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1話 転移

「坊主!?そんなの絶対に嫌だからな」


 部屋から境内にまで響くような声で叫んだ。


「五月蝿い!黙ってこっちに来い!」


 この鼓膜が破れるくらい五月蝿いのが俺の父親、宮野蓮司。横柄な男である。勿論、外面は良く和尚としての仕事も果たしている。


「嫌だよ!坊主なんて野球部じゃないんだぞ?モテなくなるじゃないかよ!」


「欲望は捨てろ!」


「お前だってエロ本持ってるくせに何抜かしてんだよ!お袋とおばちゃんたちにバラすぞ!」


 意外とこの事実が効いたらしく、親父は足を止める。


(おっ!今のうちに......)


 すると、親父は不気味に笑い出した。それはまるで魔王のようだ。


「全部捨てたからそんなもん知りませーん!」


 やはり和尚とは思えない顔面だ。しかし、魔王というのも訂正しよう。チンピラだ。


 俺は渡り廊下をギシギシと音を鳴らせて走り続ける。学校の中でも足は速いはずなのだが親父はそれに追いついてくる。何という化け物っぷり。アレはチンピラよりもどこまでも追いかけてくる魔物だろうか。


 家を出て、境内の階段を下り、歩道を走った。少し霧がかかっていて前が見えにくい。


「ここまで来れば大丈夫だろ」


 俺は手を膝に置き、肩で息をする。気づけば実家は見えなくなっていた。


「こんな神社あったっけ。こっちの方はあんまり来ないから気づかなかっただけかな」


 目の前には赤く小さな鳥居の神社があった。階段を登ると古びた蔵と埃を被った賽銭箱。壊れかけたお稲荷様の目がこちらを見ているようだ。そんな不気味な雰囲気を醸していた。


「怖っ。なんか幽霊とか出そうだな」


 賽銭箱の中を見てみる。お金は入っていたが、日本の硬貨ではなさそうだ。そして、賽銭箱の裏のナニカが視界に入った。


「幽霊か!?ん?狐?」


 狐が寝そべっている。泥だらけで複数の傷がついていた。


(傷だらけだ。助けられるかな。見て見ぬ振りは出来ない......よな)


「大丈夫か。病院に連れてってやるからな。とりあえず水で泥を流そう」


 お清めの水を取って、狐の体に付着した泥を流す。すると、金色に輝いた毛並みが姿を現した。


「よし。病院に向かおう」


 すると、階段にヌッと人型の影が現れる。人だ。この人に手伝ってもらおう。


「すいませーん」


「あっ?なんだお前?もしかして人間か?」


 体は真っ赤で、はち切れんばかりの筋肉を持った男が前に立ち塞がる。まるでそれは壁そのものだ。


(もしかしてヤバイ人なのかな。この人)


「なんだ?お前。その目は。殺されたいのか!?」


「えっ?いやいや。ちがいますよ。」


 軽く笑って見せる。しかし、それがその男を更に怒らせてしまったらしい。


「お前は殺してやるよ」


 まさかの急展開。謎の赤染めマッチョチンピラに殺されるなんて。俺の人生の終わり方酷いなぁ。せめて異世界にでも転生したいな。


 突然、腕の中の狐が眩しく光りだす。眩しすぎて目が開けられない。


「恩は返すぞ」


 目を開けるとそこには白く艶やかな肌を晒した女の子が立っていた。美しく輝く長い金髪。折れてしまいそうな細腕。そして特徴的な頭についた耳。後ろ姿で顔は見えなかったが容易に想像できた。


「なんだ?お前」


「無礼な奴は嫌いだ」


 女の子はそう言って目にも止まらないスピードで飛び蹴りを男の顔面にくらわせた。


「はぁぁぁ!」


 空中で一度回転すると、男を蹴り飛ばした。男は階段から転げ落ちてしまった。


 何が何なのか全くわからない。情報量の暴力だ。裸のケモ耳の女の子が突然現れて、華麗な動きで赤染めのチンピラを倒した......。何という非現実。


「恩は返した。足りないというなら何かするが?体以外で」


 女の子の容姿は予想以上。こんな可愛い子を人生で見たことはなかった。童顔だが、少し大人びていた雰囲気もある。長い金髪がとても似合っていた。


「体って......。色々知っているんだね」


「やはり体を要求するのか。私がどれほど可愛いからって。ケダモノ。変態。春画大好き野郎」


「言ってない!春画大好き野郎ってなんだよ。いや好きだけど。でも仕方ないじゃん!って何てこと言わせてんだ!」


 完全に彼女のペースだ。というかロリコンではないけどこの状況は色々とアウトだな。


「あの......服を着てください......」


 彼女は今気づいたらしい。少し赤面させながら胸を腕で隠す。


「春画野郎......。変態」


 彼女は蔵の中に入って、巫女服のようなものを着て出てきた。


「そういえば名前を聞いていなかったな。私はウカ。先程お前が助けようとした狐だ」


 狐!?いや、薄々気づいてはいたがこんなことあるのか?漫画やラノベじゃあるまいし。


「俺の名前は宮野健太郎。16歳だ。よろしく!」


「やはりお主、人間か。珍しいものを見た」


 確かさっきの赤染めチンピラもそんな感じのことを言っていたな。もしかして、この子とさっきの人はグルで中二病なのか?いや、そのために階段から転げ落ちるのはおかしいか。


「人間ってそんなに珍しいの?」


「あぁ。珍しい。ここらではあまり見ない。ここに来る人間など命知らずか馬鹿しかいないしな。お主はなんで来たんだ?」


「坊主にされるのが嫌だったから脱走してきたんだけど。あっちの方にある寺から」


 そう言って俺は東の方を指差す。しかし、ウカと名乗った女の子は不思議な顔をしていた。


「あっちには城しかないぞ。領主の住む城だ」


 はっ?城?話が噛み合わない。


「今の総理は?」


「そうり?なんだそれ」


「国民的アニメと言えば?思ったのでいい」


「あにめ?何の話だ?」


 嘘だ。全く伝わらない。そこからも質問を続けたが全く伝わらない。江戸時代や戦国時代に関する質問をしても。武将の名前だけは何故か伝わった。この子が子供だから伝わらないだけなのか?


「健太郎、それらは全て人間の話か?」


「あぁ。そうだ。人間に関する......」


 人間は珍しいと言っていた。それが真実ならばこの世界は何が普通なんだ?


「何とも超常的だ。私は理解したぞ。お主、他の世界の住人だな?」


「他の世界?」


「そうだ。私たちが住むこの世界とは他の世界だ。お主の世界では人間が珍しくないようだしな」


「じゃあ、この世界は何が普通なんだよ」


 ウカは賽銭箱に腰をかけて足を組んだ。


「妖怪だよ」


 俺はいつの間にか妖怪が生きる国に迷い込んでしまったらしい



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