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第5話 決闘

 授業が終わり、俺は男子寮に向かった。

 今日から俺は、寮で生活することになった。

 運良く1人部屋だった。

 誰か男子生徒がこの学院に、転入もしくは編入して来たら、そいつと同室になるだろうが、今は1人で使う事が出来た。


 夜になり寝て、次の日、学院に通った。


 教室に入ると、昨日よりクラスメイト達の俺を見る目が変わっていた。

 昨日、実技の授業で、中級魔法を使ったのが、大きいのだろう。

 何人かの生徒は、気さくに話しかけてきた。


 そういえば、昨日俺に絡んで来た、ギーシュ達が教室に来ていた。

 昨日の事が効いているようで、俺が教室に入ると一気に静かになっていた。


 自分の席に着く。


 すると、左隣からめちゃくちゃ見られている感じがする。

 チラッと見てみると、俺の左隣にいるベリルフォーランが、俺を睨んでいた。


 じーっと俺の顔を睨んでいる。


 美少女に見られるのは、本来、悪い気はしないはずだが、これは見られるってより、睨まれるだし、ここまで負の感情を込められると、さすがに嫌だ。


「あの、何?」


 何で睨んでるのか、尋ねてみた。


「な、何でもございませんわ」


 ベリルフォーランはそう言うと、顔を赤らめて慌てて正面を向いた。


 何なんだ……


 よく分からないが、昨日俺が中級魔法を使ったのが、気に食わないらしい。

 1番じゃないと、気がすまないタイプなのかな。


 それだけで恨まれるのは少し迷惑ではあるな。


 直接何かされるわけでないのなら、別にいいけどね。






 その後、退屈な座学が終わり、昼飯を食べた後、実技の授業が始まった。

 昨日と同じく今日も、1学年の1組と2組が、合同で授業を受ける。

 今日の教師は、昨日の男の教師ではなく、俺のクラスの担任の教師ミローネだった。


「今日は支援魔法の実技の練習を行いますよ~。支援魔法は軽視されがちですが、きっちり使いこなせば、ありとあらゆる場面で役に立てるようになる、とってもいい魔法なんです~。手を抜かずにきちんとやりましょうね~」


 昨日は攻撃魔法の練習だが、今日は支援魔法の練習だ。


 ミローネは支援魔法の教師らしい。


 現代では研究が進んでおらず、微妙に軽視されがちな支援魔法だが、俺の前世の時代では、支援魔法はトップクラスで重要な魔法とされていた。


 現代にはない4大支援魔法、これが非常に強力で、これをうまく使えるか使えないかが、勝負の明暗を分けたらしい。


 ちなみに俺がギーシュを倒すときに使った、身体能力を強化する《フィジカルアップ》の魔法も、支援魔法の1つである。


 まあ、現代にある支援魔法と言えば、魔法の威力を上げる《マジカルアップ》などは有用とされているが、そこまで役に立つ魔法は多くない。

 《マジカルアップ》も使うのは結構難しいとされている。

 少なくとも学院生であるうちに、使えるようになる魔法使いは、稀だろう。


 ちなみに前世の俺は、どうも攻撃魔法よりも支援魔法の方が、得意だったみたいだ。

 当然、今の俺も攻撃魔法より、支援魔法の方が得意である。


「は~い。では、支援魔法を使う前に、まずは2人組を作ってください~。交互に支援魔法を掛け合いましょう~」


 ペアになれと、ミローネから指示が出た。


「ルド。僕と」


 クルツが俺と組もうと、近寄ってきた、ちょうどその時、


「ルド・アーネスト。私と組みなさい」

「え?」


 と、ベリルフォーランが言ってきた。


「いや、俺はクルツと」

「私の誘いを断ると言うの?」


 高圧的な態度である。

 少しイラっとした俺は、


「だから、先にクルツが言ってきたから、仕方が……」

「い、いいよ! 僕のほうが若干遅かったからね、うん!」


 俺が全部言う前に、クルツが自分から引いて、そそくさと、どっかに行った。

 ベリルフォーランにびびったみたいだ。

 クルツはいい奴だが、若干ビビりではあるよな。


「では、私と組みましょう」

「ああ……分かったよ」


 少しうんざりしながら、返事をした。


「支援魔法は私の得意分野ですの。絶対に負けませんわよ」

「これ勝負じゃ無いからね。ペアなんだから。でも珍しいね、支援魔法が得意って、どうしてなんだ?」


 支援魔法は、現代では不人気である。

 その為、支援魔法を得意としている魔法使いも、当然少ない。


「あなたには関係ありませんわ」


 わざわざ理由は教えてくれないか。

 まあ、仲良くはないしな。


 ただ、あっているかは分からないが、推測はできた。


 恐らくだが、ベリルフォーランの最大魔力が少ないのが原因だろう。

 支援魔法は、使いこなすのに技量がいるが、攻撃魔法より魔力消費量は少ない。

 なので、最大魔力が少なくても、レベルの高い支援魔法使いになる事は可能なのだ。


 まあ、全て憶測に過ぎない。

 人を支援するのが好きという単純な理由かも知れない。そんなタイプには見えないけど……


「皆2人組になれたねー。あ、ボッチー君、余っちゃたんだ。じゃあ私と組みましょう」


 余った奴がいたみたいだ。1人は出るよなこういうやつが、かわいそうに。


「今日みんなに覚えてもらう支援魔法はずばり《エンチャント》! 武器や防具に力を付与する支援魔法よー。支援魔法使いには基礎となる魔法で、同じ魔法でも使う魔法使いによって、大きく効果が変わるわー。この魔法をお互いに掛け合いましょう~」


 エンチャントか。

 どんな魔法かは、ミローネの説明で合っている。

 覚える事は簡単に出来るし、使う事も出来るが、使用者の実力が未熟なら、ほとんど強化されなくなる。

 前世の時代でも《エンチャント》は支援魔法として、頻繁に使われていた魔法だ。


 しかし、《エンチャント》と言っても、いろいろある。

 どんな力を武器や防具に付与するのかが、違うわけだ。

 例えば、斬れやすくしたり、硬くしたり、属性を付けたり、いろいろだ。


「ルナシー先生。エンチャントと言ってもいろいろありますが、今日はどのエンチャントをするんですの?」


 ベリルフォーランが、ミローネに質問した。


「今日使うのは、《ハードエンチャント》よー。かけた武器や防具を硬くするエンチャントです。倉庫に木剣があるので、それを取って来てくださいー。それと、同じく倉庫に鉄の人形があるはずです。この人形も倉庫から運んできてくださいー。1人では持てないので、複数人で運んでくださいねー。運ぶときは気をつけてください」


 言われた通り倉庫から、木剣を持ってきた。

 何故か倉庫にはこんなにいるのかと、思うほど大量の木剣が置いてあった。

 人数分あるだけじゃ、足りないのか?

 後、俺は運んでいないが、男子生徒4人がかりで、鉄人形を倉庫から運んできた。


「それじゃあ、説明するよー。2人組の1人の方が、この鉄人形を木剣で攻撃します。もう1人の方は、狙いを定めて木剣に魔法をかけます。タイミングがずれたりすると、木剣が壊れてしまいますが、ちゃんとかければ、壊れずに攻撃できます。これを交互にやります。全員一斉に出来ないので、順番にやるので、自分の番じゃないときは、魔法を発動させる練習をしていてください」

「あのー質問なんですけどー」

「はい、なんでしょう」


 女子生徒が挙手をして質問した。


「何でわざわざ攻撃している時に魔法使うんですかー? 攻撃する前に事前にかけておけばいいんじゃないですか?」

「いい質問ですねー。《エンチャント》の魔法は時間経過と共に効力が弱まります。なので実戦では、なるべく攻撃が当たる直前に、魔法をかけるのがいいんですねー」


 ミローネが答え、女子生徒は「なるほどー」と納得していた。


「しばらく、魔法を使う練習をしてから、鉄人形への攻撃を行います。では練習を開始してくださ……あ、大事な事を言い忘れてました。呪文は《それを硬くせよ》です。さあ、気を取り直して、開始してください!」


 しばらく、魔法を使う練習をした。

 使う事自体は簡単に出来るし、俺も当然使える、ベリルフォーランも当然使えるようだ。


 その後、鉄人形を攻撃する時間になる。

 順番にやっていく。

 成功する組は少なく、木剣が壊れてどんどん無駄になっていく。

 木剣が大量に倉庫にあった理由はこれか。

 木の無駄使いになるから、他の方法はないのかと思うんだが。


 俺達の番が回ってきた。

 ちょうど、他の生徒達が終わって、俺達は最後だった。


「私が最初に魔法を使いますわ。あなたは木剣を持って攻撃係ですわ」


 俺は木剣を持ち、鉄の人形を攻撃した。


「《それを硬くせよ》!」


 ベリルフォーランは呪文を詠唱し、《ハードエンチャント》の魔法を俺の持つ木剣にかけた。

 俺は鉄人形に木剣を振り下ろす。


 ガィイイインと衝撃音が鳴り響く。

 俺の木剣は壊れておらず、少し鉄人形が凹んでいた。


「おおー! すごい」

「さすが、ベリルフォーラン嬢だ」


 俺も少し驚いた。

 ここまで、支援魔法を使いこなしているとは。

 恐らく、彼女は《ハードエンチャント》の呪文を、この授業の前から、何度か自分で練習していたんだろう。


 それも生半可な練習ではなく、かなりやってきているはずだ。


「ふふふ。次は、ルド・アーネスト。あなたが魔法を使う番ですわよ」


 ベリルフォーランは得意げな表情でそういいながら、木剣を俺から受け取った。


 そして、木剣を構え、鉄人形に斬りかかる。

 俺は、いつもと同じように、無詠唱で魔法を発動させながら、カモフラージュの為の呪文を唱える。


「《それを硬くせよ》!」


 支援魔法が発動、タイミングよく木剣にかけることもできた。


 そして、ベリルフォーランが木剣を鉄人形に振り下ろす。

 すると、


 鉄人形が一刀両断された。


「え?」

「き、切れた!?」


 この様子を見た周囲の生徒達が、一瞬ポカーンとした後、ざわめき始める。


「す、すごいですよールド君! まさか、鉄人形を斬るほど硬くできるとは~。学院生のレベルを遥かに超えてますよー」


 さっきも言ったとおり、俺は支援魔法は得意だ。

 《ハードエンチャント》は使い手により、その効力が変わるため、この結果になった。


「そ、そんな」


 ベリルフォーランは唖然とした表情で、木剣をするりと手から落とした。


「今日の授業は終わりよー。いやー今年は優秀な生徒が多くていいな~」


 ミローネが授業の終わりを告げた。

 ぞろぞろと生徒達が実技場から立ち去っていく。


 俺も出ようとしたその時、


「ありえない。私が1番じゃないといけないのに」


 ベリルフォーランが何事か言っているのを、耳にした。

 少し気になったが、かまわず出ようとすると、ベリルフォーランが、俺に近づいてきて、


「ルド・アーネスト……私と決闘しなさい!」


 決闘?


 いや……何故いきなり……


 ザワザワと、いきなりの展開に周りの生徒達が騒ぎ出す。


「えーと、決闘? 何故俺と? 普通に嫌なんだが」

「いいからしなさい。逃げるんですの?」

「いや、逃げるってねぇ……」

「しのごの言わずに私と決闘しなさい。私、アリス・ル・ベリルフォーランは、ルド・アーネストに決闘を申し込みますわ」


 その言葉をベリルフォーランが言った瞬間、周囲のザワザワがよりいっそう強くなる。


「本気みたいだぞ、ベリルフォーラン嬢は」「どうなるんだ?」「受けるのか?」


 などと言った声が聞こえる。

 いや、正直俺には受ける理由はないし、女の子であるベリルフォーランと決闘なんて出来るわけないしな。


「貴族の男性は、決闘を持ちかけられて逃げるのは恥とされていますわ。受けなさい」

「いやいや俺、貴族じゃないし、平民だし」

「平民でもプライドくらいお持ちでしょう。女に戦いを持ちかけられて、逃げる気ですの?」


 挑発してるつもりかもしれんが、腹が立ってくるような、挑発ではないしなー。


「いや、君が女だから戦えないっていうか、うん。やめとこうぜ」

「嫌ですわ! やると言うまで、付き纏いますわよ!」


 えー、それは嫌なんですけど。

 いや、可愛い子に付きまとわれるのはそれはそれであり……?

 いやいや、ないない。

 こんな負の感情を込めて見つめられながら、生活していたらストレスが溜まる。


 仕方ない。受けるか。


「あー分かったよ。やるよ。やればいいんだろ?」

「受けるのですね。分かりましたわ。ただ、やる気なしで来たり、手加減して来たら、すぐ分かりますので、絶対に本気で来なさい」


 いやー、本気を出すのはちょっとな。

 でも、わざと負けるってのは、失礼な気がするから、一応ある程度、実力は出して戦うか。

 まあ、怪我はさせられんから、なんとかして、危なくない攻撃で動きを止めて勝つ、みたいな方法を取る必要はある。


「そこの眼鏡の方。決闘開始の合図をお願いしますわ」

「ぼ、僕!?」


 指名された眼鏡の方は、クルツだった。

 ベリルフォーランに指名されて冷や汗をかいている。


「えーと……? じゃあ、ちょっと離れて向かい合ってください?」


 自信なさげにクルツは言った。

 俺とベリルフォーランは距離を取って向かい合った。


「じゃあ、3、2、1、始め」


 合図があった瞬間。

 ベリルフォーランが、素早く呪文を詠唱し、俺の胴体めがけて《フレイム》の魔法を放ってきた。


 ちょ! いきなりかい!


 俺はとっさに身体能力を強化する魔法、《フィジカルアップ》を無詠唱で使用し、辛うじてフレイムを避ける。


「!」


 ベリルフォーランは避けられると、思っていなかったのか、驚いている。

 直ぐに気をとりなおし、違う魔法を唱え始めた。


 さて、ここでベリルフォーランを怪我をさせずに、勝つ方法はなんだろうか。

 少し考え思いついた。


 よし、この魔法を使うか。


 俺は放たれた魔法を避け、手の平をベリルフォーランに向け魔法を使った。


「《敵を拘束せよ》」


 カモフラージュの呪文詠唱をした瞬間、俺の手から複数の白い紐が放たれ、ベリルフォーランの手と足、そして呪文を詠唱出来ないよう口を縛った。


「んんん!?」


 縛られたベリルフォーランが、呻き声を上げる。


 今のは《バインド》の魔法。

 相手に危害を加えず拘束する魔法だ

 無属性の魔法だ。魔法には4大属性、火、氷、雷、土の他に複数の属性があり、無属性は、その他の属性の1つだった。


 俺は手から出た紐を両手で握り拘束が、解かれないようにする。

 ベリルフォーランは手足が拘束され、口が塞がった状態だ。

 これではもうどうしようもない。


「これで勝負あったろ。俺の勝ち」

「んーーーーー!!」


 ベリルフォーランは必死にもがくが、拘束は解けない。

 ……あれ? 決闘の勝ち負けってどうやって決まるの?

 参ったって言わないと終わらんなら、この状態から終わらないじゃん。


 どうしようかな、と考えている時、


「皆さんなんの騒ぎですか~? もう授業は終わりましたよ~」


 ミローネの声だ。

 騒ぎを聞いて駆けつけたようだ。

 ミローネは、俺達の決闘を周りで見ていた生徒達をどかして、近づいて来た。


 そして、《バインド》でベリルフォーランを縛っている、俺を見て、


「いじめーーー!? 私のクラスでいじめが発生!? 何してるんですか! ルド君! アリスちゃんを離しなさーい!」

「ご、誤解です! これは決闘していてですね」


 ミローネは、決闘していた所をいじめと誤解してしまったようだ。

 俺は《バインド》を解いた後、必死に誤解をといた。


「決闘ですか? いや、決闘だとしても駄目です! 仲良くしてください!」


 誤解は解けたが、怒られてしまった。

 生徒達がぞろぞろと実技練習場から、帰り始める。


 ベリルフォーランは、拘束を解かれてた後、1歩も動かず俯いていた。


「あー、今回はミローネ先生に怒られたから、勝負はつかなかったって事で。今後は怒られるから、決闘はしない。いいな?」


 と俺はベリルフォーランに声をかけた。


「っ!」


 ベリルフォーランは俺を睨みつけてきた

 その目には涙が浮かんでいた。


「ど、どうした?」


 涙を見て、俺はうろたえながら、そう尋ねた。

 俺が尋ねた瞬間、走り去って行ってしまった。


 な、泣かせてしまった。

 うーん、どうも彼女、学年で1番と言うのに固執していたみたいだから、負けて悔しかったんだろうか。


 泣かせたまま放っておくのもな。

 追いかけるか。


 俺はベリフォーランを追いかけた。

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