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第2話 編入

 前世の知識から、現代の魔法技術はものすごく遅れているということが判明した。


 どう遅れているのかというと、現代は絶対的に魔法の数が少ない。

 修行法などが正しくない。

 魔法は呪文を詠唱しなければ使えないとされているが、実際は無詠唱でも使うことが出来る。


 そして、黒髪は決して劣等ではないらしい。

 それどころか、どちらかと言えば優秀らしいのだ。


 黒髪が劣等とされていたのは、魔力の質が悪いからというのが定説だが、これは間違っている。


 そもそも魔力に質なんてものはない。あるのは種類だ。

 魔力は種類によって、どんな使い方をすればうまく使えるのかが決まっている。


 例えばこの時代、優秀とされている、白や青の髪色を持つ者達は、呪文を詠唱して魔法を使うことに向いている。

 黒髪は無詠唱で魔法を使う事に向いている。


 現代では詠唱しなければ、魔法は使えないと思われている。

 無詠唱で魔法を唱えるという概念は無い。

 黒髪は詠唱して魔法を唱えると、逆に威力が落ちてしまう。

 そのせいで、黒髪は現代では劣等として扱われているのだ。


 この無詠唱魔法が得意と言うのは、本来かなり優秀な特性なのだ。

 わざわざ詠唱して魔法を使うより、無詠唱で使ったほうが素早くて、強いからな。

 

 しかし、前世の時代に比べると、現代の魔法技術は物凄く衰退してしまっているな。

 どういう流れで衰退してしまったのだろうか。

 大きな戦争が起きたとかかな? まあ、それは今はどうでもいいか。


 何だろうか、この知識を得てしまったら、学院を退学させられたとか、なんかどうでも良くなってきた。

 あー色々考えてたら、頭がまた痛くなって来た。


 顔洗って飯食ってそれから考えよう。


 俺を洗った後、宿にある食堂で飯を食った。





 さて飯を食ったら、だいぶ落ち着いたか。


 あーそもそも俺は魔法学院を退学になって、賢者になれなくなったって、絶望してたんだよな。

 でも正直よく考えたら、この知識があれば夢である賢者には普通になれそうな気がする。

 と言うのも、魔法の使い方まで分かるし、効率的な魔力の上げ方とか、いろいろ知ってるし。


 そう考えると、今の状況はめちゃくちゃいいのでは?


 前世のクラウドには感謝しないといけないな。


 ただ賢者になるには、魔法学院を出ているのが必須だ。

 国に仕えている魔法使いの中から、大きな功績を残した者が、国王から賢者の称号を与えられる。

 国に仕えるには魔法学院を卒業しないと、難しいだろう。


 今は入学の時期ではないし、編入となると、難易度が上がるが、試験を受けさせてもらえば、受かる自信はある。

 ほとんどの学院は黒髪と言うだけで、実力を試されるまでもなく、門前払いされるだろうけどな。


 でも一応行ってみるか。


 それと、この魔法技術の知識のこれからの扱いだ。


 前世の知識の中にあった魔法技術には、知られたら大きな魔法革命が起こるかもしれないほど、革新的な物がある。


 無詠唱で魔法を使える、というものそうだ。

 知られたら、根本から現代魔法の常識を覆す事になりかねない。


 どんな影響はあるかは分からないが、下手したら大きな戦争が起きて、大勢の人が死ぬかもしれない。


 確かにこの技術を世間に知らしめて、ちやほやされたい気持ちもないわけではないが、さすがに俺の持っている知識のせいで、人がたくさん死んでしまうというのは嫌だ。


 なるべく隠しながら、賢者になりたい思うが……


 でも、そうなると、無詠唱で魔法が使えなくなるのか。

 それはまずいな。詠唱しない魔法が使えないのでは、今までと同じく魔法の威力が落ちてしまうぞ。


 ……いや、大丈夫か。いい方法を思いついた。

 この方法なら、バレないな。


 よし、世界を変えるレベルの、革新的な魔法技術は隠した状態で、賢者を目指そう。


 とにかく、どっかの魔法学院に入ろうじゃないか。


 あ、でも金がないや。返してもらった入学金あるけど、あれじゃあ足りない。


 知識の中に、石を金に変える魔法があった。これを使えばある程度、金は稼げそうだな。

 現在の魔力量では、たいした量は作れないけど、入学金くらいなら何とかなる。


 ……後この魔法が知られたら、金貨の価値が変わって大変な事になりそうなので、よっぽど金が欲しいとき以外は使わないようにしよう。


 そう心に誓い、その辺に落ちている石を拾って、魔法を使いそれを金に変えた。

 その金を近くにある店で換金した。



 この国には多くの魔法学院がある。


 ただそのうち、きちんとした魔法学院は15のみ。

 それ以外のは、金持ちが道楽で簡単な魔法を学ぶ為に作られたような魔法学院である。


 ミルドレス魔法学院は、そのちゃんとした魔法学院のうち7番目くらいにレベルの高いとされている、魔法学院だ。


 うーんと、黒髪でも入れるっていう魔法学院は……

 俺の記憶ではミルドレス魔法学院を除いて5つだな。


 とりあえず、その5つの中で1番レベルの高いとこに行くか。

 こっからも近いしな。


 俺は黒髪でも入れる学院の中で1番レベルの高い学院。

 ハルレーン魔法学院に向かった。




「駄目だ」


 学院の門の手前。

 門番から門前払いされた。


「何でですか。ここ黒髪でもいいんですよね。編入は受け付けてないんですか? 金はありますよ」

「受け付けていないわけではないが、お前みたいな黒髪に貴重な時間を割くわけにはいかん」

「全員受けれないんですか?」

「黒髪は駄目だ。この学院では編入の試験は普通の試験より、ハードルを高くしている」

「でも、試験受けるだけなら」

「駄目だ駄目。帰れ」


 うーん駄目だった。

 次はクーレン魔法学院に行くか。

 ちょっと遠いが一応ここは今日中にいける。


「推薦はあるか?」

「無いです」

「じゃあ駄目だ」


 クーレン魔法学院は、推薦がないと編入できないみたいだ。


 他の2つの魔法学院にも行ったが断られた。

 うーん駄目か?

 来年まで待つか?

 でも、1歳年下と同じクラスってのもなぁ……


 試してない学院は残り1つ、アルバレス魔法学院。

 できればここは避けたかった。

 この学院のレベルはまともな魔法学院のうち1番低い。

 作られたのが比較的最近で、最初のうちは上手くいっていたようだが、徐々に才能ある生徒が入学して来なくなり、低レベル化していった。


 まともな魔法学院と言ったが、もはや学院生のレベルはまともじゃない学院と大差ないとの話だ。


 この学院ではよっぽどいい成績を残さないと、国に魔導士として仕えることはできないだろうが、まあでも前世の知識があるから大丈夫か。


 アルバレス魔法学院も入れてくれるかは分からないけど、行ってみよう。


 結構ここから遠い。

 3日くらいかかる。


 アルバレス魔法学院がある、ローライトへ行く竜車を町の中から探した。


 無事見つかり、さっそく竜車に乗り、ローライトへ向かった。


 3日経ってローライトへ着いた。

 金を払って、竜車から降りた後、アルバレス魔法学院を探す。


 聞いたらすぐ見つかった。

 この町では、学院は非常に有名な場所のようだ。

  

 さっそく学院に向かい、到着した。

 

 学院の外見は新しい学院らしく、非常に綺麗だった。


「あの、アルバレス魔法学院に編入したいんですけど」

「推薦状はありますか?」


 げ、ここでも推薦状要るんか。


「無いです」

「そうですが、ではお引取り……」

「ちょ、ちょっと待ってください。どうしてもこの学院に通いたいんです! 何とかなりませんか!?」


 ここが駄目なら、今年は行けなくなる。

 何とか粘り強く交渉してみよう。


「しかし、規則ですので」

「お願いしますよー。そこを何とか! 俺ミルドレス魔法学院を退学になっていく場所がなくなったんです」

「ミルドレス魔法学院?」


 お? 食いついた?


「ミルドレス魔法学院に在籍していたのですか?」

「ええ! 成績不振で退学になってしまいましたが」

「ふむ、そうですか。何か証拠となるものは?」


 証拠……?

 制服は一応あるよな。

 返せっても言われなかったし、捨てようと思ったけど、買ったものなので勿体無かったから捨てれなかった、制服だ。


「ちょっと待ってくださいね」


 俺はバッグから制服を取り出す。


「これです」

「これはまさしく、ミルドレス魔法学院の制服ですね。なるほど……」


 門番の人は何か考え込む。


「ちょっとお待ちください」


 そう言って、門を開け中に入っていった。

 もしかして、試験を受けさせてくれるのかな?

 そうだったら嬉しい。


 その後、しばらくして門番の人が、ローブを着た男を連れて戻ってきた。


「私はウルベルト・ロシュテス。アルバレス魔法学院の教師だ。よろしく」


 門番に連れて来られた男、ウルベルトは、仏頂面のまま俺に握手を求めてきた。


「ルド・アーネストです。こちらこそよろしくお願いします」


 俺はそう言いながら、握手を返した。

 軽く握手をして、すぐ離した。

 手を離したあと、ウルベルトは値踏みするかの様な目で、俺を観察してきた。


「黒髪だね」

「はい。ウルベルトさんは白髪はくはつですね」


 白髪は杖なしの詠唱魔法が得意な髪の色である。

 現代では一番良い髪の色と扱われていたが、前世の時代では一番不遇な髪の色だった。


「黒髪でミルドレス魔法学院にいたという事は、筆記が得意なのかい?」

「ええ、得意ですよ」

「ふーむ、そうか。君は杖は使わないんだな」

「はい」


 現代の魔法には杖を使う魔法と、使わない魔法に分かれている。

 杖は重くて邪魔な上に、使える魔法の種類を限定されるなど、デメリットがあるが、魔法の威力を飛躍的に上げてくれるという、メリットもある。

 杖なし魔法は、色んな魔法を使えて使い勝手が良くなるが、威力は低い。

 一長一短である。

 

 ちなみに前世の時代でも、杖を使う魔法はあった。

 杖を使う場合は、無詠唱魔法を使うことが出来ない。ただ、それでも使う者は結構いた。

 前世の時代は、杖も現代より性能が良く、現代の杖が魔法の威力を通常の1.5倍にするのに対し、前世の杖は4倍まで上げることが出来る。

 

 前衛は無詠唱魔法を使う者が、後衛を杖をありで魔法を使う者がと、前世の時代では戦う際、綺麗に役割分担をしていたようだ。


「さて、どうするか……」


 ウルベルトはしばらく考える。


「よし、決めた。君には筆記試験と実技試験を受けてもらうから、それに受かったら編入を許そう」

「本当ですか!」


 おお、試験を受けられるみたいだ。

 試験を受けられさえすれば、多分受かる、きっと受かる。


「まずは実技だ。付いてきたまえ」

「はい!」


 俺は元気な声で返事をして、ウルベルトの後を付いて行った。





「さて、まずは実技試験を行う。単純に魔法の威力を測る。4属性の下級魔法である。《フレイム》、《アイススピア》、《サンダーボルト》、《ロックニードル》の魔法をこの計測板に打ち込んでくれ」


 金属の板が目の前にある。

 計測板だ。

 あれに向かって魔法を放てばいい。


 さて、魔法だが。

 俺は詠唱して魔法を撃つと、威力が弱まる。

 ただし、無詠唱で撃つと確実に騒がれる。


 ここで1つ方法がある。


 無詠唱で魔法を発動させながら、あたかも詠唱して魔法を使っているよう見せる為、呪文を唱えながら魔法を使う。


 無詠唱で魔法を使う時と、詠唱して魔法を使う時とでは、全く別の回路を使って魔法を発動させる為、無詠唱発動させている魔法を、あたかも詠唱して発動させているように見せるのは可能であるのだ。


 やってみよう。


 まずは無詠唱魔法を発動させる。


 思い出したのは知識だけではなく、魔法の使い方のコツや感覚なども思い出しているようで、魔法を使うのにはまるで苦労はしなかった。


 発動すると同時、カモフラージュの為の詠唱をする。


「《火よ、この手に集い敵を焼け》!」


最初に使ったのは《フレイム》の魔法。

 俺の手のひらから、強烈な火の玉が飛び出し、計測板に当たり、爆発した。

 ここまでの威力の魔法を撃ったのは初めてだ。


「……なんと……」


 アルベルトが、驚きながら俺の魔法を見ていた。


「今のは計測結果を見るまでもなく、高威力だと分かる。君は本当にミルドレス魔法学院を、退学させられたのかね」

「ええ、そうですが……」

「信じられん。黒髪の者がこのレベルの威力を……ミルドレス魔法学院のレベルはかなり上がったのか?」


 ちょっと威力を強くしすぎたみたいだな。

 優秀な生徒に見られるのは問題ないが、不信感を持たれるのは避けたい。

 今度は少し弱めに魔法を使うか。


「じゃあ、続いて魔法使います」

「う、うむ」


 続けて魔法を使った。

 だが、うまく威力が調整できず、強い威力になった。


 どうも、経験や感覚は思い出してはいるが、体が変わった影響か、まだそこまで魔法を操りきれてないみたいだ。

 ウルベルトがあんぐりと口を開けて、俺が魔法を使う様子を見ている。


「これは……うむ……素晴らしい……筆記試験は受けないでいいくらいだが、一応受けてくれ。ただ君なら合格間違い無しだろう」

「ありがとうございます!」


 よかった。とりあえず合格出来たか。


 筆記試験は得意だ。

 普通に高得点を残した。


 ウルベルトは満足げな表情で俺の答案を見ながら、合格を言い渡した。


 俺はアルバレス魔法学院に編入する事になった。






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