剣の困惑と魔法使いの牽制
魔法使いVS婚約者。
2人の目線の先で、レイドリック様が自称勇者達の前に立ちました。
「私はこのフェーレウス領領主レイドリックです。領内で武力行使するのなら相応の対応をさせて頂きます」
それよりも貴方様の後ろで武力衝突が起きそうなのですけれども。
「それを置いてもエイデンシン領の息女を理由もなく傷付けたからには拘束しなければなりません」
大人しく捕まってくれませんか?
剣の魔臣の剣の翼がカランと澄んだ音を立てて広がります。どうやらレイドリック様も多少は思う事があったのでしょう。
突然の魔臣の来訪という出来事のせいか、少し及び腰だった自称勇者達でしたが、彼等も大人しく捕まる気は無いらしく、各自武器を構えます。
「丁度良い。魔臣となれば報酬も跳ね上がるだろう!」
「さっきの爆発、無い。魔法、下手」
「雑魚相手に火力はいらないからな。避けられなかった時点で自己責任だ」
こっちはこっちでヒートアップしております。
「それにこの領地まで余計なもの連れてくる奴が下手上手を語るとはな」
「猛者、雑魚、相手しない」
「で、雑魚に傷を負わされるとか、流石馬だな。ああ、鹿でもあるのか」
「聞き捨て、なら無い!」
馬で鹿、続けて読んではいけない単語ですね。
セツ様の角がパリパリと帯電し始めました。
「静電気か。芸の無い」
いやいや、共鳴して空がゴロゴロ鳴ってきましたよ!?
そして応じるかの様に魔法使いの周りにも風の渦が出来始めましたよ!!?
「暴力的!レイドリック様の側、許さない」
「許可なんて必要ないな。そちらこそ不釣り合いだ」
キンっと相手の剣を弾きながら、飛んできた矢を剣の翼で切り払い、剣の魔法で作り出した短剣を入れ違い様に飛ばし牽制。
レイドリック様は3人を相手取りながらも、その魔力の高まりを感じたようです。
「何が……?」
でもそちらには向きません。
ただ、急ぐ事態であるという事は判ったのでしょう。何かを決断したかのように目が細まります。
周りに剣の魔法を浮かせ、手に持つ細身の剣とさらに剣の魔法で造り出したマンゴーシュと呼ばれる短剣を握りしめました。
そして何の前置きもなく一気に相手の懐へ入り、細身の剣を突き出すと共にマンゴーシュで相手の剣を巻き取ります。
その一瞬の間に待機していた剣の魔法達が襲撃者に殺到しました。
ドスドスドスッと鈍い音を立てて剣が地面に突き刺さります。彼等の服を巻き添えにして。
つまり地面に貼り付けになっているわけでございます。
服に罪はありませんが、苦渋の決断だったのでしょう。レイドリック様としては。
ついでに刃の潰れた剣でも混ざっていたのでございましょう。衝撃で気を失っている様子です。
「セツ、ディノ!」
それを見届けレイドリック様は後ろを振り向きました。
「絶対、阻止!」
「そのままの言葉を返してやろう」
睨み合う両者。
乱れ吹く風。
どうしてこうなった、という状況が今まさに目の前で展開されておりました。
「ええっと……、どうしましょう?」
一瞬、ポカンとしたレイドリック様でしたが、状況が理解出来たのでしょう。急速に悪化する空を仰ぎました。
「そりゃあ、『私のために争わないで』って言うところじゃないかしらぁ」
そう言いながら側に降り立ったのは後を追って今しがた到着した魔臣の部下アリアルでした。
「絶対収まるわよぉ、アレ」
「それもどうかと……」
手に持ったマンゴーシュだけを消しながら、レイドリック様は苦笑しました。
流石に言いたくありませんよね。
アリアルと一緒に来た部下に勇者達の捕縛を命じながら、魔臣は首を傾げます。
「それにしても、どうしてこうなったのでしょう?2人は初対面なはず……」
「まあ、どちらもレイドリック様を取られたくないって事なのよねぇ。青いわぁ」
一緒にきたのであろうロープツィードという見た目:蔦、実質:触手?の魔物が男達をぐるぐる巻きにしています。
亀甲縛りも出来る?必要無いでしょう。
触手攻め?どういう意味か判りませんが、需要が無いと思われます。
外野のそんな様子を横目に、今にも衝突しそうな2人を全て判っていると言わんばかりの笑みを浮かべながらアリアルが見解を述べました。
確かに、セツ様にしてみればぽっと出の人間にレイドリック様の隣を盗られるようなものですし、ディノにしてみれば婚約者なんて青天の霹靂だったのでしょう。
まるで今の空模様のようです。
ビュッと風が鳴ったのと角が振り上げられたのはほぼ同時でした。
ピカリと空が光ります。
それは目標を大きく避けて地を割ります。
セツ様の雷をディノが風の魔法を用いて真空を作り出しうまく誘導したのでしょう。
「本当、腹立たしい。結界も、そう」
「結界の機能は正常だ。自身を省みるが良い」
そりゃあ、領内にいる魔法使いにこれ程嫉妬していれば悪意があると判断されても仕方無いでしょう。しかし、人の事を言えないのではないでしょうか、魔法使いは。
婚約者に明らかに喧嘩を売っていますよね?
風が視覚化するほど周りを巻き込み始めました。それに伴い、雲からは雪が降り始めます。
気圧が2人の魔力により歪められているものと考えられ、次は更なる魔法が繰り出される予感がひしひしとします。
「平行線」
「歩み寄るつもりなどない」
地上には竜巻が、空には雷の龍が出現しました。
そしてその二つの『りゅう』がぶつかる……!
「そこまでです」
投げた剣が雷の龍を突き刺し誘電し、落下と共に竜巻を突き抜け力を殺ぎながら地面に音を立てて刺さりました。
勿論、投げたのはレイドリック様でございます。
「あんた達、やりすぎよぉん」
消滅の余波で生じた風に乱れた髪を手櫛で整えながらアリアルが呆れたように言いました。
「ここを吹き飛ばす気ですか、全く」
確かにあの魔法がぶつかったとなると周り一帯が悲惨な事になった事でしょう。
レイドリック様が珍しく苦言を呈しています。
「多少の事なら目を瞑りますが、流石にそれは駄目です」
「申し訳ありませんでした」
すぐに頭を下げたのは魔法使いでした。それと同時に暗雲が散っていきます。
「熱が入りすぎました」
「ごめんなさい、レイドリック様」
セツ様もしょんぼり頭を垂れながら謝ります。
ちょっと被せ気味だったのは気のせいでしょうか。
「でも、実力、気になる、本当」
恐らく、当初の予定ではディノの実力を見極めというより、人間に実力を思い知らしめる意図があったと思われます。
ん?少し前に同じような事を聞いたような?
「心配してくれたのですね。……だからと言って、つっかかっては話も出来ないでしょう?彼についてはちゃんと魔王様の許可も頂いていますし、実力も申し分ないです」
その言葉に何か魔法使いが感動に打ち震えているのですが。
後ろの蓑虫状の勇者達との落差が激しい……。
エビフライーって、ロープツィード、遊んでいますね?
「そうか、それならよかった」
不意に頭上から声がしました。
そしてふわりと降りてきたのは2体の麒麟。
「兄様……」
苦虫を噛み潰したような顔でセツ様はその2体が人の形になるのを見ていました。
1人は肩程で結われた銀色の髪を胸前に垂らし優雅に扇を広げ、もう1人は反った角に揺れる飾りを付けた頭頂で金の髪を結い上げたエイデンシンの鮮やかな服を身に付けた男達でございます。
「レイドリック、久しいな」
銀髪の青年が艶やかな声でレイドリック様に声をかけます。
「ソウ、ライ。お久し振りです」
それに微笑んでレイドリック様が返します。
ソウ様が銀髪の方、ライ様が金髪の方。
いずれもセツ様のお兄様方であり、将来エイデンシン領を担う事になる者達でございます。
「少し前にマガン様から通信をもらったばかりですのに、早いですね」
その言葉にソウ様は肩を竦めます。
「父上から命じられてね。うちのお姫様を迎えに、さ」
「それとそいつの様子見」
そう言ってライ様が顎で指したのは我関せずといった顔をしているディノでした。
「上手くやったようで何より」
ニヤリと笑ったライ様。それに嫌そうな顔で見返す魔法使い。
「仕向けたな、この馬が」
「相変わらず不遜だな」
扇で口元を隠しながらソウ様が流します。
仕向けたというのはきっと、理由をもってフェーレウス領に来るために、セツ様を煽ってディノに突撃をさせた事を指しているのでしょう。
道理でセツ様がお二人を見た時に罰の悪い顔をしたと思いました。
それにしても、エイデンシンのお二人と魔法使いは知り合いなのでしょうか?
会話が初対面のそれではありません。
それを感じたのか、アリアルが疑問の声を上げました。
「なぁに、お二人と知り合いなの?」
ディノに向けた言葉でしたが、答えたのは扇をパチンと閉じたソウ様でした。
「アリアルなら知っていよう。こやつがここに参じた時、所持していたであろう求人情報誌アイテムを」
そりゃあ、忘れるはずがありません。
謁見室でいきなりかの情報誌を取り出し「雇って下さい!」と言われた時の衝撃を。
ついでに愛の告白までバッチリ記憶に焼き付いております。
「それは我々が渡したものだからな!」
……冊子の提供者は意外と身近にいたようです。
そして何故かしたり顔をしているソウ様。
「訂正させてもらおう」
それに待ったをかける魔法使い。
「その言い方では思い違いが起こる。実際は、『レイパレス』のデザイナーを探していた俺がエイデンシンで聞き込みをしていたら、何度か力比べを強制されたので見返りに情報提供を求めたら何も言わずに投げ渡された、だ」
勿論、全て勝ちましたがね。
とディノはエイデンシン領の跡取り達を鼻で笑いました。
「内容の精査に時間がかかったが、こうしてここにいられるのは感謝してやらん事もない」
「へーへー、有難いこって」
ライ様はおざなりに肩を竦めます。
魔法使いは、魔族の公用語である古代デール語を習得していると聞いていましたが、あの冊子の情報を精査までしていたのですか。
そしてレイドリック様に辿り着いたと?
もう賢いを通り越してバカですね。
「と、いう事で、そやつの動向は我々も気になっていたのだよ」
レイドリック様を見やりながらソウ様が言います。
「レイドリックをオトせるかどうかとな」
「兄様!!」
セツ様が声を荒げます。実の兄弟まで敵とは大変ですね。しかも理由が道楽でしかないという。
当のレイドリック様は考えを放棄したのか「はぁ」と生返事をしたのみでした。
「こいつ、ライバル足り得ない」
ふん、とそっぽを向く末の姫。
「……実力、認めなくもない」
兄達にも勝ったと聞いたからでしょうか、少しディノの評価を修正しましたよ。
それに魔法使いは、
「お前に認めてもらわなくても構わないが、真実だからな」
と言い放ちました。非常に彼っぽい言葉ですね。
「まあ、氷と雷を使い分けているところとレイドリック様を見る目に関しては認めてやろう」
続けた言葉はやたら上から目線ですがなかなかに魔法使いらしくないものでした。
後に語った事によると『同好の士として』とか何とか。ううむ、何かの琴線に触れたのでございましょう。
すべてはアリアルの言葉に集約している気がする今日この頃。
彼女は目に毒な格好でも、かなりの常識人です。




