魔導砲 マギー=ルカ
……自分で車椅子を押して、自分で机の前に止める。
うん。これがこんなに特別な事だったなんて思わなかったなあ。
今日の朝ご飯は黒いパンとキノコのスープだ。
昨日も、一昨日も、その前も、その前の前も黒いパンとキノコのスープだった。
朝は柔らかい白いパンに牛乳って言う王道があるのに。
『……固い』
黒いパンも、スープのキノコも固い。
婦長さん曰く、栄養価と内在魔素値が高いから食べた方が良いらしいけど……
固いからね。柔らかく焼いたらどうなんだろう。
固すぎて、ヴィルに切って貰わないと食べられない。
これじゃあ赤ん坊だよ……
「そう思われても仕方ないかと思います。ですが、スチを10個食べれば、潜在値が1上がるのです。固いですし、材料費が嵩みますし、作るのも難しいですし……味は悪く無いのですが。皆さまの為にも、食べて下さいね。残されては、こちらが処理に困りますから」
このパン、名前をスチって言うらしい。
いや、名前は良いんだけど。
一つ食べると潜在値が十分の1上がるって言うのも別に良いんだけど。
うん。わざわざ高くて作りにくい物を出してくれてるのも良いんだけど。
でも……
『……でも、噛めない固さって固すぎじゃない?』
「それを言われては、まあ。否めません。ですが……スチはこうやってパンに浸して食べるのですよ」
『スープに?』
……確かに、なんだかキノコがパスタみたいになって美味しい。
しょっぱい感じの、野菜ゴロゴロのキノコスープ。
ミネストローネって言うらしい。
「ええ。美味しいですよ」
……確かに美味しい。
パサパサが無くなったから、大分嬉しい。
『ありがとう、婦長さん』
「いえ。ああ、スチの話をする為に来た訳では無いのです。イーヴィルさんに言われて来たのでした」
ヴィルに……?
あ、そうか。
新しくコピーしたスキルを試さないと。
『僕のスキルの中に『能力転写』って言うのがあったの。それで、ヴィルのスキルをコピーしたんだけど……成功したか分からないから、婦長さんのスキルを見せてくれないかなって』
「……私のスキルを、ですか。イーヴィルさんのスキルをコピーしたと言う事は、『能力鑑定』を使う訳ですね?」
うお、バレた。
でも、ついでに婦長さんのスキルをコピーしたいから……半分しか合ってないね!
……言い訳がましいか。
『そんなところ! やっても良い?』
「勿論良いですよ。スキルの活用は義務ですから」
義務……?
いや、それより。
『能力鑑定』さん、婦長さんの能力を教えて!
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『収束光線』
法則収束___物理法則、物理魔法法則を収束し、攻撃へと転用する。
熟練度によっては精霊魔法法則なども収束可能。
武具付与___物理法則、物理魔法法則を収束し、剣などの武具に付与する。
熟練度によっては精霊魔法法則なども付与可能。
魔道具化___起こしたい事象を想像、それを直接 魔法陣へと収束する。
収束したものを刻んだ物質を魔道具に変質させる。
空間収束___指定された空間内にある物質及び魔法を収束し吸収する。
生物を収束する場合には、睡眠、石化、卵などの状態である事が必要。
次元結界___周囲の空間を収束し、強固な結界を生成する。
破るには光、闇以上の神話魔法Lv.10が必要。
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……倒せるの?
ルーク船長が倒せない倒せない言ってた理由が分かった。
魔法を収束して吸収しちゃうからだね。
流石に同族相手に神話魔法を唱える訳にも行かないし。
『ありがとう、婦長さん!』
「っ、い、良いのですよ。それで……『能力転写』でしたか?」
『コピーしても良い?』
ヒトによっては切り札を渡す事になるからね。
“絶対に駄目!”って言うのが人間だから。
うん。ヒトはどうか分からないけど、居ない訳じゃ無いとも思うんだよね。
「良いですよ。ええ。むしろして下さい」
『やっぱり駄目だよね……って、え? 本当に良いの!?』
いや、なんか……うん。
秘密が鎧を着て歩いてるような雰囲気のヒトだから。
秘密主義と言うか、簡単に手の内を曝け出す事はしなさそうだったんだよね。
何を考えてるのかも分かんないし。
まあ……良いヒトなんだけどね?
『ありがとう!』
「いえいえ。こちらがお礼を言いたいくらいです」
『……え?』
いや、何で?
自分のスキルをコピーされて嬉しがるヒトってそんなに居ないよね?
いや、居るけど。自分を知ってくれ、とか。みんな便利になってくれ、とか。
そう言う……何、ボランティア精神みたいなのを持ってるヒトが思う事だよね。
あ、違うよ?
何も、婦長さんを貶してる訳じゃ無いからね?
ただ、婦長さんを動かすには利益が必要だろうなあ、って思って……
「あ、ああ……そう。『能力転写』と言うスキルは珍しいですから、体感出来る事は私にとって良い機会です。よってお礼をしなければ、と」
『ああ、そう言う事か! じゃあ、やるよ?』
なら、しょうがないね。
スキルコレクションとかしてる人間がいてもおかしく無いもん。
ヒトの趣味に突っ込んじゃいけない。
ヴィルが言ってたからね!
『盟友契約』さん、僕に『収束光線』を下さい!
「っ!? こ、これが……ええ、ええ! 流石はアルルさんですね!」
『うーん……獲得出来た感じが相変わらずしないんだよね。まあ、慣れるしか無いか』
オーバーリアクションしてくれるレベルで向こうは分かってくれるのに、僕は何も分かんない。
うーん……戦闘中とかにコピー出来るぐらい、相手に気づかれないようにしたいな。
『ありがとう、婦長さん!』
「ええ。他に出来る事があるなら何でも申し付けて下さい。それと、私の名前はマギー=ルカです。マギーと呼んでください」
あ、そうだよね。
婦長さんにも名前はあるもん。
僕も人形って呼ばれ続けたらキレるから。
そりゃそうか。うん。自然の摂理って奴だね。
『……うん! ありがとう、まぎーさん!』
今までのごめんねを込めて、出来るだけ笑顔で。
うん。これなら許して……
マギーさんが倒れた。
え、ちょっと待って。
『なんで!?』
ーーー
丁度周りに居た失物達は思った。
「「「「「キュン死した!!」」」」」
と。
マギーさん(婦長さん)は、アルルファンクラブ第1号になる予定です。
ええ。黒m((殴
何でもないです。