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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カイソウ

作者: おおみや

ブータンという小さな国では昔から生まれ変わりを信じているらしく、たとえ蚊でさえも殺さないらしい。黙って血を吸われるんだ。もしそれが死んだおじいちゃんだったら洒落にならないからね。

僕は生まれ変わるなら蚊ではなく、海のとっても深くに生えてる海藻にでもなりたいよ。

何十年も何百年もゆらゆらと揺れて過ごしたい。とにかくのんびりしたいね。暴力も恐喝も正義も悪も関係ない。そんな世界で暮らしたいな。僕はその小さな希望と夢にかけようと思う。


細く力のない字で書かれた遺書は、靴の隣に置かれていたが潮風に吹かれ、宙を舞った。


太陽の光さえ届かぬ海の深く深く。水を身体で感じながらゆっくり揺れる海藻がひとつ岩の隙間から生えていた。海藻は孤独と闘っていた。音も光もなく。魚や他の海藻もない。

海に飛び込み自殺する間際に願った海藻に生まれ変わりたいという願いは叶ったものの、地獄当然のような世界であった。

永遠と揺られる。ほかにすることはない。

それがいいと思ったのは初めの頃だけだった。生まれ変わってから何年が経ったのか、知るすべもなく、永遠と時間が流れ去った。


ある時。それは夜なのか朝なのか、季節はいつなのか、永遠と流れる時間のその一瞬の思いつきに過ぎなかった。どうして今までそれを思いつかなかったのか。それが不思議でならぬほどの発想であった。

岩の隙間からひとつ生える海藻は自殺を試みる。

海藻なのだから根が地面から剥がれれば死ぬことができるのではないかと、思いついた。

海藻はもがき、根を岩の隙間から剥がそうとする。しかし海藻は自分の身体を自由自在に動かせるわけでもなく、ただ水の小さな流れに身体を任せるだけであった。

それからどれほどの時間が流れ去ったのかはわからないが、大変長い時間に感じられた。

あと少しで根が剥がれそうなところまできていた。生まれ変わるとしたらやっぱり人間がいいと強く思った。海藻はついに岩の隙間から根を引き剥がすことができた。身体は少し浮き、水の中を漂い始めた。

しかし、意識はある。しばらく漂いながら、岩の隙間から栄養分などほとんど得ていないことに気がついた。根はただ自分をその場所に止まらせているためのものであるから、剥がしたところで生死にはなんの関係もなかったのだった。絶望が襲いかかる。海藻はまた何年も悲しみながら水の中を永遠と漂い続けた。それからどれだけの時間が流れ去ったかは見当もつかないが、またあることを思いついたのだった。

魚の餌になってしまえばいいのだと気づいた。魚に食べられさえすれば自分は死ぬことができる。しかし、気づくことはできても自分では行動することはできない。潮の流れに身を任せ、ひたすら漂う。魚が見つけてくれることをひたすら祈る。

果てしない徒労に思えるが、海藻にとってはやらないことがないよりはましだった。


何年も何年もひたすら漂い続けた。死のうとすることが生きがいであった。


「君はいつまで経っても死ねないよ」

どこからか声がした。その声の主を探すも見つからない。周りには黒々とした水が広がるだけだった。

「誰なんだ?死ねないってどういうことだ」

静まり返った水中でかすかな自分の声は、どれだけの距離響いているのかは想像もつかなかった。ただ誰かに自分の声が届いているとは到底思えなかった。しかし、返事は返ってきた。

「君が海藻に生まれ変わってから、約25億年が過ぎた。太陽は寿命を迎え爆発した。地球のすべての生き物や植物は絶滅した。君だけがこの地球において最後の生き残りなのだ」

「君は一体誰なんだ?」

「僕は水だ。水流が君の心にヒントを与えているだけだ。喋っているわけじゃない」

それ以上はなにを言ってもどこからも声がしなくなってしまった。底知れぬ絶望感が身体中を襲い、先のことを考えるだけで震えが止まらないほどであった。

海藻はさらに永遠と水の中をゆらゆらと漂い続ける。ただひたすら漂っているだけである。死を探し求めて漂い続ける。


寿命や運命に背き、自殺で命をたった少年は重罪と見なされ、地獄に魂を送られた。少年は地獄の世界で生地獄を味わうのであった。それが神の下した罰であった。

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