怪しい儀式
今日はなんか、船長から話があるとか言われた。
何それ。僕怒られるの? 昨日怒られたばっかりだよね!?
「おう。今日の担当は俺だぜ、人形」
『あ、ム……ヴィル!』
「おい。今なんて言おうとした。ぜってー悪口だろ」
『わ、悪口じゃないよ。褒め言葉だよ!』
ムキムキは褒め言葉だ!
マッチョって言われて嬉しくないヒト居る?
……居るね。少なくとも僕は嫌だな。
「へえ……ま、良いけどよ」
イケメン! 太っ腹!
太っ腹は悪口か。まあ、別に良いかもしれないけど。
気にしなさそうだなあ。
『ねえ、ヴィル』
「ん? なんだ。昨日のデザート食べたいとかなら聞かないぞ?」
『えっ、ダメなの……って、違う! 今日は何で呼ばれたのかなって話』
「っと、ああそうか。3日目の洗礼だな。知らないのも当然か……頑張れよ。うん」
『!? なにそれ、滅茶苦茶怖い! 頑張れよって何!?』
怖い。洗礼って言ったらあれでしょ?
強い奴が弱い奴をタコ殴りにして、『洗礼だ』って言うやつ。
怖いなあ。絶対負けるじゃん。
「……そんな身構えなくても、なるようになるだけだぜ。俺は受けなかったけど」
『え。ずるくないのそれ!』
「いやあ、あれはやった方が良いと思うぞ。楽しそうだし」
『楽しそう……?』
うん。
金髪なムキムキには負けるな。
もしかして、いやもしかしなくても戦闘狂なんじゃ……?
魔剣とか言うヒトが戦いを嫌う筈も無いし……やっぱり?
ーーー
「これより、受領の儀を執り行う。当該者、前へ」
え、何。
怖っ。いきなり儀式始まったよ!?
もしかして、洗礼ってこういう事だったの……?
「当該者、前へ」
あ、当該者って僕なんだ。
いやあ……ね。
フードが深すぎてどこ見てるか分からなかった。
『……』
なんて言えば良いかわかんなかった。
いや、逆にね?
こんな儀式に参加慣れしているヒトとはお近づきになりたくないでしょ。
うん。
僕もそう思う。
「当該者、種族は失物族。分類は人形種。間違い無いな?」
『は、はい』
「では……人形種よ、其方の神は」
『聖神様です……え?』
え、あれ。
僕、どっちもよく分からないのに。
いつのまにかと言うか、何も考える間もなく、って感じだったな。
まさか、本能だったりして……まさか、ね。
「では、聖樹様。どうか其の物に能力及び技能を。当該者、宝玉に手を添えよ」
『は、はあ……』
えっと、宝玉って言うくらいだから、この赤く輝いてる丸いのだよね……?
二つあるけど、こっちの方が大きいし。
「……」
あ、違うっぽい。
じゃあ、こっちの青い方か。
最初から一個にしてよ。紛らわしいなあ。
そーっと触れる。
ーーーこれこそ、歴史の転換点であった。
ビカアアアアアアアアアアア
「……なっ!?」
『光った!』
光った。いや、剣と魔法のファンタジー世界なんだから当たり前だけどさ。
なんか、緑銀色に光ってるよ。
でも、何でびっくりしたの?
あの儀式のヒトは、毎回やってるから見てる筈だよね?
まさか、初心者な儀式のヒト!?
「……ゴホンッ。すまない。まず、この白銀の魔法板と言う板に個体番号伝承体を含む液体を垂らせ」
『個体番号伝承体を含む液体って?』
「……唾液、涙、血液などの体液だ」
てことは、泣くか涎を垂らすか怪我するかの三択って事か……
泣くのも涎を垂らすのも嫌だからなあ。
てことは確実に血だね。
手首!? いや、それじゃあリスカと変わらないよ! 僕は病んでない!
まあ、うん。指に針を刺せば大丈夫だよね。
『……針とかってありますか?』
「え? ……ああ、あるが。使おうと言うのか?」
『借りて良いですか?』
「……貸与を許そう」
みんなの、儀式のヒト(職員)を見る目が段々と不憫なものになって来た。
まあ、良いか。
…そう言えば、僕の血って何色だろう。
人間と同じ赤かな? それとも、緑とか、青とか……まあ、良いか。何だって。
タコと同じじゃないなら何でも良いよね。
僕の血がその、白銀の魔法板とか言う魔法具に垂れた。
(ちなみに、血は普通に赤色だった)
すると、その白銀の魔法板が薄い緑色に光った。
光が収まり、まっさらだった板を見ると……
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個体名 :アルル=******
個体番号:0000-0000-000A-*
種族 :失物族[人形種]
称号 :*****、**、******、光極者、聖極者
加護 :聖樹の加護、**の加護,
潜在値 :1
使用魔法:水Lv.1〜5、木Lv.1〜9
極限魔法:光、聖
固有能力:『魔法適正』詠唱破棄・魔法耐性・詠唱補正・修得補正・物理耐性(詠唱時)
『****』樹木操作・****・****・****・****
特殊能力:『盟友契約』血絆契約・個体契約・能力下腸・魔法共有・能力転写
『神聖守護』自動回復・欠損回復・万能結界・能力付与・****
固有技能:『棒術』Lv.1『投擲術』Lv.1
特殊技能:『作農』Lv.1
各種耐性:攻撃魔法耐性、支援魔法耐性、呪術魔法耐性、植物毒無効
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『……何ですか、これ』
「……こ、こんなの、あり得ない……!」
『おーい! これ、何ですかーーー?』
「……あ、ああ。すまない。…それの説明は……そこのルークに任せる。わ、私はもう、疲れた」
儀式のヒト!?
まあ、あんな良く分からない事やってたら疲れるよね。
でも、やっぱり初心者な儀式のヒトなのかも知れない。
初心者だから疲れるんだよね?
ねえ。僕がイレギュラーだから疲れてるとかそう言うのじゃ無いよね!?
『……ね、ねえ、ルーク……これ』
「船長って呼べっつったろ、ドー、ル……って、な、何だ、これ……」
顔面蒼白。
いや、そうとしか表現し得ない表情の船長。
顔中から血の気が引いて、何かおかしい事が起きているのは瞭然だった。
『どうかしたの……?』
「どうしたもこうしたもねえよ! こ、こりゃ、俺様はヤバいもん見ちゃったみたいだ……」
『え、どこが』
自分のしか知らないから、何がおかしいのか分からない。
どれがおかしいんだろう。
まさか……レベル1がいけないんじゃ?
「……俺の、見るか?」
『うん! でも……いいの?』
「まあ、それが一番手っ取り早いしな」
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個体名 :ルーク
個体番号:2G63-W82Z-L7K3
種族 :失物族 [机上種]
称号 :万能者、魔極者
加護 :聖樹の加護、レイス・フォン=ミルディスの加護
潜在値 :37
使用魔法:なし
極限魔法:火、炎、水、氷、風、嵐、土、地、木、生、光、聖、闇、邪
固有能力:『魔法適正』詠唱破棄・魔法耐性・詠唱補正・修得補正・物理耐性(詠唱時)
特殊能力:『絶対零度』怒気変換・魔力変換・冷温操作・感情操作・成長促進
固有技能:『棒術』Lv.MAX『投擲術』Lv.MAX
特殊技能:『海歩』Lv.MAX
各種耐性:攻撃魔法無効、支援魔法耐性、呪術魔法無効、毒耐性、水系攻撃無効、精神攻撃無効
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『……何となくは分かったよ』
「何となくじゃ駄目だ。まず、一番に言いたいのが……何で文字化けしてんの?」
それは、僕も知りたい。
大体、文字化けじゃなくって……知らない文字で書かれてるだけだと思いたい。
例えば、古代文字とか。
いや、あり得ないか……
まあ、あり得たとしても読めないけどね。
『…僕も知りたいよ、それは』
「……そっか。じゃあ、次。普通な? 能力は固有能力と特殊能力それぞれ一つづつしか獲得できないってのが常識なんだよ。それなのに……なんでだ? どうして能力を4個も持ってんだよ!?」
『知らないよおお!』
この、なんだか抉るような目付き。
怖い。すごく怖い。
いや、怖いとか言うレベルじゃないね。
本能が逃げろって言うレベルの恐怖だね。
肩掴まれてるから逃げようにも逃げられな……ちょっとまって。ミシミシ言ってるよ!?
「……はあ、分かった。これで最後だからよく聞けよ?」
『え、う、うん』
「個体番号がAってどう言う事だよ。というか、一番気になってた。お前……古代の人形だったりすんのか?」
『……何も覚えてないから、言えない』
いや、これは事実だ。
個体番号は、魂の番号とか言われてるらしい。
過去の勇者と同じ番号だったってだけで祀り上げられたり、伝承レベルの番号ーーー例えば、僕の0000-0000-000Aとかは、保護されるのが普通らしい。
でも、僕は失物族だからね。人間には分からないよ。見つからないだろうし。
「……分かった。お前がちゃんと『魔法適正』を貰ってんのも見えたし、不自然にレベルが上がってるって事も無いな。じゃあ、使い方はイーヴィルに聞いとけよ。俺様の担当は魔法だけなんだから」
『あ、アイアイサー、船長!』
「よし、返事が良い! 別れ!」
『別れます!』
……今更だけど、応答が軍隊じみてるって思うのは僕だけかな?
ーーー
彼ーーー人形は、他の印象が強すぎて大事な事実を見逃していた。
人形の名が、アルルと言う名だったという事にーーーーーー
遂に。
5話にて本名が明かされる
アルル=******君であった。
だれか、応援してくれ。