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第1話 退学

「ルド・アーネスト。君をミルドレス魔法学院から退学処分とする事が決まった」


 嫌な予感は的中した。


 俺の担任の教師である、アルバースに呼ばれた時からそんな予感はしていたんだ。


 劣等生の俺が、アルバースに呼ばれる理由は大体悪い理由だ。

 退学というのも、ここ最近の俺の成績から十分に予想がついた。


「何故退学なんですか?」


 退学の理由は推測できていたが、一応尋ねてみた。


「君の魔法学院での成績を見る限り、当学院に相応しくないと判断した。全校生徒の中で実技が3ヶ月連続でダントツの最下位。筆記はそれなりに優秀だが、飛び抜けて優秀という訳ではない。向上心はあるようだが……こうもダメなら退学になってしまうしかない」

「待ってください! ここで退学になるのは嫌です! もうちょっと待ってくれませんか!?」

「決まった事だ」

「そこを何とかなりませんか? 俺はどうしても【賢者】になりたいんです」


 魔導士として、最高クラスの実力を持った者は賢者という称号を与えられた。

 賢者は魔導士にとって最高に名誉な称号である。

 憧れる者も多くの俺も賢者になるという夢を見て、この魔法学院に入った。

 幼い頃からその夢を見ていた俺は、どうしても諦めきれなかった。


「駄目だ。君は自分が魔法に向いていない《黒髪》だと、自覚するべきだ」

「っ!」


 魔法使いに向いているか向いていないか、それは髪の色を見れば一目でわかる。

 黒い髪の者は向いておらず、白い髪や青い髪をした者は向いていた。

 自身の持つ魔力の質により髪の色は変わるらしく、黒髪の者は質の悪い魔力を有していた。


 もっとも、向いてないとはいえ、黒髪が絶対に賢者になれないわけではない。

 100人いる賢者の中で1人だけ黒髪の者がいる。


 俺も黒髪ながら魔法学院に入れるほどの実力は持っていたので、黒髪の中では才能のあるほうだった。

 あくまで黒髪の中だけではだが。


「黒髪でも……賢者になるほどの実力をつけた人はいます……俺だって頑張れば……」

「君にそれだけの才はないよ」

「そんな事……魔法は晩年に開花する例もあるといいます! 俺だって」

「黒髪である君がそうである可能性は、凄まじく低いだろう。諦めきれないのも分かるが、はっきり言うが時間の無駄だ。決まった事を覆すことはできない」

「く……」

「他にも魔法学院はある。まあ君を入れてくれる魔法学院があるかは知らないがな……それにしてもやはり問題があるな。君みたいな劣等である、黒髪が入れるようになっている、この学院のシステムは。試験官が筆記試験を優遇しすぎる傾向にある。この問題は早急に対処する必要がありそうだ。このレベルの生徒に枠を取られるのは魔法界の損失であるからな」


 後半はブツブツと呟くように、アルバースは言った。

 聞こえてないように言ったつもりかもしれないが、俺の耳には、はっきりと聞こえた。

 怒りと悔しさで頭がどうにかなりそうになる。


「さ、早く出て行きたまえ。私の貴重な時間を君ごときにこれ以上使わせるな。さっさと自分の部屋に戻り、荷物をまとめてこの学院から出て行きたまえ」


 ぶんぶんと手を振り、俺を部屋出るよう指示する。

 もはや何も言い返せない。

 俺は大人しく部屋から出た。


 部屋から出た瞬間、涙があふれ出てきた。


 悔しい。悔しい。悔しい。


 何で俺は黒髪に生まれてきたんだ。

 何でもっと魔法がうまく使えるよう、生まれてこなかったんだ。


 あんなに馬鹿にされても、現在の俺の魔法の実力が底辺なのは事実だ。

 何も言い返せない。


 悔しくて悔しくて、涙が止まらない。


 俺はボロボロと泣きながら自分の部屋に戻り、荷物をまとめて学院から出た。



 俺は荷物をまとめて学院の門から出ようとしていた。


 あれから涙が枯れるまで、泣き続けた。

 今はもう、涙も枯れ、湧き上がっていた怒りや嫉みの感情も涙が枯れると共に消え去っていき、俺の心中には絶望感のみがあった。


「ルド君! 待って!」


 聞き覚えのある女の子の声が、背後から聞こえた。

 俺はゆっくりと振り向く。


「ミナ……」


 ミナ・ハーライト。

 同じクラスだった女の子だ。

 平民の俺と違い貴族出身の子で、美しく育ちのいい女の子だ。


 そんなミナだが俺と同じく黒髪だった。

 ただ俺よりは少し魔法を扱う才能がある為、退学にはならなかったのだろう。

 才能があるといっても黒髪なので、やはり実技においては下位なのだが。


「ルド君がいなくなったら、私……耐えられないよ……」


 黒髪の俺とミナは他のクラスメイトからはぶられていた。

 いじめを受けていると言うわけではないが、徹底的に無視されていた。


 俺とミナは、それぞれお互い以外に話せる相手がいなかった。


「ごめんな。約束守れなくて……一緒に卒業して賢者になろうって約束したのにな」


 枯れたと思っていた涙が、再びこみ上げてきた。

 しかし、ミナの前で泣くわけには行かない。俺はグッとこらえる。


「退学取り消してもらえないかな……私かけあってみるよ」

「無理だ。先生は俺を塵を見るような目で見ていた。取り消しなんて絶対に無理だよ……」

「そんな……」


 ミナは俯く。


「俺はもう退学になって……賢者にはなれないけどさ……ミナは……ミナは頑張って卒業して賢者になってくれよ。俺の代わりにじゃないんだけど。とにかく頑張ってな」

「…………」


 口下手な俺はうまく伝えられなかったかもしれないが、思いを伝えた。


「じゃあ、俺はこれで……」

「あの! ルド君! 私……!」


 ミナがそう言って、俺の右袖を掴んできた。


「……何……?」

「……ごめん、何でもないの。元気でね……」


 小さな声でそう言って、ミナは袖からゆっくりと手を離した。

 その声は僅かに震えているように聞こえた。


「ミナも元気でな」


 俺は最後にそういい残し、学院を去った。

 ミナに背を向けた瞬間、俺は再び涙を流した。


 俺はミナのことが好きだった。


 うん、そうだ、生まれて15年、恋愛の経験など一切無いが、多分あれが女の子を好きになるって感情なんだと思う。


 思い上がりかもしれないけど、もしかしたらミナも俺のことが好きなのかもしれない。


 最後に告白していれば良かったのか? 


 いや駄目だ。


 この学院を去る者から告白など受けても、どうしようもないだろう。


 もしミナが俺に好意を抱いているのなら、告白など彼女の賢者になるという夢の足かせにしかならない。


 もう二度と彼女と会うことは無いと思うと悲しいが、これも運命だ。

 潔く諦めるしかない。


 ……これからどうするか。


 もはや賢者になるという夢は絶たれた。

 実家に帰るか?

 絶対に賢者になると言って反対を押し切って俺は魔法学院に入った。

 どの面下げて帰ればいいのだろうか。


 この魔法学院は首になったが、他にも魔法学院はある。


 ただ俺にまともな魔法学院に入れるのだろうか。


 このミルドレス魔法学院は、数少ない黒髪でも入れるまともな魔法学院の1つだった。

 ミルドレス魔法学院は将来魔法研究者になれるような人材を、育てることに特に力を注いでいる学院だ。黒髪でも頭が良ければ入ることは可能である。

 ただ、さすがに3期連続で実技試験、最下位な俺は退学になるようだが。


 俺が今から入れそうな魔法学院は、国内でも低レベルで、卒業してもでまともな職にありつけないような所ばかりだと思う。


 そんな所にいって何になるのだろうか?


 いっそ、冒険者にでもなったほうがいいのか?


 考えがまとまらない。


 ミルドレス魔法学院は少し街の外れにある。

 一旦街の宿にでも泊まって、考えをまとめよう。


 学費として払っていた金が、いくらか手元に戻ってきたし、しばらくは生活可能だ。


 俺は街の宿に向かった。





 時刻は夜。

 宿に行き考えをまとめていたが、うまく纏まらなかった。


 レベルの低い学院に行くにも、冒険者で魔導士の1人としてパーティーに入るのも、俺のやりたい事では無かった。


 俺が今まで魔法を勉強して来たのは全て、賢者になるためだ。


 賢者はこの国、レーノルド王国ではもっとも名誉ある存在。


 彼らの華々しい活躍を聞くたび、胸を躍らせていた。


 いつだったかは覚えてすらいないほど昔から、賢者になりたいというのは、俺の夢になっていた。


 賢者になれないなら、魔法を勉強する意味なんてもう……

 でも、俺には魔法しか取り柄がない。


 学院では落ちこぼれ扱いされるような、魔法以外に俺は何の取り柄も無いのだ。


 はぁ~……と俺は大きなため息を吐く。


 結局いい考えなんか出ない。


 夜も更けて来たし、今日はもう寝よう。


 俺はベットに入り眠りにつこうとした。

 すると突然。

 強烈な頭痛が襲って来た。


「っ!?」


 まともに声も上げられないほどの、強烈な頭痛。

 俺は頭を抑えベットから転げ落ちた。


 何だ何だ!? 何だこの頭痛は!?


 ここまで強烈な頭痛は生まれて初めてで、軽くパニックになる。

 頭痛は一向に治まらず、痛みはさらに増してくる。


 そのまま俺は痛みで気を失った。





 気付いたら朝になっていた。


 床に倒れて寝ていたため、体の節々が痛い。


 何だったっけ昨日は……


 そうだ。強烈な頭痛が襲ってきて……そのまま気を失ったのか。

 もう頭痛はしない。

 何だったんだあれは。


 俺は体をゆっくりと起こして、立ち上がる。

 少しずつ頭が覚醒してくる。


 ……あれ?


 何だ違和感がある。


 うまく言葉で言い表せないが……


 何だろうか、 今まで知らない事が頭にあるというか。

 どういう事だ?


 転生? 術式? クラウド・レーブン? 無詠唱魔法? 優秀な属性?


 何だか知らない聞いた事の無い言葉逹が、頭の中をぐるぐるぐるぐると回り出す。


 パニックになりそうになる俺だが、1度深呼吸。


 冷静に、慎重に、自分の頭の中にある記憶を探り出していった。




 数分後。

 全てを理解した。


 俺は前世で得た知識を思い出したらしい。

 若干信じられないという気持ちもあるが、間違いない。


 順を追って説明しよう。


 俺の前世はクラウド・レーブンという魔導士だったらしい。


 クラウドは魔法を研究し、魔法のために生きたような男だった。

 ただし、最後の魔法の研究を終える前に、不治の病にかかってしまう。

 クラウドはもし寿命のうちに研究が終わりそうになかったらと、事前に転生の魔法を開発していた。

 転生し来世に生まれ変わるという術だ。

 クラウドはそれを使ったのだが、その魔法はおそらく失敗した。


 本来は知識を思い出させたうえで、さらに人格もクラウドのものになっていたはずだが、人格は俺のままである。


 クラウドからしたら残念だろうが、俺としては人格が奪われなくてよかった。


 それでここからが大事な所なんだが。


 どうやら、クラウドがいた時代は今の時代より、物凄く昔らしく。

 それこそどのくらい昔か、見当もつかないほど昔のようなのだが……


 どうやらその時代の魔法技術は、今より遥かに進んでいたようなのだ。





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