伝説の魔剣
おはようございます。
で、どこ。
ここは!どこだ!
朝起きたら、廊下!
なんで!? 半分ぐらい誘拐だよね、これ。
「……お前、目しか動かないのな」
いや、そういう事じゃなくて。
僕の質問に答えて!?
まあ、答えられないのは知ってるけど。
通じないからね!
「…食堂着いたけど、お前、食えんのか?飯」
あ、食堂に行くの?
ごっはんー、ごっはんー、おいしいごっはんー!
いや……多分、無理だよね。
僕、何すれば良いか分かんないし。
食器類なんてそれこそ使えないもん。
「無理だろうなあ、粉々の人形が飯食えるかって話だし」
自問自答しないで!?
ねえ……
僕、虚しい。
無視されてるような気分になるからやめてよ。
「あ、そうだ。婦長さんから良いもん預かってんだったわ」
え、何何。
めっちゃ気になる。
プレゼント?
体が動かせるロボットー、みたいな。
「帽子……なのか?よく分からねえけど。取り敢えず付けてみるか……」
というか、喋らなくて動かないって。
よくよく考えたらただの人形と変わんないな、僕。
人形って呼ばれてるし、そういう事でしょ。
それなら納得できるよね。
うん。納得したくは無いけど。
「…よし、付いた。どうだ?なんか変わったか?」
『えっと、何も起き……え。僕、喋れてる!?』
「うお。婦長 マジか……こんな魔法具作れるとか、そっちの道行った方がいいんじゃねえか?」
結論。
話せるようになった!!
どんどんぱふぱふー
いや、めっちゃ嬉しい。
じゃあまず、ずっと聞きたかった事を一つ言おう。
『誰?』
「あ、そうか。自己紹介してなかったな。俺は鞘を失くした魔剣、イーヴィルだ。ヴィルって呼ばれてる。よろしく」
『うん、よろしく』
いや待て。
おかしいって絶対。
なんだよ。自己紹介でこれってさ。
いや、ここじゃあ普通なのかな?
僕が異端なのかな?
『……魔剣?』
「うわ、婦長全く説明してないな。…ちっ、しょうがねえな。
ここじゃあ身体の一部の“何か”を失って失物族になった奴が沢山居んだよ。
俺だったら鞘だし、婦長は知らんが、何かを失ってるはずだ。勿論、お前もな」
『え。僕人間じゃないの!?』
…まあ、さっきまで木彫り人形だとか粉々だとか呼ばれてたから薄々は気付いてたよ。
うん。
でも、信じたくは無いじゃん。
「は?い、いやいやいや。お前まさか……名前は? お前、人形だろ? ベルスとか、ローゼとか……」
『…覚えてない』
本当に残念だけどね。
本当に。
名前が知りたいのは山々だけどね。
あー、どっかに僕の名前落ちて無いかなー?
「……マジか。可笑しすぎるだろ。全身麻痺で、記憶損失?」
『記憶喪失じゃなくて?』
「ここじゃあヒト相手には損失を使うんだよ……あーあ。めんどくさい」
面倒くさいって……せめて僕が居ない所で言ってよ。
『じゃあさ、ヴィルが僕に名前付けてよ! 呼びにくいでしょ? お前、とか』
「……名前の無い奴なんてここじゃあ百は居る」
100人!?
そんなに名無しが居るのか……
『!? じゃ、じゃあヴィルはなんで』
「俺は……元が魔剣だからな。伝説の」
『伝説の!?』
「……ああ。ひとつだけ願いが叶えられるって有名なあれだ」
おまわりさーん、ここに伝説の魔剣イーヴィルがありますよー。
やばい。
絶対 剣に戻した方が良い。
それと、願いは僕が使う。
うんうん。僕は有名って言われてもわかんないけどね。
『じゃあ……僕はご飯が食べたい』
「そんなのに願いを使うな!! 願われなくても食わせてやるから!!」
『……ほんと?』
「あ、ああ。本当だ……いや、そんな事願われたの、俺…初めてだぞ……」
こんな僕達の、波乱の日常を。