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真夜中つれない弟と僕

※僕(兄)が弟に対し多少特別な感情を抱いています。要素が無い気もしますが一応うっすらブロマンスのつもりです。苦手な方はブラウザバック推奨。

 汗ばんで火照った頬の片側をすっと冷たいものが通ったので目をこすり身体を起こすと、さっきまで隣で寝ていたはずの弟が窓際の壁に凭れかかり俯いているのが視界に入った。その窓はほんの少し開いていた。どうやらそこから零れる夜風が僕を覚まさせたらしい。

 弟はしっかりついた寝ぐせをそのままに何か考え事をしているようで、身じろぎ一つしない。現に僕がこうして物音をたてても確認の一瞥すら寄越さない。そんなにまで熱心に何を考えているのだろう、とひとつ思うものはあるが、それを尋ねたところで恐らく無視をキメこまれ続けることは明白で、そのまま眠りに戻ってしまうのが無難だろうと頭の何処かでは囁いていた。

 それでも話しかけてしまったのは、もう、悪癖のようなものだ。一方通行と知れていてなお構って欲しさで近づいてしまう。どうしようもない。

「眠れないのか」

 横目をやりながら弟の右側に行き自分も背を壁へ預ける。覗き込んでも無造作に垂れた髪の隙間からは表情が読み取れない。その首筋を月明かりが薄っすら照らしているお陰で、まだ未完成な骨格をしているのが見て取れる。しかしやはり顔はよく見えない。

 解ってはいても返答のないのは寂しいもので、何でもいい、反応してくれと、その巧妙に隠している髪に手を伸ばす。

 その指先が今にも触れるという段階で、やっと弟の手が僕を遮って左に退いた。

「ちょっとは返事もしてくれよ。じゃないと、僕の立場がないだろ」

「…………ああ」

 やっと顔をあげた少年は興が削がれたとでも言いたげにこちらを見つめた。そんな態度をとられるのは毎度のことなので、僕は大して気にすることなく微笑って逃げる頭をもみくちゃにした。

「それしたら怒るっていつも言ってるじゃないか、やめてよ」

「それはお前がちっとも話そうとしてくれないからだぞ、悩みでもあるのか。このところよくそうやっているだろう」

「……まあ僕だって色々あるけど。でも、兄さんに相談するようなことは何もないんだからいい加減放っておいてよ。鬱陶しいな」

 弟はそう言ってまた僕の手を避けると見えないものから逃れるようにしてさっと窓を閉めた。途端、じめっとした蒸し暑さが部屋に戻って寝衣の着心地が悪くなる。

 先ほどまで髪を掻き撫ぜた手だけがしっとりしていて、少年が洗った後横着してよく乾かさなかったことが解った。仄かに花のような香りがする。使っているものは同じはずなのに自分の髪は固くごわついている気がして恨めしく思う。これが年かと嘆息して数歳離れているだけの弟を観察した。艶やかで柔らかいことが触らなくてもわかる。

「気持ち悪いんだけど」

 長い事じっくり眺めていたらしく、気味悪そうに少年が肩を抱く。やりすぎたかなとちょっと反省して「もうそろそろ寝よう」と僕は自分の布団に戻った。

 その行動を意外に思ったのか、弟は警戒しつつも同じように隣の布団に潜り込んでこちらを向いた。

「兄さんは毎回毎回けなくそに言われてどうもしないの」

 悪習でついつい語りかけてしまうだけなのだと、答えると「ふーん」とつまんなさそうな声を発してそれきり静かになった。

 まさか今日こんなに会話が成立すると思っていなかった僕はどきどきして長い事寝付けずごろごろしていたが、暫くして横から聞こえる規則正しい寝息を耳にするうちに自然と瞼が下がって眠りの世界へと引きずりこまれたようだった。 


 明日はもう少し弟と話せるといいな。                         

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