力によって一時的に発生していた雷雲が散った事によって、所々日差しが出てきております。

天使の階段と呼ばれる光芒の中を競争するように駆ける3体。


その姿を魔臣は黙って見送っておりました。視線に僅かながらの哀願と憧憬を孕ませながら。

この方が幼馴染み達を見送る時はいつもそうです。


何をもってそんな感情を抱くのか。アリアルには察しがついているでしょうが、ディノには判らないはずです。


それは横から見ていても切なくなるような光景でした。

遠くを見る紅玉の眼差し、波打つ金髪が陰影を付けながらも淡く光り……。


「レイドリック様……」

思わず、といった様子で魔法使いの口から零れた言葉。少し目を伏せた魔臣でしたが、顔を上げた時にはそんな雰囲気はきれいに消えておりました。


代わりにポツリと一言。

「何か、無性にデッサンが描きたくなりました……」


「お疲れの所申し訳ないけれど、お部屋に少し書類が残っていたわよぉ?」

赤毛の部下が上司の心情を知ってか知らずか肩を叩きながら笑います。


「……結界に鹿避けの効果も付けておいた方がいいだろうか……」

魔法使いは魔法使いで何やら難しい顔でブツブツ呟いています。良からぬ事でも考えているのでしょうか?


視界の端でロープツィードが先端をびよんびよん振り回しています。

自称勇者達はエイデンシンで引き取る事になったようで、きっと今は空の旅を楽しんでいるでしょう。


「……帰りましょうか。グランに任せっきりは駄目ですし」

そう言い、何を思ったか魔臣はブツブツやっている魔法使いの背後を取りました。

そして何故か突然の抱き付き。


「ディノ、帰りますよ?」

「ひゃあぁっ!」

耳元で聞こえた声に、魔法使いがらしくない悲鳴を上げました。今日はよく叫ぶ日ですね。


「高いところが苦手でも我慢して下さいね」

どうやら飛ぶためにディノを掴んだだけのようでございます。


ところで、魔法使いが髪留めにしている装飾品は、魔道士の証です。

魔法を極めるというのは難しい事でございますが、この証は上級魔法を修めればある程度実力があると認められ、授与される物と聞き及んでおります。しかしディノの事ですので、かなりの魔法を修得しているはずでございましょう。「役に立ちそうなもの(資格)は全て取ってきた」と豪語する彼にとって、飛行を可能にするものは確実に『役に立つ』魔法であるはずですので……。


「まぁ、驚かせたお詫びとして黙っておきましょ」

同じ事を考えただろうアリアルがクスクスと笑いながら二人の様子を眺めました。


どうやら行きと同じ体勢で帰る事が決定したようです。顔を真っ赤にしたディノに抱き付いたまま、ふわりと浮いたレイドリック様はこちらに目線を投げ掛けました。


「帰ったらお茶にしましょう、レイドリック様。町のパン屋から新作のお菓子が届いていましたからぁ」

その目線にコウモリの羽を広げながら魔臣の部下はそう領主に提案をします。


「休憩も大事ですのよ?」

「新作ですか。楽しみです」


何処か固かったレイドリック様の表情が綻びました。

領主様も大変なのです。


「では、行きますよ」

そう声をかけて、レイドリック様達は来た時よりも緩やかにこの場を後にしました。



その頃の『レイパレス』工場長フレディ


「おや、どうしましたか?

 はい?手紙が届いている?

 こちらにですか……。

 どうやらレイドリック様宛てのようですね。

 『レイパレス』の名指しの用件のようです。

 珍しい。

 今度、お屋敷に行く時に持っていくとしましょう」


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