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僕達、出来損ないです。  作者: 椿の葉
3/8

ボトルシップ・ルーク

『僕は粉々の木彫り人形(ドール)です。不束者ですが、宜しくお願いします』



昨日現れた木彫り人形。

あいつは粉々だった。

見るも無残な粉々っぷりだ。


自分も一部は粉々だったから、あいつとは気が合いそうだ。


「俺様はボトルシップのルーク。船長って呼べよ、新入り!」

『え、ええと……アイアイサー、ルーク船長!』

「ルークは要らない! 船長だけで良い!」

『アイアイサー、船長!』


…良い子。


「うんうん。従順じゃんか。これなら文句なしで俺様の子分だな」

『子分?』

「は?俺の所の新入りは船長の新入り。イコールして子分だろ?」

『あ、そっか。ありがとう、船長』


こいつは、自分では動けないらしい。

だから自分の班に送られたのだろう。

と言うか、それ以外に無い。

S班、通称 問題児矯正班。

送られて来るのは、魔法を使わないと日常生活を送れない者や下手に力を与えると高圧的になる者等等だ。


「俺様の所ではまず、魔法を教える。その魔法具マジックエンチャントじゃ声に出した扱いにならないから、本気で練習しないとヤバいからな?」

『? なんでやばいの?』


こいつは、馬鹿だ。

多分脳みそまで粉々なんだろう。

……全身麻痺の記憶損失、か。

昔の自分が生易しく見える。


「はあ……自分で動けねえだろ。それを魔法で動かすんだよ。分かったか? 子分」

『あ、アイアイサー!』

「船長が無い!」

『アイアイサー、船長!』


……良い子すぎねえか?

まあ、別に良いけど。

こっちには利点が大きいからな。


「じゃあ、行くぞ? まずは適正調査だ。分かるか?」

『……? 分かんない。どうやるの?』

「はあ、こんな事も分かん無いのか? これ、持ってみろ」


ポケットからおもむろに取り出した、魔実マジックジェムを持たせる。

これは確か、種の部分が魔力増幅を担っていてなんとかだったはずだ。

良く覚えてないが……まあ、そんな所だ。

これで適正を調べる。


『ねえ、これ食べても良い?』

「……駄目だ。と言うか普通は食えないぞ、それ」

『え、食べれないの? 美味しそうだよ?』

「食うなよ? それ、滅茶苦茶高いんだからな?」


食べるな。

一つ銀貨百枚くらいの価値がある。(10万円相当)

それを食べようとか……うん。やっぱりこいつ馬鹿だわ。

選ばれし者でも無いのに食べられるとか、あり得ないのにな。

……もしかして、本当に選ばれし者なのかも……

いや、違うな。気のせいだ。こんなにポンポン選ばれし者が現れてたら堪んない。


『……で、これでどうやって調べるの?』

「ええと……お前は人形ドール種だろ?」

『うん』

「なら……」


住んでいる環境に左右されることが多い、魔法。

木彫り人形なら火に弱いだろうから、ファイアは却下。

ウィンドは、力加減間違えると腕がポッキリ折れるから駄目だな。ただでさえ粉々だし。

ダートは……うん。俺が無理だから却下。出来るけど、教えにくい。

なら、消去法で……


ウッドアクアからだな。よし、どれが良い?」

ウッド!』

「い、一択だな、おい……」


出来れば、水を選んで欲しかった。

自分が教えやすいって言うのもあるけど。

まあ、ボトルシップなんだから。体内に船があるんだからアクアが得意なのは当然だよな。

……じゃあ、木そのもののこいつがウッドを選ぶのも当然か。


「じゃ、この木目が入ってる茶色の魔実マジックジェムを持って」

『はあーい』

「持ったか? じゃあ、それ持って『草葉よ(ブルーム)』って言え」

『うん!』



草葉よ(ブルーム)!』



部屋の中で、草葉の洪水が実行された。

いや、そうとしか言いようが無い。

普通なら二、三枚の葉が現れて終わりなのに。

うん。こういう魔法だった事にしよう。


「あ、ああ。良いぞ。止めてくれ……」

『僕、止め方知らない!』

「うわ、そうだった……『解呪ディスペル!』」


ピタリと止んだ。

この、魔法の威力が桁違いに変わる事象を自分は少なからず知っている。

樹木系統の個体能力ユニークスキルを持っている場合だ。

だが、まだ受領の儀式も終わってないし……

先天性か?


『あ、ねえねえ。これ、適正あった?』

「大有りだ! これで無いって言えるほど俺は落ちぶれて無いからな」

『……? 本物が分かんないからどうとも言えないけど……あ、そうだ! 船長のも見せて! 凄い技!』

「凄い技? ウッドのか?」

『うん! 見本にしたいの』


……まあ、良いか。

ここの部屋ならば耐えられるだろ。

婦長が結界張ってんだから。

その婦長には、いくら頑張っても塵一つ付けられないし……

婦長の全力ってどれくらいなんだろ。

魔法付与師エンチャンターが儲かる理由が本当に良く分かる。

実際それでこの施設を維持してるらしいしな。


「じゃあ、行くぞ? 『草木よ(ブルーム)敵たる其の栄養を(パラサイト)奪い尽くせ(アイヴィ)』」

『っ、わあ!!』


申し訳程度に作られていた的を、魔法によって顕現させた蔦が侵食していく。

これぞ、食蟲蔦パラサイトアイヴィ

うんうん。自分でも納得できる出来栄えだな。

出来ればアクアを披露したかったけど、まあ。これでも派手だし。大丈夫だろ。


「見えたか?」

『うん! 凄い!』


こうやって褒め倒されると、こっちもどう反応すればいいのか困るな。

まあ、なんでも無い事のようにしとけばいいか。

すまし顔でもして。


「お前の方が適正は高いんだから、出来るようになるだろ。じゃあ、本題に移る。空気中の水を移動させて、お前自身を動かすんだ」

『……? どうやって僕の体を動かすの? 水じゃあ溺れちゃうよ』

「空気中のって言っただろ。空気中の水を動かして、自分の足やら腕やら動かすんだ」

『へえ! すごいね、船長って』


手放しに褒めてくる。

開心の魔法を使わなくても分かる本音だな、これは。


「どうしてこんなに分かるか、知りたいか?」

『うん! 知りたい!』

「……俺様も粉々だったからだ。昔は。今はもう、治りかけだけど……」

『えっ!? じゃあ、僕も治るのかな……?』


不安、か。

そりゃあそうだろうな、自分が自分じゃ無いみたいに重いんだから。

あの時は、本当に。

でも、自分が治ったんだから、無駄に怖がらせる事も無い。


「治る。俺様が言うから間違いないぞ」

『本当! 船長は良い人だね!』

「俺様は人じゃない!」

『ひっ……』


脅かしてしまった。

でも、自分を人間呼ばわりは決して許容出来るものでは無い。

たとえそれが悪意の無い物でもだ。


「ひとつ良いこと教えてやるよ。ここの全員は人間を嫌ってる」

『じ、じゃあヴィルも』

「魔剣イーヴィルはその性質ゆえにだ。魔剣は、勇者を切り刻むためにあるからな」

『……じゃあ、船長はなんで』

「俺様か? 俺様は……」


言って良いものだろうか。

こいつも粉々なのに。


『…どうしたの? 聞きたいのに』

「……またいつか、お前が記憶を取り戻してからだ」

『うーん、分かった。船長! 僕、早く水魔法アクアを覚えて動けるようになりたい!』

「はっ、まあ……その方が効率が良いのは認めるぜ。じゃあ、無詠唱の方法を教えるぞ」

『ま、待って、早い!』

このルーク君、見た目8歳くらいです。

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