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第6話 魔力増加ポーション

 俺はベリルフォーランを追いかけたが、見失い、学院の敷地内を探していた。


 だいぶ歩き回ったが、見つからない。

 そもそもこの学院には来たばかりなので、あんまり土地勘がない。

 ベリルフォーランの行きそうな場所とかも、当然分からないし、よく考えたら見つかるわけないか。


 明日、学院で会うだろうから、その時、謝っておくか。

 別に俺は悪くはないと思うのだが、女を泣かせたならとりあえず謝っておけと、親父が言ってた。


 男子寮に帰ろうとすると、


「……よ…………て」


 なにやら遠くから声が聞こえる。

 よく聞いてみると、その声はどこかで聞いたことあるような声だった。

 ベリルフォーランの声じゃないか?


 俺は声の聞こえるほうに近づいてみる。


 実技練習場のような場所が、学院の裏にもうひとつあった。的や鉄人形などが置いてある。

 そこで、


「《凍てつく氷塊よ、敵を撃て》!」


 的に向かって、《アイスキャノン》を発動させようとしている、ベリルフォーランの姿があった。

 何度も呪文を唱えるが、魔法は発動しない。

 それでも、何度も何度も何度も、呪文を唱え続ける。


 魔法を使うのには高い集中力を要する。

 呪文を唱えているだけのように見えて、だいぶ体力も消費するのだ。


 ベリルフォーランはどのくらいここで魔法を唱え続けていたのか、額から汗をだらだらと流している。

 もしかして、俺が探している間、ずっとこうして唱え続けていたのだろうか?


 止めさせないと、倒れてしまうかもしれないなと思い、ベリルフォーランに話しかけようとした。

 すると、


「はぁはぁ……何で発動しないのよ!」


 ベリルフォーランが大声で叫ぶ。

 その表情は何か焦るような、恐れるような、そんな表情をしていた。


「アルバレスにしか入れないと決まった時、賢者になる夢を諦めなさいと……父上に言われた……! どうしても諦めたくないと懇願してようやく許してくれた……この学院では常に1番でなくてはいけないよ……私みたいな魔力の低い者が賢者になるには、1番でいなければならないのよ……!」


 彼女は搾り出すようにそう言った後、再び練習を始めた。


 ベリルフォーランにどういう事情があるのか、詳しくは分からない。


 だが、彼女にも俺と同じく賢者になるという夢があるらしい。

 そして、その夢を叶える為に今日みたいに努力をし続けて来たのだと、彼女の魔法の実力や、今日見たこの姿から分かった。


 俺はベリルフォーランのこの姿を見て、ここ数日、彼女に抱いていた印象ががらりと変わった。


 大貴族だからプライドが高くて、俺に絡んできていたとか、もしくは、馬鹿にしていた黒髪の俺に中級魔法を先に唱えられた事がくやしかったのかとか。

 そんな勝手な事ばかりを考えていたが。


 彼女は、誰よりも努力家で、誰よりも夢にひたむきな少女だったようだ。


 俺は、そんな彼女を放ってはおけなかった。


「《来たれ、凍てつく氷塊、敵を瞬く間に粉砕せよ》って呪文で、魔法を使ってみるといいよ」


 俺はベリルフォーランにそう言った。

 彼女はいきなり出てきた俺に、ポカンとした顔をした後、


「あ、あなた、何故ここにいますの!?」

「いや、気になって探してたんだよ。それより、さっき俺が言った呪文《来たれ、凍てつく氷塊、敵を瞬く間に粉砕せよ》って言って魔法使ってみてよ」

「何言ってるんですの。以前、先生が教えてくださった呪文とは違いますわ。それでは魔法は使えませんわ」

「いいから使ってみてって」

「……あなた、どういうつもりですの?」


 ベリルフォーランは困惑しているような表情をする。


「どういうつもりも何もないよ、この呪文で使ったら、《アイスキャノン》の魔法もきちんと使えるはずさ、1回やってみてよ」


 俺がそう言うと、疑うような表情は崩さずに、


「そこまで言うのなら、1回試すぐらいはいいですが……えーと……《来たれ、凍てつく氷塊、敵を瞬く間に粉砕せよ》!」


 ベリルフォーランがそう唱えた瞬間。

 氷塊ができてそれが一直線に、的へと飛んでいった。


「で、できた?」


 唖然とした表情をする、ベリルフォーラン。


 今のは《ハイスペル》と言う技術。

 呪文に言葉を付け加える事で、魔力不足でも魔法を発動できるようにできる。

 俺の前世の時代では、時代遅れになっていた技術であったが、現代にはこの技術はなかった。


 この技術は知れ渡っても、世界を変えるほどの影響力じゃないだろうが、それなりに有用な技術として扱われていくだろう。

 なるべく知識をもらしたくないと、俺は思っていたのだが、ベリルフォーランの練習する姿を見てどうしても放っておけないと思ったので、中級魔法は使えるように、《ハイスペル》を教えたのだ。


「な、何なんですの今のは!? 何故使えたのです!?」

「ああやって唱えると、魔力量が少なくても使えるらしいんだよ。高位の魔法使いから教わったんだ」

「わ、私そんな事、1度も聞いたことありませんわよ」


 嘘だしな。知ってる奴は俺の他にいまい。


「じゃあ、俺はこれで」

「ちょっと待ちなさい。なんで私に今の呪文を教えたのです」

「何となくだよ」

「何となくって……どういう事なのですかそれは」


 ベリルフォーランは納得しなかったが、俺は本心は言わなかった。

 何となく言うのが恥ずかしいかったからな。

 君の練習している姿に惹かれたからなんて。


 立ち去るのを、彼女に「待ちなさい!」と言って止められたが、俺は構わず寮に帰った。




 今日は休日だ。

 クルツに遊びに行かないかと誘われたが、やる事があるからと言って断った。


 あるポーションを作りたかったからだ。

 《魔力増加ポーション》、その名の通り飲めば最大魔力が増加するポーションだ。


 現代には無く、俺の前世の知識から作り方を得た。


 なるべくこのポーションは作りたくなかった。

 魔力増加ポーションは、割と簡単に取れる物を材料にしている。

 青濁石せいだくせきという、少し濁り気味の青色の石を材料にしている。

 川辺に行けばすぐに見つかる石であり、地中に埋蔵されていたりもする。


 前世の時代では、このポーションが開発された瞬間、青濁石の価値が急上昇し、徹底的に採られるようになる。

 そうなると流石に足りなくなる。

 青濁石の埋蔵量が少ない国は、他国に戦争を仕掛けて、大規模な戦争が起こったという。


 そんなわけで下手に作って、誰かにバレてしまい、戦争が起きてしまうのは回避したかったのだ。


 でも、昨日のベリルフォーランを見て、どうしても作ってあげたいと思った。

 昨日は、彼女がすぐ中級魔法を成功できるようにするには、あの方法しかなかった為、ハイスペルを教えたのだが、根本的に魔力が少ないという事を解決しないと、今後、彼女は魔法使いとして不利を背負って生きて行くことになる。


 なんとかしてやれる方法があるなら、その方法を使って解決してあげたいと思ったのだ。


 まあ、魔力増加ポーションは俺も自分で飲みたいとは思っていたが。

 俺の魔力はそこそこ多い方なのだが、飛びぬけて多いわけではない。

 前世の知識から得たレベルの高い魔法の中には、今の魔力量では恐らく使えないだろうな、という魔法がかなりある。

 その為、俺としても魔力は増やしたくはあった。


 ばれないよう、細心の注意を払ってポーションは作ろう。

 ベリルフォーランにも絶対に人には言わないと念を押さないとな。

 彼女の人となりは、まだそこまで知らないが、たぶんそんな簡単に秘密を漏らすタイプでは無いように見える。あんま他人と話してるの見た事無いしな。


 最大魔力量が増えたというのは、周りに知られるだろうが、ごく稀に15歳以上からでも最大魔力量が伸びたという例はあるので、増えていても珍しがられるが、まさか増やす方法があるとは思われないだろう。


 さて、材料集めをしてくるか。


 青濁石は川辺とかの砂利に混ざってよく落ちている。

 男子寮の玄関の辺りには、少し古びて見づらくなっているが、学院付近が描かれた地図がある。

 その地図を見ると、北の方に川があったので、そこに行って青濁石を探しに行った。


 割と簡単に見つかった。

 持ってきた袋につめられるだけつめて、持って帰った。

 これと後、通常のポーション作りに必要なエーテルと水、それから魔素を含んだ木の葉を少量入れる必要がある。


 魔素を含んだ木っていうのは、普通の木の葉が緑色であるのに対し、違う色の葉をつける木の事だ。

 この辺には赤い葉をつける、《火の木》が生えてるから、それの葉を1枚取った。


 エーテルは近くの町で安く売ってあるからそれを買った。水は川の水が結構綺麗だったので、それを青濁石を採ってくるとき、ついでに汲んできた。


 さて、どこで作るか。

 寮にはポーションを調合できる場所なんてない。

 学院に行くか。調合室は学院には必ずあるはずだ。

 休日の調合室なんて、誰も使わないだろうから、人もいないはずだし絶好の場所だ。


 俺は材料を持ち、学院に向かった。




 ○




 学院に着いて歩いていたら、


「あ」

「あ、あなたは」


 ベリルフォーランにばったり会った。


「なんで学院にいるの? 休みだよ今日は」

「それはこっちのセリフですわ。その大きな荷物はなんなんですの」

「ああ、これは、ちょっとね。そうだベリルフォーランさんはこれから暇?」

「今から戻るつもりですが。何か用事なのですか?」

「それならちょうど良かった。ちょっと付いてきてよ。今からいいものを作るつもりなんだ」

「なんで、あなたに付いて行く必要があるんですの。お断りですわ」


 ベリルフォーランはそう言って、俺の横を通り過ぎて行こうとする。


「そっかー。本当にいいものなんだけどな」

「……」


 俺が行こうとすると、彼女はピタリと歩を止め、俺のちらりと見てきた。


「待ちなさい!」

「な、何?」


 大声で言ってきた為、少しびっくりした。


「作るものに興味はありませんが、あなたには昨日の件で聞きたいことはあります」

「興味あるんだ。付いてきてよ」

「聞いてました!? 興味はありませんって、こら何行こうとしてるのですか! 待ちなさい!」

「あ、そうだ忘れてた」


 俺はクルリと振り向いて、ベリルフォーランの方を向く。


「な、何ですの?」

「この学院の調合室ってどこにあるか知ってる?」

「調合室なら、実技練習場の近くにありますが、生徒が勝手に立ち入るのは禁止されてますわよ」

「実技練習場の近くね。分かった」

「ちょっと、調合室に用があるんですの? 禁止って言いましたよね。鍵がかかってて入れませんわよ。休日に使用許可が下りる事も滅多にありませんし」

「大丈夫、大丈夫」


 鍵は魔法で開ければいい。

 使用許可は、どのみち作る物を言わないともらえないだろうから、もらえないしな。

 絶対にバレないよう、痕跡を完全に消せば問題あるまい。


 俺は調合室へと向かい、ベリルフォーランも「禁止だって言ってますのに!」 と言いながらも俺の後を付いて来た。





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