第3話 クラスメイト
編入が決まってから、俺は色々な手続きを済ませた。
制服は予備の物があり、サイズが合っていたので、それを使わせて貰う事にした。
「授業は明日からだ。君はこの学院の近くに、通える家があったりするのかね?」
「いえありません」
「そうか。なら学院の寮を利用するといいだろう。寮に入るのにも色々手続きが必要だから、今日は町の宿に泊まってくれ」
「分かりました」
俺はその後、町で宿を取り一泊した。
一泊した後、制服を着てアルバレス魔法学院に向かった。
魔法学院の門に着いたら、ウルベルトではなく、別の先生が出迎えてくれた。
「初めましてー。ルド・アーネスト君だね。私は、君が配属されたクラスの担任、ミローネ・ルナシー。これから一緒に勉強していきましょうねー」
ローブを来た女の教師だ。
髪の色は青。まだ結構若い。
二十代前半くらいだろうか?
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げて挨拶をした。
「いやー、君は黒髪なのにすごい記録を残したんだって?」
「えーと、それほどでも」
「黒髪にも、賢者になっている人がいるし、すごい人はすごいんだねー」
この先生は黒髪に対して、強い差別意識はないみたいだ。
ナチュラルに下に見ている感はある。まあ、この時代の魔導士はほとんどが、黒髪であることは欠点だと認識しているだろう。
学院内に入り、教室まで歩いた。
「ここが、君が所属することになる、一年二組よ。みんな良い子達だから仲良くしてね」
そう言って、ミローネは教室に入っていった。俺も後に続いた。
「みんなー、今日は新しいお友達を紹介するわー。ルド君、自己紹介してー」
「ルド・アーネストです。よろしく」
俺は簡潔に自己紹介をした。
新しいクラスメイト達からの反応は、あまり良くなかった。
興味なさげに窓の方を向いている奴や、俺をにらみつけている奴。
笑いながら「黒髪だ」とか言って、明らかに俺を侮蔑している奴。
俺のイメージする良い子達とは、だいぶ隔たりがあるようだな。
「ルド君は……あの席。クルツ君とアリスちゃんの間の席が空いてるから、そこに座ってね。あ、これじゃ分からないか。あそこの席よ」
ミローネは指をさして、俺の席の場所を教えた。
俺はその席に座った。
右隣に男子、左隣に女子が座っていた。
俺は挨拶をしようとすると、
「やあ」
右の席の男子から先に声をかけられた。
俺は少し意外に思う。
ここでも黒髪は、馬鹿にされてるっぽかったからな。
「僕はクルツ・モール。よろしくアーネスト君」
クルツは微笑みながら握手を求めてきた。
眼鏡をかけた優しそうな顔の男だ。髪の色は緑。
緑髪は詠唱魔法、杖あり魔法、無詠唱魔法、どれも苦手ではないが得意ではないという、器用貧乏的な髪の色だ。
現代でも前世の時代でも、微妙な髪色扱いをされていた。
「よろしく、モール君」
俺は握手に応じる。
3秒くらい握手をしたら、離した。
「隣だし仲良くしようよ。僕の事はクルツって呼んでいいよ。君の事もルドって呼んでいいかい?」
「いいよ」
クルツは結構友好的みたいだ。
俺が黒髪だからと見下してくる事もない。
いい奴かもしれない。
左隣に女子がいるので、俺はそっちにも挨拶する。
「よろしくな」
「……」
こっちをチラッと見てきたが、言葉は発さず挨拶は返してこなかった。
相当な美少女でまるで神が造りだした造形物のようですらある。肌がとにかく白く、目は大きく透き通っていた。
いくら美少女とはいえ、挨拶も返せないのはどうかと思うけど。
髪の色は青。
青色は現代では白色に並んで、良い色と言われている。
杖を使った魔法の威力が伸びやすいという特徴があるため、現代でも活躍しているが、前世の時代でも最高火力の魔法が使える髪色として、重要視されていた。
ミローネが、アリスちゃん、と言ってたから、この女の名はアリスなのだろう。
座学が始まるが、正直半分以上が遅れた魔法技術の説明で、間違っているところが結構ある。合っている所もすでに知っているので、退屈だったが何とか耐えた。
「あー終わったー」
「お疲れー」
授業が終わって背伸びをしていた俺に、クルツが話しかけて来た。
「ルドはミルドレス魔法学院から来たんだよね。ここの座学なんて退屈でしょ」
「そうでもないよ」
本音を言ったら感じ悪そうなので、嘘をついた。
「うそだー。だって退屈そうにしてたじゃん」
「バレてたか」
「やっぱ退屈だったか。まあここはミルドレス魔法学院に比べるとレベル低いだろうからなぁ」
今の俺にとっては、どこも同じくらいなもんだが。
「昼から実技の授業があるから、そこでは退屈しないと思うよ」
「それは良かった」
実技の授業なら、少しは退屈せずに済みそうだな。
「お腹減った来たし、一緒にご飯食べようよ。この学院には学食があるから、そこで食べよう」
「わかった」
俺はクルツと一緒に学食を食べに行く。
その途中、
「よう、黒髪。どこに行くんだ?」
「ははは、何で黒髪がこの学院にいるんだろうな。ぷぷ」
と言いながら、侮蔑するような目で俺を見る、3人の男子生徒に囲まれた。
「ははは、元ミルドレスの奴が来るって聞いたから、どんな奴かと思えば」
「黒髪とはなぁ、ははは」
こいつら、自己紹介していた時、笑ってた奴らだな。
同じクラスの奴らだ。
髪の色は白髪と青髪と金髪の男子生徒3人。
白と青はこの時代では、1番優秀とされている髪の色。
金髪は、2つに次ぐくらい、優秀とされている色だ。
恐らく、この学院では優秀な方なので、いきがってるんだろうなこいつらは。
こんな奴らの相手をする必要はない。
無視して行こうと思い、クルツを見たら、びくびくと震えている。だいぶこいつらにビビってるみたいだ。
「行くぞクルツ」
そう言いながら、クルツの腕を掴み行こうとした。
「おっと、どこに行こうとしているんだ?」
白い髪の男子生徒が通せんぼする。
「飯食いに行くんだよ。邪魔だからどけ」
俺は、通せんぼして来た男子生徒を、睨みつけながら言った。
「お? この黒髪、このギーシュ様に楯突くつもりか?」
「ははは、この学院に来たばかりで、ギーシュが、学年じゃトップクラスの実力の持ち主だって、知らねぇだろうからなぁ」
「分からせてやるか?」
「まあ待て。おい黒髪! さっきの無礼な発言、ごめんなさい、もう2度と言いませんギーシュ様と、言ったら許してやる。さあ言うんだな」
はぁ~。
こいつら馬鹿な奴だなぁ。
程度が低すぎるっていうか。
ミルドレス魔法学院の奴らは、ハブっては来たが、絡んでは来なかったから、まだよかった方なのかもしれんな。
しかし、前世の知識を得る以前は、こんなこと言われたらへこんでたかもしれないが、今は何とも思わんな。
逆に言った奴らが、哀れに思えてくるくらいだ。
「ル……ルド。ギーシュ達は本当に強いから、謝っておいた方がいいよ。僕も一緒に謝るからさ」
クルツが小声でそう言って来た。
そうだなぁ。
変に騒ぎを起こすのも何だから、謝るのもありではあるが……
でも、俺もプライドがゼロって訳じゃない。
ここまで馬鹿にされて、大人しく頭は下げれんだろ。
「いいから、どいてくれ。腹減ってるんだこっちは。これ以上邪魔したら実力行使するぞ」
「あぁ?」
「ル、ルド!?」
俺がそう言った瞬間、ギーシュは俺を睨みつけ、クルツは驚いて目を見開き俺の方を見た。
「お前、今何つった?」
「どけって言ったんだよ。最初からそう言ってるだろ? 邪魔なのお前ら」
「……」
俺の言葉を聞いたギーシュは、無言になりピキピキと額に青筋をたてる。
あーだいぶ怒ってんな。
「どうやらお前には、自分の立場ってもんを分からせてやる必要があるな」
ギーシュは少し下がり、そして、
「火よ、この手に集い……」
呪文を唱え出した。
まじか。魔法使う気なのかよこいつ。
この呪文はフレイムだ。
フレイムは、火属性の下級攻撃魔法。
下級とはいえ、当たったら無事では済まない。
仕方ない、相手から喧嘩を売って来たんだ。
実力行使だな。
俺はある魔法を無詠唱で使った。
そして、
「敵を……がっ!」
呪文が最後まで唱えられる事はなかった。
俺が素早く動き、ギーシュの顎を殴ったからだ。
「ギーシュ!」
「何だ今のは!?」
ギーシュは俺に殴られ気絶した。
ちょっと力の加減を間違えたな。
詠唱を止めるだけにするつもりだったが、気絶させてしまうとは。
「てめぇ何をした!?」
「素早く動いて、素早く殴っただけだ。気絶させるつもりは無かったがな」
「馬鹿を言うんじゃねー! 魔導士がそんなに早く動けるわけがねぇ!」
「動けるんだから仕方ないだろ。お前らそいつ連れて、さっさとどっかいけ」
俺は睨みをきかせてそう言った。
ギーシュの取り巻きの男子生徒2人は、さっきギーシュがやられた所を間近で見ていた為、怯んだ。
そして、ギーシュを連れて逃げるようにこの場を去って行った。
「凄いね! ルド! 何してるか見えないくらい早く動いてたよ! 魔導士なのに、凄い身体能力を持ってるんだね!」
クルツが感心したように言ってきた。
ちなみに俺は運動は苦手だ。
さっきの動きは、身体能力を強化する魔法、《フィジカルアップ》を使ったからできたのだ。
現代には、身体能力を強化する魔法は存在しない。
だから、無詠唱で唱えても魔法を使っているとは思われず、凄い身体能力を持った奴だと思われただけで済んだのだ。
魔法使いで高い運動能力を持っている者は、かなりレアだから、そういう意味では不自然に思われたかもしれないが。
ちなみに、身体能力を強化する魔法は、前世の時代では、結構ポピュラーな魔法だった。
ほとんどの魔導士が使っていたようだが、現代ではそんなありふれた魔法すら失われてしまっている。
何があったらこうなるんだろうと、魔法技術が失われた理由に若干興味が湧いてきたな。
どうやって調べればいいのかはわからんがな。
「じゃあ、飯食いに行こうか」
「うん」
俺とクルツは昼飯を食べて、その後、実技の授業が始まった。