昔の話
むかーしむかしのおはなし…
かつてそこには国があったという。
栄え、富み、発展し続けた巨大で強大な国家。王の元に議会があり、議会の席には貴賎問わず賢者が座した。様々な技術を生み出し、生活は豊かになり続けた。国民を愛し、善政を敷き、長く平和を維持してきた。
巨大な国の周りには諸外国があったという。
巨大な国を羨みながら、巨大な国との国力の差を妬みながら、平和で不自由の無い生活を送る国々。巨大な国の恩恵を受けてたしかに何一つ不自由は無いが、どうしようとも巨大な国には到底及ばぬ力しか持たなかった。
ある諸外国の王が、他の小さな国々の王に言った。
「あの国が妬ましい」と。
また別の諸外国の王が言った。
「あの国が羨ましい」と。
また別の諸外国の王が言った。
「あの国が憎々しい」と。
いくつもの国の王達は思い思いにその感情を吐露した。同調の声がいくつもの王から上がり、中には止める者も居たが、その内誰も止める者は居なくなった。熱が上がり、熱狂し、感情は煮詰められ、やがて王達はただドロドロとした憎悪にて結託した。
「かの国の領土を切り分けるのだ。」
そう言ったのは軍事に秀でる国の王。
「かの国の技を奪うのだ。」
そう言ったのは魔法に秀でる国の王。
「かの国の富を分配するのだ。」
そう言ったのは商業盛んな国の王。
「かの国を切り刻むのだ。」
そう言ったのは誰とも分からぬ黒い人型。
濁り煮詰めた憎悪は王達を狂気に貶めた。
軍事に秀でる国の王は来たる時に備えて諸外国に武器を流した。
魔法に秀でる国の王は魔法使いを諸外国に派遣し魔法技術の指導を行った。
商業盛んな国の王は諸外国の経済を回す為に交易路を開拓、税率の調整を行った。
黒い人型はそれらを見ながら嗤っていた。
それらは普段であれば大胆ながらも時代を変える善政として歴史に刻まれたであろう行い。
武器は魔物からの防御率を上げ、魔法技術は生活を豊かに変え、経済は諸外国を潤したであろう。
しかしてそれらは全てかの国を殺す為の刃。
巨大な国の王はそれら政策を聞き、諸外国の発展を願い微笑んだ。
諸外国に武器が行き渡り、魔法技術が浸透し、誰もが飢える事が無くなった程に、巨大な国の王は諸外国の王達を『茶会』を誘った。
『茶会』にて、かの巨大な国の王は殺された。
惨殺された。
切り刻まれた。
その臓腑は生きたまま撒き散らかされた。
生命の尊厳は踏み躙られ、諸外国の王達は暗い笑みを浮かべていた。
黒い人型は優雅に紅茶を啜っていた。
かくして巨大な国との戦が始まる。
諸外国は何かに操られるかのように一丸となり、狂気的に、妄信的にただ自らの敵を滅ぼした。死を欠片も恐れぬ特攻に次ぐ特攻。人道をまるで無視した兵器の数々に、そこにあった巨大な国はなす術なく消えていった。
最後に残ったのはたった一人の国の王子。訳も分からぬ内に親を殺され、国民を殺され、国をも殺された。
この世を憂い
この世に狂い
この世を呪い
この世を恨み
この世を憎しみ
この世に苦しみ
そしてこの世を愛した。
略奪に酔った諸外国の目の前に現れた王子は、もはや人ではなかった。
この世の理を捨て果てた一人の怪物。寄り添うのは黒い人型。
まず怪物は恨みと憎しみを振りまきながら走った。軍事に秀でた国は暴虐の力を前に廃墟のみ残った。
次に怪物は憂いと苦しみを垂れ流しながら大地に潜った。魔法に秀でた国は何物でも無い力を前に死の大地へと姿を変えた。
最後に怪物は呪いと狂気を引きずりながら這いずった。商業盛んな国は怪物の流した涙を被り消え去った。
そこに居たのは一人の怪物。やがては怪物を残してこの世界は消え去るだろう。
未だ無事な小さな国々は土地を捨て、寄り集まり、自らが生み出した怪物を恐れた。残された技術、金銭、武具など力の限りを合わせて一人の青年を送りだした。
怪物を討つ為、青年は歩き出す。かつて巨大な国があった場所へと。
『魔王』を討つ為に、青年は戦いに行く。
たった一人、送り出された。
それが、およそ三百年程も昔の話。
黒い人型はニヤニヤと笑みを浮かべて、かつての巨大な国の王城にて赤黒く染まった玉座に腰かけていた。
ちなみに設定は既に出し切ったのでこれから考える所存